4 魔法書の秘密
「お邪魔します」
今日は授業はお休みなので、ハンスの部屋で勉強をする日だ。シンは勉強道具を持ってハンスの部屋を訪ねた。ハンスの部屋もシンの部屋と変わらない作りになっていたが、住む人間が違うとなんとなく雰囲気が変わる。ハンスの同室の候補生は同じCクラスで順位はハンスより低い。順位が低いと気を使わなくて楽だとハンスは言っていた。
勉強机の横には制服を掛けておくコートハンガーがあり、そこには制服のコートと小さめの鞄がかけられている。
「これ、魔法書を入れるための鞄?」
「そうなんだ。オイラの家族がみんなで作ってくれたんだけど、ボロいよな」
布製の手作り鞄には革紐で作られたアクセサリーがくっついている。
「この鞄、服とかバラして作ったものなんだ。恥ずかしいけど、せっかく作ってくれたんだからやっぱり使わないとな」
そう言ってハンスは嬉しそうに笑う。
「いいなぁ。僕鞄を持ってないから買わないと。ハンスは家族みんな仲良しだし、魔法使いになったら村に帰るの?」
「うーん……王都は賑やかで楽しそうだけど、村には魔法使いがいないから村に戻ってもいいかなって。でも魔法書は白じゃないし5ページしかないから進級できるかどうかもあやしいんだけどさ」
「ハンス……」
「シンの家はお金持ちなんだろ? 着てる服とか仕立てが良さそうだもんな。オイラ、進級出来なかったら魔法使いやめて村に帰って畑を継がなきゃいけないんだ。一年分の学費を出すだけでうちは精一杯だから」
シンはギュッとハンスの手を握った。
「ハンス、絶対に2年に進級しようね!」
「もちろん。シンもオイラとたいして変わらない順位なんだから気を抜くなよ」
「分かってるよ」
僕は将来どうしようかな、とシンは勉強の合間に考えた。
魔法使いになって兄の役に立つと決めたけど、ハンスに比べたら魔法使いを目指すには弱い理由のような気がする。
「ねえ、ハンス。騎士の幸せって何かな?」
休憩中に聞いてみると、ハンスはびっくりした顔でシンを見た。
「え? 騎士? 急にどうしたの?」
「家族に騎士がいるから……」
「そうなのかー。騎士は魔法使いより大変そうだよな。いつも前線に出なきゃいけないし、王族の専属騎士なんかになっても、手に入るのはお金と名誉だけで、命令は絶対服従だし命がけだし……ってそれは魔法使いも一緒か。契約内容が違うだけで」
「契約?」
「騎士の誓いって知らない? 魔法使いは専属契約しても気に入らなければ相手を変更できるけど、騎士は出来ないんだ。相手に誓いを立てたら一生従わなきゃいけないし。大変だよね。だから、騎士の幸せはいい上司に仕えるって事じゃないかな?」
「そうなのか……知らなかった」
では兄も、誰か知らない相手と一生変えられない契約をするという事だろうか。
「どうして騎士だけそうなんだろう……」
「契約が魔法で行われるからだよ。魔法使いには効かないけど、騎士にはそれを無効にできるだけの魔力がないからさ。立場は同列だけど、実際は騎士より魔法使いの方が上なんだって。だから王宮を仕切ってるのは騎士団長じゃなくて、宮廷魔道士だって噂だよ」
「宮廷魔道士って」
「ほら、入学式の時に会った理事長だよ。バージェス家の騎士団長より、あの理事長の方が強いんだってさ」
そう言えば理事長はシンの父親のことをダレンと親しげに呼んでいたな、とシンは思い出す。
そしてふと、それはいつの記憶だろうかと不安になった。理事長とは直接話した事がないのに、どうしてそんな事を思い出すのだろう。
あの理事長が……もしも兄の上司になったとしたら自分はどうするだろう。
そんな考えに急にとらわれて、シンは訳もなく気分が悪くなった。理由もないのに、理事長が苦手で仕方がない。そんな男が一生変えられない魔法を兄にかけると思っただけでぞっとした。
