6 実技試験

 しばらく呆然とその場に座り込んでいたシンだったが、獏がどうなったのか知りたくて森の出口に向かうことにした。だが、腰が抜けたのか足がふらついて思うように立てない。

「僕が……竜」

 これからどうすればいいのだろう。シンは混乱して思考がまとめられなかった。だが、グレンと一緒に行きたくなかったのは事実だ。魔力が高いなら兄と同じチームに入って、兄の力になりたい。血が薬の代わりになるのなら、できる範囲で協力するという形にはならないのだろうか。

 ごうっと風が吹いて、シンは自分のすぐ近くの草むらに見慣れない誰かの足を見た。
 そのまま視線を上げると、白いローブに身を包んだ学園の理事長が立っていた。その蔑むような表情に、シンは自分の考えが甘かった事を知る。自分はもしかしたら、人として見てもらえていないのかもしれない。

「君の試験会場は東エリアのはずだが」

 理事長は年よりずっと若く見える……とシンはそんな事を考えた。まさかシンの血を飲んでいるのだろうか。
 彼の魔力は蜘蛛の巣のようで、入学式で会った時から怖かった。忘れていたが、出会いは最悪だったのだ。理事長はシンがずっと囚われていた場所にいきなりやってきて、殺されそうになった事や、そのまま魔力を封印された事を思い出す。そんな記憶も全て奪われていた。

「……あれは獏の突然変異だね? 君がやったのかな」

「り、理事長……」

 理事長が一歩シンの方に足を進めただけで、シンの身体がすくんた。

「封印が解けている。記憶も思い出したのか? まさか獏が君の封印まで奪い取るとは……」

 シンは無意識にごくりと唾を飲み込んだ。

「どうしようか。もう一度記憶を奪うか、それとも魔物研究所に送るべきかな」

「い、嫌だ……」

 理事長が手のひらに濃い赤の魔法書を出現させた。分厚いその本の中には、シンの力を奪うありとあらゆる魔法が詰め込まれているはずだ。パラパラとページがめくられる。
 シンはローブの下の魔法書を手で探った。理事長にはとても敵わない薄さで、魔法もほんの少ししか覚えていない。どうやって逃げたらいいのかいい方法が思い浮かばない。

「僕は、記憶を奪われるのも、血を採られるのも……」

 最後まで言い終わらないうちに、理事長の魔法書のページが光ると、シンの身体に目に見えない重圧がかかった。身体を起こしていられなくて地面へ這いつくばる。反動で口の中を切ったらしく血の味が広がった。身体が動かない。

「うぐ……」

「ダレンとジオの顔を立てて、せっかくある程度自由にさせてあげていたのに、面倒な事をしてくれるね。君の血や魔力は王族にかなり期待されているから、いまさら嫌だと言われても困るんだけどね」

 身体が押し潰されそうで反論出来ない。ミシミシと身体全体が悲鳴を上げているような音がした。

「ゲホッ……」

 たまらず口から血を吐いたシンを見て、理事長はひとこと呟く。

「ああ、貴重な血が」

 その言葉を聞いて、シンの恐怖は怒りに変わった。身体中の血が逆流するような怒りに襲われ両手に魔力が渦巻く。地面に這いつくばったままじりじりと顔をあげ、理事長を見据えた。
12/18ページ
スキ