6 実技試験
「なんだコイツ。本当に北エリアの魔物か?」
野生の獏を、騎士二人が追いかけ回している。獏は騎士の振りまわす剣に傷つき、血を流していて、鳴き声を上げながら逃げ回っていた。
「弱すぎるだろ」
「皮膚はまあまあ硬いぜ」
シンは岩を降りようとしていたが、足を止め岩にしがみついて息を潜める。
あの二人は獏の恐ろしさを知らない。いや、騎士にとっては獏は恐れるような魔物ではないのかもしれない。
獏には悪いけど、倒すのを待って合流しようとしていたシンの耳に、すぐ近くでシュルシュルという音が響いた。
「え?」
ぬるりとした感触に左手を見ると、黄色い模様の小さな蛇が左手に巻き付いてくる所だった。
「うわ!」
黄色い蛇には小さな翼がついている。シンを見て口を開けた。
まずい。
とっさに振り払おうとしてバランスを崩し、うまく着地も出来ずに岩の下に転がったが、蛇はシンの腕から離れた。
痛みに耐えながら片手で魔法書を取り出す。空に浮かんでいた蛇に、シンは最初のページにあった簡単な火花の魔法を放った。
パチパチと音がして蛇は体を捩らせた。だが、それほどダメージは受けていない。
シンが持っている魔法は簡単な治癒魔法と、火花の魔法など攻撃系が少しだけ。状態異常を受けた時の回復魔法もなければ、防御する魔法もない。
それがこんなに心細いとは思わなかった。エリアが違うので魔物辞典もなく、目の前の黄色い蛇がなんの攻撃を仕掛けてくるのか分からない。だが、何か毒などの状態異常を起こす攻撃をしてくるのは確実だろうと思った。
シンはじりじりと間合いを取り、火花よりもっと威力のある炎の魔法を蛇に唱えた。だが、同時に蛇も口を開けて翼を震わせる。
「……!」
シンはとっさに両手で自分の顔をかばったが、身体の前面に痛みが走り、立っていられなくて地面に倒れた。
数秒が経過して、視界の端に黒焦げになった蛇がポトリと落ちたのが見えた。キラキラした魔法石が焦げ目の隙間から覗いている。
初めて、自分の力で魔物を倒せた……。
シンはぼんやりとそう思った。それも北エリアの魔物を一人で。
シンはゆっくりと身体を起こした。蛇が放ったのは風の魔法の一種だったらしく、両手に無数の切り傷が出来て、血が滴っている。制服もあちこちに裂け目が入っていた。
とりあえず治癒魔法を唱えようとしたシンは騎士の叫び声に気づいた。
「危ない! 避けろ!」
騎士の声の方を向くと、傷だらけの獏がこちらに突っ込んでくる所だった。
避けきれずに獏に衝突され、シンは一瞬呼吸が出来なくなった。衝撃で魔法書が少し離れた位置に飛ばされる。取りに行こうとしたシンの身体の上に獏がのしかかってきた。学園で飼われている獏よりかなり大きい。前足がシンの身体に置かれて、ミシリと音が聞こえるような気がする。
運悪くシンの唱えた治癒魔法は、全て獏が吸収してしまった。
「い、いたい……」
身動きも取れずに痛みに呻いていると、遅れてやってきた騎士二人が周囲を囲む。
「おいおい、何やってんだよ!」
「魔法を使え、魔法を!」
騎士二人はやはり獏という魔物の生態を知らないらしい。
「獏……は、魔法を吸収します……!」
圧迫された肺から声を振り絞ると、マジかとか騎士がつぶやく声が聞こえた。
「おい、お前の相手はこっちだ!」
自称リーダーの言葉を無視して、獏はシンの腕の血の匂いを嗅ぐ。
それから、シンの額に長い鼻を寄せた。魔力を吸い取られると恐怖したが、なすすべがない。
急に目の前が真っ暗になった。
野生の獏を、騎士二人が追いかけ回している。獏は騎士の振りまわす剣に傷つき、血を流していて、鳴き声を上げながら逃げ回っていた。
「弱すぎるだろ」
「皮膚はまあまあ硬いぜ」
シンは岩を降りようとしていたが、足を止め岩にしがみついて息を潜める。
あの二人は獏の恐ろしさを知らない。いや、騎士にとっては獏は恐れるような魔物ではないのかもしれない。
獏には悪いけど、倒すのを待って合流しようとしていたシンの耳に、すぐ近くでシュルシュルという音が響いた。
「え?」
ぬるりとした感触に左手を見ると、黄色い模様の小さな蛇が左手に巻き付いてくる所だった。
「うわ!」
黄色い蛇には小さな翼がついている。シンを見て口を開けた。
まずい。
とっさに振り払おうとしてバランスを崩し、うまく着地も出来ずに岩の下に転がったが、蛇はシンの腕から離れた。
痛みに耐えながら片手で魔法書を取り出す。空に浮かんでいた蛇に、シンは最初のページにあった簡単な火花の魔法を放った。
パチパチと音がして蛇は体を捩らせた。だが、それほどダメージは受けていない。
シンが持っている魔法は簡単な治癒魔法と、火花の魔法など攻撃系が少しだけ。状態異常を受けた時の回復魔法もなければ、防御する魔法もない。
それがこんなに心細いとは思わなかった。エリアが違うので魔物辞典もなく、目の前の黄色い蛇がなんの攻撃を仕掛けてくるのか分からない。だが、何か毒などの状態異常を起こす攻撃をしてくるのは確実だろうと思った。
シンはじりじりと間合いを取り、火花よりもっと威力のある炎の魔法を蛇に唱えた。だが、同時に蛇も口を開けて翼を震わせる。
「……!」
シンはとっさに両手で自分の顔をかばったが、身体の前面に痛みが走り、立っていられなくて地面に倒れた。
数秒が経過して、視界の端に黒焦げになった蛇がポトリと落ちたのが見えた。キラキラした魔法石が焦げ目の隙間から覗いている。
初めて、自分の力で魔物を倒せた……。
シンはぼんやりとそう思った。それも北エリアの魔物を一人で。
シンはゆっくりと身体を起こした。蛇が放ったのは風の魔法の一種だったらしく、両手に無数の切り傷が出来て、血が滴っている。制服もあちこちに裂け目が入っていた。
とりあえず治癒魔法を唱えようとしたシンは騎士の叫び声に気づいた。
「危ない! 避けろ!」
騎士の声の方を向くと、傷だらけの獏がこちらに突っ込んでくる所だった。
避けきれずに獏に衝突され、シンは一瞬呼吸が出来なくなった。衝撃で魔法書が少し離れた位置に飛ばされる。取りに行こうとしたシンの身体の上に獏がのしかかってきた。学園で飼われている獏よりかなり大きい。前足がシンの身体に置かれて、ミシリと音が聞こえるような気がする。
運悪くシンの唱えた治癒魔法は、全て獏が吸収してしまった。
「い、いたい……」
身動きも取れずに痛みに呻いていると、遅れてやってきた騎士二人が周囲を囲む。
「おいおい、何やってんだよ!」
「魔法を使え、魔法を!」
騎士二人はやはり獏という魔物の生態を知らないらしい。
「獏……は、魔法を吸収します……!」
圧迫された肺から声を振り絞ると、マジかとか騎士がつぶやく声が聞こえた。
「おい、お前の相手はこっちだ!」
自称リーダーの言葉を無視して、獏はシンの腕の血の匂いを嗅ぐ。
それから、シンの額に長い鼻を寄せた。魔力を吸い取られると恐怖したが、なすすべがない。
急に目の前が真っ暗になった。