6 実技試験
獏だった魔物は一声鳴くと、翼を使ってゆっくりと空中に浮いた。
黒い翼を広げ、一声鳴いただけで衝撃派が伝わる。樹々の何本かがなぎ倒され、獏の鳴き声は遠い場所まで響いた。
圧倒的な魔力だ。シンが身体を起こすと、同じチームの騎士二人が離れた場所に倒れているのが見えた。完全に気を失っている。命に別状はなさそうだが、近づいてみないと分からない。
獏が鳴き始めたと同時に、森の樹々の間から人の形をした白い生き物が飛び出した。小さくてふわふわとしたそれは、甲高い声で叫び始める。
『非常事態です。北エリアに五つ星の魔物が出現しました。候補生の皆さんはただちに避難してください。非常事態です。教師たちは速やかに北エリアに向かってください。繰り返します……』
白い生き物は叫びながら森の四方へと飛び去って行く。
なんとかしないと殺される……。
シンは衝撃波から身を守ろうと、飛ばされた魔法書まで這って進んだ。
魔法書に手を伸ばした時、突如魔法書のページがパラパラと捲られる。それから光が差して、すぐ近くに魔法陣が現れた。攻撃や防御の魔法陣とは違う。移動するときに使われる最小の魔法陣だ。
「……」
陣の中に現れた人物を見てシンは固まった。灰色と茶色を混ぜたような髪の色、大人びた顔立ちの冷たそうな男。一度だけ会った事のある魔法使い候補生だ。名前は確かグレン。シンがAクラスの生徒からいじめられていた時に通りかかって魔法書を拾ってくれた男。
「どうして……」
グレンはその問いに答えず、濃い赤の魔法書を取り出すと、素早く魔法を唱えた。シンの身体に防御の魔法が追加される。
「来い」
腕を引っ張られてシンは焦った。
「あの……! 僕、走れません。怪我をして……」
「怪我? お前は怪我とは無縁だろ。自分をよく見てみろ」
シンは切られたはずの手のひらを見たが、傷はどこにも見当たらなかった。服がボロボロになっているだけだ。
「さすが不老長寿と言われるだけの事はある。すごい治癒力だな」
シンはグレンが何を言っているか分からなかった。
グレンを視界に入れた獏は、ゆっくりと方向を変えてこちらを見た。鳴くのはやめてしばらく新しく登場した生徒を眺める。眺めているだけではなく能力探知をしているらしい。そして翼を広げた。
「おい、お前がノロノロしてるから敵認定されたじゃねぇか」
グレンはそう言って魔法書を構えた。
***
『非常事態です。北エリアに五つ星の魔物が出現しました。候補生の皆さんはただちに避難してください……』
警報を鳴らしながら北エリアを飛ぶ白い生き物。
アルフレッドはちょうど二十頭目の魔物を倒したところだったが、それを見て近くにいたチームのメンバーと顔を見合わせた。
「非常事態?」
「五つ星の魔物だって……?」
ユーリは魔法書を閉じると、候補生第二位のレティシアに向き直った。
「レティ、探知できる?」
「ユーリ様の頼みなら」
レティシアが魔法を唱えて目を閉じ、しばらくして東を指さした。
「この先にある森の中、エリアの境界にただならぬ気配を感じますわ。試験会場では絶対にお目にかかれない大物の気配がしましてよ」
黒い翼を広げ、一声鳴いただけで衝撃派が伝わる。樹々の何本かがなぎ倒され、獏の鳴き声は遠い場所まで響いた。
圧倒的な魔力だ。シンが身体を起こすと、同じチームの騎士二人が離れた場所に倒れているのが見えた。完全に気を失っている。命に別状はなさそうだが、近づいてみないと分からない。
獏が鳴き始めたと同時に、森の樹々の間から人の形をした白い生き物が飛び出した。小さくてふわふわとしたそれは、甲高い声で叫び始める。
『非常事態です。北エリアに五つ星の魔物が出現しました。候補生の皆さんはただちに避難してください。非常事態です。教師たちは速やかに北エリアに向かってください。繰り返します……』
白い生き物は叫びながら森の四方へと飛び去って行く。
なんとかしないと殺される……。
シンは衝撃波から身を守ろうと、飛ばされた魔法書まで這って進んだ。
魔法書に手を伸ばした時、突如魔法書のページがパラパラと捲られる。それから光が差して、すぐ近くに魔法陣が現れた。攻撃や防御の魔法陣とは違う。移動するときに使われる最小の魔法陣だ。
「……」
陣の中に現れた人物を見てシンは固まった。灰色と茶色を混ぜたような髪の色、大人びた顔立ちの冷たそうな男。一度だけ会った事のある魔法使い候補生だ。名前は確かグレン。シンがAクラスの生徒からいじめられていた時に通りかかって魔法書を拾ってくれた男。
「どうして……」
グレンはその問いに答えず、濃い赤の魔法書を取り出すと、素早く魔法を唱えた。シンの身体に防御の魔法が追加される。
「来い」
腕を引っ張られてシンは焦った。
「あの……! 僕、走れません。怪我をして……」
「怪我? お前は怪我とは無縁だろ。自分をよく見てみろ」
シンは切られたはずの手のひらを見たが、傷はどこにも見当たらなかった。服がボロボロになっているだけだ。
「さすが不老長寿と言われるだけの事はある。すごい治癒力だな」
シンはグレンが何を言っているか分からなかった。
グレンを視界に入れた獏は、ゆっくりと方向を変えてこちらを見た。鳴くのはやめてしばらく新しく登場した生徒を眺める。眺めているだけではなく能力探知をしているらしい。そして翼を広げた。
「おい、お前がノロノロしてるから敵認定されたじゃねぇか」
グレンはそう言って魔法書を構えた。
***
『非常事態です。北エリアに五つ星の魔物が出現しました。候補生の皆さんはただちに避難してください……』
警報を鳴らしながら北エリアを飛ぶ白い生き物。
アルフレッドはちょうど二十頭目の魔物を倒したところだったが、それを見て近くにいたチームのメンバーと顔を見合わせた。
「非常事態?」
「五つ星の魔物だって……?」
ユーリは魔法書を閉じると、候補生第二位のレティシアに向き直った。
「レティ、探知できる?」
「ユーリ様の頼みなら」
レティシアが魔法を唱えて目を閉じ、しばらくして東を指さした。
「この先にある森の中、エリアの境界にただならぬ気配を感じますわ。試験会場では絶対にお目にかかれない大物の気配がしましてよ」