6 実技試験

「どうした? 私に逆らうつもりなのか」

 顔を上げたシンに、理事長は氷のような微笑みを浮かべて問う。
 ふいにシンの頭の中に見知らぬ呪文が浮かんだ。習ったことも、魔法書のページの中にもない呪文だ。だが頭の中の鮮明な呪文は、それまで知らなかった事が嘘のようにシンの口から紡ぎ出された。両手に集めた魔力を最大限に使う。シンを中心として地面に黒い模様が円のように浮かび、それはすぐに黒い炎となった。
 警戒した理事長が別の呪文を唱える。追加で魔法をかけるつもりだ。

「‼︎」

 シンが力を振り絞って唱えた真っ黒な炎は、あっという間に理事長を飲み込んだ。
 理事長は炎に包まれたように見えたが、すぐに白い光がそれをさえぎる。防御と回復の呪文だ。

 シンは自分の放った黒い炎の呪文に恐怖を覚えた。理事長に大怪我を負わせてしまうかもしれない、自分が魔法で誰かを殺してしまうかもしれないという恐怖心が、急速に黒い炎の威力を弱めてしまう。
 
 炎が途切れた時、理事長は無事だった。元のような白銀の髪に白い肌、少しも焼けただれた所はない。ほっとしたシンは、理事長の表情を見てすぐに後悔した。相手は宮廷魔法使いだ。力を緩めるべきではなかった。
 
 シンを目に見えない理事長の魔法が襲った。シンの喉は締め付けられ、声が出せない。かろうじて息は出来るが、手も足も先ほどよりさらに強い力で押さえつけられ、自分の意思では動かせなくなった。
 この魔法には覚えがある。昔、囚われの身だった時にシンの身体にいつもかけられていた魔法だ。だが、今回は一つだけ違う点があった。目の前が真っ暗になってしまって何も見えない。かろうじて声は聞こえるが、それはおそらく理事長がわざと聴力を奪わなかったからに違いない。

 声を出せずにその場に倒れたシンに、理事長が近づく。シンからは見えなかったが、理事長は火傷の跡を完全に回復させると、焼け焦げた上着と手袋をその場に捨てた。

「魔法防御に優れた衣装にこれほどダメージを与えるとは、さすがは黒竜の血をひいているだけの事はある。君が完全に私の言う事を聞いてくれるならこのような魔法をかけなくてもすむのだが」


「……」

「これ以上逆らおうなどと考えない事だ。君の行動次第では君を育ててくれた両親も、お兄さんも反逆者として罪に問われる事になる。この国で反逆者がどうなるか、知らない訳ではないだろう? 君もそんな後味の悪い事はしたくないと思うがね」

 自分が理事長に逆らったら、家族が反逆者として罪に問われる……その言葉がシンを打ちのめし、理事長に逆らう気力を失わせた。
 ぐったりと力を無くしたシンを見て、理事長は目を細めた。
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