6 実技試験

 シンは姿の変わった獏とグレンが戦うのを呆然と見ていた。
 グレンに防御の魔法をかけてもらったからだろうか、間近でかなり強い魔法が吹き荒れているのにシンはなんとか無事ですんでいる。
 グレンはといえば細身の長剣で獏と戦っていた。彼は魔法使いの候補生のはずなのに、そこらの騎士候補生よりずっと強そうに見える。しかも彼はその剣を魔法書のページから呼び出したのだ。それは間違いなく召喚系の魔法で、候補生の一年が会得している事自体が驚きだった。
 グレンが剣で戦うのは魔法が全く効かないからだったが、獏は切られてもなおすぐに治癒魔法で傷を回復させ、身体の周りに魔法の炎を出現させた。これでは接近することも難しい。

「おい!」
「えっ?」

 強い炎の魔法をまとったまま突進する獏をギリギリでかわし、グレンは呆けているシンのもとに走って来た。

「逃げるぞ」
「で、でも獏が……!」
「いいから来い!」

 獏はグレンに攻撃をかわされて森の木に激突したが、倒れる事なくゆっくりと向きを変えた。身にまとう魔法の炎が周辺の樹々を焼く。

「もとが獏だけあって、たいした知能はないな」
「でも、すごい炎だ」
「誰のせいだよ」

 グレンは冷たい目でチラリとシンを見ると、腕を引っ張って森の奥へと走った。樹々がたくさん繁っているおかげで、一直線に進む獏よりは少し速く進める。
 後方から樹々が燃えるような音、激突するような音が聞こえてきてシンは怖くて仕方がなかった。

 少し走った場所に大きな岩の壁が見えた。 壁には小さな洞窟がぽっかりとあいている。
洞窟の入り口は封鎖されていて、候補生の侵入禁止の文字と、入った候補生を失格とみなすという文章が添えられていた。
 そこまで全力で走ると二人は立ち止まった。

 獏の追跡が来ない。
 不思議に思ったシンが息を整えながら森の方を見ると、獏はシン達を追うのをやめて森の入り口に方向転換していた。入り口近くに獏に向かっていく数人の人間が見える。獏は新たに出現した複数の敵を攻撃する事に決めたようだ。

「あれは……」
「教師のお出ましだな。それに候補生もいる。命知らずな奴らだ」

 森の向こうに見えるのは、グレンが言ったように二人の教師と、それから候補生数人だ。
 シンは遠目に真っ赤な髪の生徒を見つけて衝撃を受けた。他の生徒はよく見えないが、あのシルエットはどれほど離れていてもシンには分かる。夢にまで見るほど会いたいのだから見間違うはずがない。

「兄さん……!」

 戻ろうとしたシンの襟首をグレンが掴んだ。

「は、離してください! 兄さんがいる。助けに行かないと……」
「あれはお前の兄じゃない。どちらかと言えば敵だな」
「な……」

 何故グレンがそんな事をいうのかシンには分からなかった。

「もう分かっているだろう。お前に兄はいない。学園の理事長はお前に流れる血と魔力を利用したいだけだ。それにお前が逆らった時は、お前の義理の家族は全員お前を殺す側にまわる」

 グレンの言葉に、シンは目の前が真っ暗になったような気がした。意識を取り戻す前に見た記憶を思い出して震えが走る。

「に、兄さんは……そんな事しない。いつだって僕を本当の弟みたいに可愛がってくれたんだ」

「騎士が主の命令に逆らえると思うか?」

 シンの視界が滲む。涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。泣いているシンの顎に、グレンが剣を持っていない方の手を添える。

「お前、俺と一緒に来い。そしてお前の血を俺に分け与えろ」
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