5 専属の騎士

 その後、呼ばれたパーティー会場でアルフレッドはそつなく形式にのっとった挨拶をこなしたが、ひとつだけまずいと思う事があった。
 彼ら騎士候補生は殆ど跪いていたのだが、それでも視界にちらりと王族や身分の高い人々が見えた。その中に、さっき庭園で出会った令嬢がいたのだ。明らかに王族達の座る席に座り、アルフレッドに視線を向けているような気がする。それほど失礼な言動はしていないはずだと自分の行動を振り返ってみたが、貴族か姫君なら何がタブーなのか分からない。もう慣れない場所をうろつくのはやめようとアルフレッドは思った。

 パーティーでの顔見せが終わり、騎士たちは別室に下がる。別室とはいえ、豪華な食事が用意されていて、上級生の騎士候補生や引率の先生は大喜びだ。会話も、自分はどこの貴族から声がかかっているとか、王族の誰でもいいから専属の騎士になりたいとか、そんな話ばかりだった。

「どうした、アルフレッド。食欲が無いのか?」
 アルフレッドは隣にいたワルターに話しかけられるまでうわの空だった。
「いや。お前こそ全然食べてないじゃないか」
「俺には豪華な料理すぎて……。故郷の家族に送ってやりたいと思ってたところだ」
「お前も貴族や王族の騎士になりたいのか?」
「もちろん。名誉はもちろん欲しいが、それ以上に家族にたくさんお金を送ってやれる」

 しみじみと言うワルターを見て、アルフレッドは複雑な気分になった。


 食事も終わりかけた頃、アルフレッドに近づき声をかけた者がいた。

「アルフレッド君、少しいいかな?」

 そう言って笑みを見せたのは、入学式の時に会って以来、姿を見せていなかった学園の理事長だ。

「理事長……いえ、宮廷魔道士とお呼びした方がよろしいですか?」
「いや、どちらでも構わないよ」

 理事長は相変わらず白銀の長い髪を下ろし、銀の刺繍のローブを身にまとっている。
 魔法使いの事は分からないが、相手が若い見た目に反してとんでもなく強い魔法使いだと言う事はアルフレッドも認識していた。そして父親の仕事仲間であり、学園を仕切る理事長であり、魔法使い候補生一位のユーリがいつか倒してやるとか何とか言っていた男だ。

「私に何か用でしょうか」

 アルフレッドの儀礼的な物の言い方を気にする事もなく、ユーシス理事長はアルフレッドを別室から連れ出した。王宮を案内してくれるつもりなのだろうか。

「君に見せたい物があるんだよ」

 そう言って連れてこられたのは豪華な扉の前だ。扉を守る護衛兵が下がると、ユーシス理事長は何か魔法を唱えた。
 魔法で守られるほど重要な場所らしいとアルフレッドが思った通り、中にはたくさんの武器や防具が納められていた。

「武器庫……というよりは宝物殿に近いかな。これらの武器はどれも、国宝級の扱いだからね」

 確かに、中に納められている武器や防具は、どれもきちんとケースに納められて飾られている。
 アルフレッドが目を奪われたのは、その中にある一つ、持ち手の部分に赤い布が巻かれている事を除けば刀身も鞘も真っ黒な剣だった。
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