幕間 六年前

(sideジェイク)

「二十……二十一か?」

 目の前に現れた真っ黒い四つ足の獣のような生き物を剣で切り捨て、とどめを刺す。
 強さは大したことのない獣だが、数が多い。ついでに上空には無数の鳥が旋回している。こちらもたかが鳥と侮れない。暴風と共に突っ込んで来て、火を吐いたり鋭いかぎ爪で皮膚をえぐろうとする。もっとも吐く炎は雨によってかなり威力を失っていたが、それでも倒すタイミングをつかむまでは多少の火傷を負った。

「二十五っす……!」

 マゴットが獣を倒して得意げにこっちを振り返る。

「お前と張り合ってねえ」

 倒した敵の数を数えるのは俺の癖だ。無意識によくやっている。

「マゴット、前に出過ぎるな。魔法の届く範囲を考えろ!」

 隊長の怒号が飛ぶ。
 魔法使いの防御魔法の範囲内で戦い、かつ治療師を守らなければいけないのはチーム戦における騎士の基本中の基本だが、マゴットの気持ちも分かる。この暴風で位置を把握するのは危ういし、多数の魔物を見ると血が騒ぐ。

「すみません!隊長!」
「セラ嬢は俺が守りますよ!」

 格好つけて治療師に言ったが、彼女は俺に目もくれず
「あなた方を魔法で守っているのは私です」と冷静に返された。そりゃそうだな。

「それよりユーシス様が魔法攻撃をなさいます。騎士の方々、伏せてください」
「え?」

 見れば分厚い魔法書を広げたユーシスが、ブツブツと何かを唱えている。
 分厚くて重そうだと思った赤い本は手のひらの少し上の宙に浮かび、ページに印された魔法の呪文が空へと溶けていくように見えた。

「ジェイク、マゴット、伏せろ!」

 隊長の声と同時にセラ嬢と地面に伏せる。
 直後、谷に轟音が響いて地面が揺れ、耳当て付きの簡易兜を装備していても鼓膜に響いた。背中に熱風がかかる。

「……っぐ、何だ今の、魔法かよ」
「ユーシス様の攻撃魔法です、上空の妖鳥を攻撃なさったようです」

 セラ嬢がずれた眼鏡をかけなおす。やっぱり美人だ。
 見れば飛び回っていた鳥たちは一匹もいなくなっていた。生き残った四つ足の獣も魔法をおそれて散り散りに逃げていく。魔法の影響か、雨と風も弱まったような気がした。

「視界がよくなったな」

「鳥を一掃した。攻撃魔法を撃つときは巻き込まれないよう気をつけてくれ」

 ユーシスは涼しい顔で魔法書をパラパラ捲っている。そう言う事は撃つ前に言えよ。

「ジェイク、マゴット、セラ嬢も無事か?」

 隊長が血塗れの剣を手に近づいてきた。さすが隊長、無傷な上に返り血も浴びていない。雨に流されたのかもしれないが。

「隊長、あの魔法使いからは距離を取った方が良いのでは?」
「……そうだな。勘のいいジェイクはともかく、マゴットは少し離れていろ」

 後方の敵を撃退していたジオが戻ってきた。

「さすがユーシス様、敵の数がかなり減りましたね」
「からかわないでくれ。君には分かるだろう。強敵が出てくるのはこれからさ」

 ユーシスはどことなく嬉しそうに見えた。殺戮を好まない隊長とは逆のタイプだ。
 俺はユーシスの気持ちが少しだけ分かる。あんな威力の魔法攻撃をぶっ放せたらさぞかし楽しいだろう。まあ俺は魔法は全然駄目だから、想像でしかないが。
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