6 実技試験
血という言葉を聞いてシンの背筋に悪寒が走った。
思わずグレンの手を払いのける。
「な、何なんですか……? あなたは、何で僕の血を」
グレンは手を払い除けられた事など気にもしていないようだ。
「お前には、半分竜の血が流れている」
「えっ……?」
竜と聞いてもシンにはピンと来なかった。存在こそ知っていたが、竜は滅多に人里に出てくることがなく、遠く離れた辺境に住んでいるという伝説級の魔物で、被害を耳にした事もない。
「竜はこの世界最強の生物で、角や爪や鱗や肉、その全てに高い魔力を備えている。中でも素晴らしいのはその生き血が、飲み続ければ人を若返らせ、瀕死の怪我人や病人を生き返らせる最高の薬だという事にある」
「生き血……」
にわかには信じられない話だった。だが、過去の記憶の中で、シンはいつも血を抜き取られていた事を思い出した。
「だが竜は強く、倒せる者がほとんどいない。だから王家は、もっと簡単に竜の血を手に入れる方法を考えた。竜は人の姿にもなれるというから、子供を成せば、半分とは言え生き血が手に入るんじゃないかってな」
「そ、そんなの嘘だ……」
「何十年も失敗を繰り返し、大きな犠牲を払ってやっと一人の魔法使いの女が竜との間に子供を作ることに成功した。どういう方法をとったのかは不明だ。竜の谷から一人で戻った時には女は正気を無くしていて、子供を産んだ後しばらくして死んだからな。生まれた子供は目も髪も真っ黒で、高い治癒力と強い魔力を備えていた」
グレンの話はまるで別世界の事のようで、シンの心は理解する事を拒否していた。だが、一言一句呪いのように頭に入ってくる。
「おまえは竜の血をひく唯一の人間で、お前の髪と目が黒いのは黒竜の血をひいているからだ。黒竜は魔力が高いことで有名だが、その血を引く者が魔法学校の候補生なんて笑えるな」
「……あなたは誰なんですか? なんで候補生なのにそんな事知ってるんですか⁉︎」
シンは精一杯の勇気を出してグレンを睨みつけた。
「……俺はもとは王家に仕えていた魔法使いだ。秘密裏に黒竜の血を入手する任務を受けていた。お前の母親とも顔見知りだ」
王家の魔法使いと聞いてシンはびっくりした。目の前の男は大人びてはいるが、十代に見えるからだ。宮廷魔法使いといえば理事長と同レベルの実力という事になる。シンの表情に気づいたのが、グレンは口角を上げた。
「……言っただろう。竜の血には、若返らせる力があるってな」
「僕の血を……飲んでたんですか……?」
シンは吐き気を覚えた。目の前の男も、王家の人間も頭がおかしいとしか思えない。
「お前の血は、生粋の竜には劣るが、若返らせる力は確実にあるぜ。お前自身も、他の人間よりずっと長命のはずだ」
「……」
「だからシン、お前は俺と一緒に来い。今理事長に捕まったら、この先一生逃げられない。捕まって再び記憶を奪われるか、昔のように拘束されて、血を採られ続ける日々に逆戻りだ。下手したら血だけでなく身体も切り売りされるかもな」
グレンが差し出した手を、シンは再び払いのけた。
「あ、あっちへ行け! そんな話信じない! 僕は……竜なんかじゃない!」
走って逃げようとしたのに、力が抜けて足が動かない。その場にへたり込んだシンを、グレンはじっと見つめている。
森の入り口で爆発音が響いて、シンはそちらに顔を向けた。獏が炎魔法を使った音だろうか。森に火柱が上がっていて兄の姿がよく見えない。
「……愚かな奴だ。そのうち俺の言う事が理解できるようになるだろう」
グレンはそう言うと、一人で洞窟の奥へ姿を消した。
思わずグレンの手を払いのける。
「な、何なんですか……? あなたは、何で僕の血を」
グレンは手を払い除けられた事など気にもしていないようだ。
「お前には、半分竜の血が流れている」
「えっ……?」
竜と聞いてもシンにはピンと来なかった。存在こそ知っていたが、竜は滅多に人里に出てくることがなく、遠く離れた辺境に住んでいるという伝説級の魔物で、被害を耳にした事もない。
「竜はこの世界最強の生物で、角や爪や鱗や肉、その全てに高い魔力を備えている。中でも素晴らしいのはその生き血が、飲み続ければ人を若返らせ、瀕死の怪我人や病人を生き返らせる最高の薬だという事にある」
「生き血……」
にわかには信じられない話だった。だが、過去の記憶の中で、シンはいつも血を抜き取られていた事を思い出した。
「だが竜は強く、倒せる者がほとんどいない。だから王家は、もっと簡単に竜の血を手に入れる方法を考えた。竜は人の姿にもなれるというから、子供を成せば、半分とは言え生き血が手に入るんじゃないかってな」
「そ、そんなの嘘だ……」
「何十年も失敗を繰り返し、大きな犠牲を払ってやっと一人の魔法使いの女が竜との間に子供を作ることに成功した。どういう方法をとったのかは不明だ。竜の谷から一人で戻った時には女は正気を無くしていて、子供を産んだ後しばらくして死んだからな。生まれた子供は目も髪も真っ黒で、高い治癒力と強い魔力を備えていた」
グレンの話はまるで別世界の事のようで、シンの心は理解する事を拒否していた。だが、一言一句呪いのように頭に入ってくる。
「おまえは竜の血をひく唯一の人間で、お前の髪と目が黒いのは黒竜の血をひいているからだ。黒竜は魔力が高いことで有名だが、その血を引く者が魔法学校の候補生なんて笑えるな」
「……あなたは誰なんですか? なんで候補生なのにそんな事知ってるんですか⁉︎」
シンは精一杯の勇気を出してグレンを睨みつけた。
「……俺はもとは王家に仕えていた魔法使いだ。秘密裏に黒竜の血を入手する任務を受けていた。お前の母親とも顔見知りだ」
王家の魔法使いと聞いてシンはびっくりした。目の前の男は大人びてはいるが、十代に見えるからだ。宮廷魔法使いといえば理事長と同レベルの実力という事になる。シンの表情に気づいたのが、グレンは口角を上げた。
「……言っただろう。竜の血には、若返らせる力があるってな」
「僕の血を……飲んでたんですか……?」
シンは吐き気を覚えた。目の前の男も、王家の人間も頭がおかしいとしか思えない。
「お前の血は、生粋の竜には劣るが、若返らせる力は確実にあるぜ。お前自身も、他の人間よりずっと長命のはずだ」
「……」
「だからシン、お前は俺と一緒に来い。今理事長に捕まったら、この先一生逃げられない。捕まって再び記憶を奪われるか、昔のように拘束されて、血を採られ続ける日々に逆戻りだ。下手したら血だけでなく身体も切り売りされるかもな」
グレンが差し出した手を、シンは再び払いのけた。
「あ、あっちへ行け! そんな話信じない! 僕は……竜なんかじゃない!」
走って逃げようとしたのに、力が抜けて足が動かない。その場にへたり込んだシンを、グレンはじっと見つめている。
森の入り口で爆発音が響いて、シンはそちらに顔を向けた。獏が炎魔法を使った音だろうか。森に火柱が上がっていて兄の姿がよく見えない。
「……愚かな奴だ。そのうち俺の言う事が理解できるようになるだろう」
グレンはそう言うと、一人で洞窟の奥へ姿を消した。