4 魔法書の秘密

 結局シンはユーリの申し出を断る事が出来ず、ページ交換する事になってしまった。最後のページをおそるおそる破り、ユーリに手渡す。

「こうしてページをくっつけるんだよ」

 同じ年なのにユーリは魔法書に詳しかった。
 魔法書の最終ページにユーリのページを挟むと、少し色の違うそのページは何事も無かったかのようにピタリとくっついた。ユーリ=ブライシスと文字が小さく浮かび上がる。

「……」

 それを見てシンはなんとも言えない気分になった。兄になんて言おう。それとも黙っていた方がいいんだろうか。なぜか悪いことをしてしまったような気がする。

「ありがとう。嬉しいな。実は君を初めて見た時に……」
「あ、あの! もう勉強があるので戻ります」

 シンはそれ以上聞くのが怖くなり、ユーリの会話を遮るように勢いよく立ち上がると、急いでバンブーカフェを後にした。

「可愛いなぁ……」

 後に残されたユーリはシンの後ろ姿を見送って、手にしたシンのページを指でさらりと撫でた。

***

「ああ……怖かった」

 シンはユーリがついてきていないか後ろを振り返り、いなくてほっと胸を撫で下ろす。Aクラスじゃなくて良かったとはじめて思った。だが、魔法書の中にユーリのページが存在しているのは確かだ。捨てるわけにもいかなくて気が重くなってしまった。

「きっと、からかわれただけだよな」

 しかし冗談でページ交換などするだろうか。魔法書のページは有限だ。ページを一枚破るという事は一つの呪文を諦めるという事と同じだから、シンだってあまりやりたくない。初めて友達になったハンスか、恋人相手くらいしか……。

 そこまで考えてシンは兄を思った。
 魔法使いではないから無理だけど、もしも兄が魔法使いだったら間違いなくページ交換したい。ページを辿ればいつでも会えるし、無事を確認出来る。

「今日は会いたかったな……」

 部屋に戻ると、共同スペースで委員長が料理を作っていた。果物を小型のナイフで切っている。

「あっ、こんばんは」

 委員長はチラッとシンを、そして魔法書を見ただけで興味なさそうに作業に戻った。
 その無関心さや、無愛想な感じがユーリと会った直後のシンにはありがたかった。

「委員長の魔法書は黄色なんですね」

 なのでいつもなら絶対にしないが、つい話しかけてしまった。だから返事があって驚く。

「うちの家系は大体黄色だ」
「そうなんですか? 嫌じゃないんですか? あ、あの他の人が黄色系は嫌だって言ってたので……」

 失礼な事を言ってしまったと反省するが、委員長は気にしていないようだった。

「補助魔法はかなり便利だ。有効に使えば武器になる。それに僕の性格にも向いてる。攻撃や回復も習得しやすい。他に何か質問は?」

「え、えーと……ページ交換ってどう思いますか?」
「は?」
「す、すみません。変な事を聞いて……」

 委員長はメガネを押さえると、しばらく考え込むような仕草をした。

「知り合いに一人、いろいろな魔法使いとページ交換している男がいる。その男は、交換相手が無茶な王命を受けたり、魔物狩りなどで命を落としページが消えていくのを眺めては楽しんでいる」

「え?」

 シンにはサイラスの言っている事の意味がすぐには理解できなかった。

「そういう悪趣味な人間もなかにはいるということさ」

 サイラスはそう言ったきり黙って作業に戻ったので、シンもそれ以上は聞かずに自分の部屋に戻った。

 サイラスは切った果物を皿に乗せると、紅茶をいれるためにキッチンに備えられている魔法の道具でお湯を沸かす。準備が出来たら果物と紅茶をトレーに乗せて自分の部屋へと入り、テーブルにセットしてソファーに腰掛けた。
 テーブルの上にはもらったばかりの黄色い魔法書が置かれている。彼は何も書かれていないページをパラパラとめくった。

 一つだけ問題があるとすれば、あの悪趣味な男に頼まれたら、サイラスもページを差し出さなければならないという事だ。

 隣の部屋に住む同級生は、魔法使い達の暗くてドロドロした世界を知らずに育っている気がして、それがサイラスには羨ましかった。
7/14ページ
スキ