4 魔法書の秘密

***

「シン、呼ばれてるよ」

 アルフレッドとカフェで会った翌日、シンは教室でナタリーに声をかけられた。

「えっ?」

 ナタリーが教室の扉のを指差す。そこには魔法使い候補生の女の子が立っていた。

「もしかして告白かも⁉」
「まさか」
「告白だったら教えてくれよな」

 ハンスに茶化されたけど、ナタリーは少し心配そうにこう付け加えた。

「あの子……Bクラスみたいだよ。気をつけてね」

 一体何に気をつけるんだろうと戸惑いながら扉まで行くと、ナタリーの言った通り、女の子の名札には名前の隣に70番の数字が書かれていた。シンよりずっと順位が上だ。

「あの、何か用ですか?」

 彼女はシンを上から下まで眺めると、「カフェで会ってた人の事について聞きたいんだけど、ちょっと中庭に来てくれない?」と強い口調で言った。

***

 断れば良かったと中庭に着いてからシンは思った。
 中庭にはAクラスとBクラスの魔法使い候補生の男女5人が待っていて、全員がとても友好的とは思えない雰囲気だったのだ。
 学園内では許可なく魔法を使ってはならないというルールがあるから魔法をかけられる事は無さそうだが、自分より上の順位の生徒に囲まれると怖くなる。
 その中でも最も順位の高い、32位の女子生徒がこのグループの中心らしい。

「あなた昨日、カフェでユーリ様、アルフレッド様と会ってたわよね」
「……」
「黙ってないでなんとか言えよ」
「CクラスのくせにどうやってAクラスの生徒に取り入ったの?」
「実戦でチームを組むのは私達なんだから」

 生徒たちに一斉に言われて、シンはびっくりしてしまった。

「兄弟だから……。会ってたのは兄です」

 かろうじてそう言うと、一瞬の沈黙が訪れる。

「兄弟⁉ アルフレッド様の?」
「こんな髪の黒い弟がいるわけないじゃない。あの家は名門なんだから」
「ユーリ様は一人っ子のはずよ」
「たとえ弟だとしてもCクラスなんて恥だわ。髪だって汚い黒色。どちらにも全然似てないし」
「もっとまともな嘘つけよ」

 髪が汚いと言われてシンは傷ついた。みんな何も言わなかったけど、そんなふうに見られていたなんて知らなかったのだ。

「あんたは知らないかもしれないけど、才能のない魔法使いが上のクラスの騎士に取り入るなんてルール違反なの。目障りだから二度と会わないで」

 そこで大人しく頷けば良かったのだが、シンにはそれがどうしても出来なかった。

「……嫌です。兄さんなのは本当だ。会いたいのを今だって我慢してるのに」

 シンの言葉にムッとしたのか、後ろにいた男が突然シンの髪の毛を掴んで引く。

「順位が低いくせに口ごたえするな!」
「痛っ!」
「ちょっと、本当に触ったの?そんな汚い髪」

 地面に倒れたシンを見て笑い声が起こり、さらにシンの持っていた鞄が奪われる。

「返して!」

 取り返そうとしたシンの背中を誰かが蹴りつけた。

「ふぅん。Cクラスにしてはページ数が多いのね。生意気」

 32番の生徒が手にしたのはシンの赤い魔法書だ。ペラペラとページを開くと、おもむろにビリビリと破り始めた。

「やめて! やめてください!」

 シンは真っ青になった。ページがなければたくさんの呪文を覚えられない。
 だが、他の候補達に押さえつけられ、破られていくページを見ている事しか出来なかった。

「あんたに相応しい量になったんじゃない?」

 女子生徒は笑いながら言って、数ページになった魔法書をシンの前で振ってみせると、それを破れたページごと中庭にあった池に投げ捨てた。ひらひらと水面に落ちるページ達。沈む事は無かったが、兄が褒めてくれた魔法書は泥水に浸かってしまった。

 笑い声が響く中、呆然とシンがその光景を見ていると、候補生達が急に慌てて後退りをはじめた。

「おい、ちょっと!」
「なんでここに来るのよ」
「行きましょ」

 シンは魔法使い達がいなくなった事も気づかず、ただ池に浮かぶ破れた魔法書とページを眺めていると、そばに何かの気配を感じた。ザラリとした感触を腕に感じて顔を向けると、黒と白の獏がシンの腕を舐めていた。
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