3 新しい生活

 同室者がシャワーを浴びている間に、サイラスは部屋を出た。入り組んでいる寮の廊下を迷わず歩く。

 もう八時近いが、廊下やカフェで話し込む友人同士の姿を多く目にする。学園が推奨している、部屋に戻って予習や復習をする時間は八時、消灯時間は夜の十時となっていたが、皆それを守る気などないようだ。
 学園の生徒達には守らなければならないルールがあったが、それはほとんどが魔法関連のもので、生活全般の規律はそれほど厳しくはない。入学式当日に生徒同士が浮かれて騒いでも、よほどの事が無い限り教師達は取り締まらないだろう。

 逆に魔法関連の規律は厳しく、基本的に生徒同士で魔法を使用することは禁止されていた。
 単独でも防御魔法のかけられた練習ルームや指定された場所以外で魔法を使う時には、教師に申請を出すことが義務づけられている。攻撃魔法などは申請を出しても却下される事が多い。許可なしに使用すれば一発で退学になる可能性がある。
 サイラスが見たところ、入学式当日にそのような行為をする生徒はいないようだった。委員会が組織されれば、委員長には各クラスや同じ学年の生徒を取り締まる役目も追加される。できれば何の問題も起こらないでもらいたい。その可能性は低いだろうが。

「サイラス」

 歩いているサイラスに声をかけてきたのは、昔からの知り合いの一人だ。十四歳以下が通う短期の魔法スクールで何度か顔を合わせている。

「どうしたニール、何か用か?」
「相変わらず堅苦しいな」

 ニールはBクラスの魔法使いだ。順位は69。300人の魔法使いの中では優秀な方だろう。

「まさか、お前が101位なんてな……」
「これが僕の実力ということだ」
「嘘つけ。手を抜いたんだろ」

 面倒くさいので無視をする事に決めたが、ニールはついてきた。

「なあ、あの1位のユーリってやつ、知ってたか?すごいよな。お前もあそこまではいかなくても、絶対Aクラスだと思ってたんだけどな」

「申し訳ないが、君の雑談に付き合ってる暇はない」

 サイラスがそう言うと、ニールは肩をすくめた。

「Cクラスってのは意外だけど、委員長の肩書きは似合ってるよ……」

 引き返すニールをちらりと見て、サイラスは再び歩きだす。
 サイラスは学年1位のユーリの事はもちろん入学前から知っていた。サイラスの家と同じくらい魔力の強い家系に生まれた天才児。入学試験の様子を遠くから見たが、手を抜いているのは明らかだった。
 魔法を使うために生まれてきた、というのはサイラスの父親のユーリへの評価だ。あれくらいの天才は、ユーシス様以外に見たことがない……と。

 サイラスはため息をついて、警備室の扉をノックした。
 同室者が帰って来た時、その額にはユーシス理事長の魔法印が残っていた。警備担当のジオという教師は、何があったのか間違いなく知っているはずだ。彼がどちら側の人間なのか見極めておきたい。この学園に潜んでいるというスパイを、サイラスは見つけ出さなければならないから。
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