今日は授業はお休みなので、ハンスの部屋で勉強をする日だ。シンは勉強道具を持ってハンスの部屋を訪ねた。ハンスの部屋もシンの部屋と変わらない作りになっていたが、住む人間が違うとなんとなく雰囲気が変わる。ハンスの同室の候補生は同じCクラスで順位はハンスより低い。順位が低いと気を使わなくて楽だとハンスは言っていた。
勉強机の横には制服を掛けておくコートハンガーがあり、そこには制服のコートと小さめの鞄がかけられている。
「これ、魔法書を入れるための鞄?」
「そうなんだ。オイラの家族がみんなで作ってくれたんだけど、ボロいよな」
布製の手作り鞄には革紐で作られたアクセサリーがくっついている。
「この鞄、服とかバラして作ったものなんだ。恥ずかしいけど、せっかく作ってくれたんだからやっぱり使わないとな」
そう言ってハンスは嬉しそうに笑う。
「いいなぁ。僕鞄を持ってないから買わないと。ハンスは家族みんな仲良しだし、魔法使いになったら村に帰るの?」
「うーん……王都は賑やかで楽しそうだけど、村には魔法使いがいないから村に戻ってもいいかなって。でも魔法書は白じゃないし5ページしかないから進級できるかどうかもあやしいんだけどさ」
「ハンス……」
「シンの家はお金持ちなんだろ? 着てる服とか仕立てが良さそうだもんな。オイラ、進級出来なかったら魔法使いやめて村に帰って畑を継がなきゃいけないんだ。一年分の学費を出すだけでうちは精一杯だから」
シンはギュッとハンスの手を握った。
「ハンス、絶対に2年に進級しようね!」
「もちろん。シンもオイラとたいして変わらない順位なんだから気を抜くなよ」
「分かってるよ」
僕は将来どうしようかな、とシンは勉強の合間に考えた。
魔法使いになって兄の役に立つと決めたけど、ハンスに比べたら魔法使いを目指すには弱い理由のような気がする。
「ねえ、ハンス。騎士の幸せって何かな?」
休憩中に聞いてみると、ハンスはびっくりした顔でシンを見た。
「え? 騎士? 急にどうしたの?」
「家族に騎士がいるから……」
「そうなのかー。騎士は魔法使いより大変そうだよな。いつも前線に出なきゃいけないし、王族の専属騎士なんかになっても、手に入るのはお金と名誉だけで、命令は絶対服従だし命がけだし……ってそれは魔法使いも一緒か。契約内容が違うだけで」
「契約?」
「騎士の誓いって知らない? 魔法使いは専属契約しても気に入らなければ相手を変更できるけど、騎士は出来ないんだ。相手に誓いを立てたら一生従わなきゃいけないし。大変だよね。だから、騎士の幸せはいい上司に仕えるって事じゃないかな?」
「そうなのか……知らなかった」
では兄も、誰か知らない相手と一生変えられない契約をするという事だろうか。
「どうして騎士だけそうなんだろう……」
「契約が魔法で行われるからだよ。魔法使いには効かないけど、騎士にはそれを無効にできるだけの魔力がないからさ。立場は同列だけど、実際は騎士より魔法使いの方が上なんだって。だから王宮を仕切ってるのは騎士団長じゃなくて、宮廷魔道士だって噂だよ」
「宮廷魔道士って」
「ほら、入学式の時に会った理事長だよ。バージェス家の騎士団長より、あの理事長の方が強いんだってさ」
そう言えば理事長はシンの父親のことをダレンと親しげに呼んでいたな、とシンは思い出す。
そしてふと、それはいつの記憶だろうかと不安になった。理事長とは直接話した事がないのに、どうしてそんな事を思い出すのだろう。
あの理事長が……もしも兄の上司になったとしたら自分はどうするだろう。
そんな考えに急にとらわれて、シンは訳もなく気分が悪くなった。理由もないのに、理事長が苦手で仕方がない。そんな男が一生変えられない魔法を兄にかけると思っただけでぞっとした。