4 魔法書の秘密

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 入学して二週間が過ぎ、シンはようやく学園の雰囲気に慣れてきていた。髪をじろじろ見られるのはいつもの事だが、特別それでいじめられたり悪口を言われることもない。誰もシンの髪に触る者はいなかったが、友達というものはこういう感じなのだと思うようにした。
 兄はいつもシンを見れば肩を組んできたり髪を撫でたりしていたので、それが普通だと思っていたけど、兄弟と友達は違うのかもしれない。または兄が特別に過保護だったのか。

 そんな兄とはあれから一度しか会えていない。
 兄の忙しさを考えて回数を減らしてみたものの、実際にシンは兄に会えない事が寂しかった。でも兄のお荷物になりたくないから必死に勉強するしかないと自分に言い聞かせて寂しさに耐えた。来年はAクラスかせめてBクラスに入らなければ兄と同じチームになる事は出来ない。

 シンは毎日の講義を真剣に受け、必須の講義以外も時間の許す限り受講するようにした。
 授業が終われば部屋に帰るかハンスと一緒に復習して、食事と入浴以外の時間はできるだけ勉強に費やす。
 しかしそれはシン以外の生徒も同じで、家庭の事情はいろいろあるけれどみんな退学にならないよう必死に勉強しているようだった。

 それからさらに一週間が過ぎた頃、魔法書がようやく完成した。
 噂を聞いた生徒達がワクワクしながら待つ中、教師が数人の助手と一緒に大きな箱を持って現れ、生徒達の興奮はピークに達した。
 101番の委員長から名前を呼ばれて順に魔法書を取りに行く。シンは委員長の魔法書が何色なのか気になって目で追った。サイラス委員長は、黄色い魔法書を貰うと、表情も崩さずに席に着いた。

 それから順番に魔法書を手にした生徒達の興奮で教室はかなり騒がしくなったが、教師達も気持ちは分かるのか誰も注意はしなかった。殆どの生徒が赤、黄色、白色のどれかに分類される中、一人だけ青い魔法書を手にした生徒がいて注目の的になっていた。

「あ~私、白!」

 ナタリーがなんとも言えない口調で魔法書を眺め、ハンスが笑った。

「やっぱり! 似合ってるよな、シン」
「うん。羨ましいよ」

 白系の本は回復魔法が得意という事になる。回復が得意な魔法使いは重宝されるので、どれほど成績が悪くても退学になるリスクは少ない。みんな回復魔法はそれなりに覚えるのだが、白い魔法書を持つ魔法使いにしか扱えない呪文はたくさんあって、それだけで卒業や就職がほぼ約束されたようなものだ。シンにはどうしてナタリーが残念がるのか不思議だった。

「やっぱり、憧れってあるじゃない? 派手な攻撃魔法をドーンって使うとか」
「そうだよな」

 話しているうちにシンの番になった。教師はチラリとシンを見ただけだったが、嫌なものを触るようにぞんざいに魔法書を手渡した。そう思うのはシンの被害妄想かもしれないけど、シンも教師の顔をあまり見ないようにして魔法書を受け取る。

 赤い。

 色を見て嬉しくなった。兄さんの赤だ、と思った。
 兄さんの色はもっと鮮やかな赤色だから、回復系の白魔法や黄色の補助魔法も覚えて、兄さんの髪の色に近づけるようにしようと思う。

「シン、赤なのか? いいなぁ~。オイラの見てよ」

 ハンスが黄色い表紙の魔法書をシンに見せてため息をつく。

「補助魔法が得意って、超地味だよなー」
「委員長も同じ黄色だったよ」
「そっかぁ……」

 全員が魔法書を受け取ったのを見計らって、担任の教師が注意事項を述べる。

「皆さん、魔法書を貰って興奮するのはわかりますが皆さんの魔法書はまだページも少なく余白ページも殆どありません。一年が終わるまでは浮かれてページ交換などしないように。余白が無くなれば新しい呪文を覚える事は出来ませんよ」

 シンは自分の魔法書をパラパラと開いてみた。一つも呪文の書かれていないまっさらなページが二十枚程度。
 表紙はしっかりしていて、金色の縁取りが入っている。手触りもいいのにとても軽い。

「うわ、シンの本、ページ多くない?」
「そう?」
「オイラ五ページしかない」

 たしかにハンスの魔法書はペラペラだった。ナタリーもシンほどではないがハンスよりはページ数がある。

「ハンス、あんた何の魔法を習得するか気をつけないとヤバいわよ」

 ナタリーが冗談交じりに言う。魔法を追加するごとにページは増えるらしいが、どのくらいのスピードで増えるのかは個人差があるらしく、ページが少ないのは不利だった。

「シン、そういうわけだからオイラとのページ交換はかなり先まで待ってくれよな!」

 ハンスに言われてシンは分かったよと頷いた。
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