3 新しい生活
中央に炎がくるくると舞い、闘技場に幻想的な光景が広がる。
「綺麗ー……」
シンの隣に座っていたナタリーが魔法の炎に見とれている。シンもその複雑で華やかな光に目を奪われていた。
複雑そうな魔法の呪文を、中央にいる上級生の魔法使い達がいとも簡単に創り出している。
「あ……」
魔法の炎を創り出している魔法使いの中に、シンが図書館で出会った彼がいた。名札は見ていなかったが、あの人は新入生だった。一人だけ上級生に混ざっているらしい。
不思議に思っているうちに、魔法の炎が花火のように舞い上がって弾けた。
生徒達の歓声の中、今度は銀色の上着の騎士クラスの上級生達が登場し、騎士の剣によく似た長剣を手に、美しい剣術の型を披露した。
「兄さん……!」
シンの声は歓声にまぎれて周囲には届かなかった。でも、剣を持って武術を披露する上級生の中に赤い髪の兄を見つけ、シンの心臓は早鐘を打ちはじめた。
女の子らしい所はどこにもないのに、兄の動きは踊り子の踊る剣の舞のように綺麗だ。新入生なのに、一体いつあんな動きを身につけたんだろう。
上級生達のパフォーマンスが終わったと同時に、中央にある壇上に白髪の男の人が現れた。急に現れたから新入達にどよめきが走る。どんな魔法なのかシンには全然見えなかった。
「宮廷魔法使いで学園の理事長のユーシス様よ!」
「綺麗~!」
周りの魔法使い、特に女の子達から歓声が上がる。
宮廷魔法使いといえばこの国で知らない人はいない。王宮で王族の為に働く魔法使いのエリートだ。この国に数人しかいないという彼らは、皆トップクラスの実力を持ち、一人で一軍に匹敵する魔力を持つという。
ユーシスという理事長は、長い白髪をしていたけれど、けして年をとっている訳ではなかった。見た目は二十代といってもいいくらい若い。それに、人形のような整った顔立ちをしていた。
「騎士候補生のみなさん、魔法使い候補生のみなさん、入学おめでとう」
柔らかな声で話す美しい理事長……。
「……シン?どうしたのさ。具合悪いのか?」
隣にいるハンスが顔を覗き込んできた。
「大丈夫……なんでもないよ」
一度も会ったことがないはずなのに、あの理事長がとても怖くて、まともに顔を見る事が出来ないなんて言えなかった。
皆には分からないんだろうか。
ユーシスという理事長の、目に見えない魔力が蜘蛛の巣のようにこの闘技場に広がっていく。中心にいる理事長は蜘蛛で、新入生は絡め捕られた餌だ。逃げられる気がしない。同時にシンの頭にズキズキと頭が締めつけられるような痛みが走る。そのせいで、理事長の話の後に続いた先生方の紹介も、上級生代表の歓迎の挨拶も、ろくに耳にはいらなかった。
頭痛がようやく治まったので壇上に目をやると、理事長の姿は消えていてシンはほっとした。
あの人がどうしてこんなに怖いんだろう……実力がある人だからだろうか。
「ちょっと、見てあの人!」
ナタリーの鋭い声に、我にかえって意識を入学式に戻すと、ちょうど壇上に兄が上がる所だった。図書館で会った新入生がそれに続く。
兄が騎士の新入生で一位なのは知っている。という事は、図書館の彼は魔法使いの新入生の中で一位だった人だろう。入学試験であれだけ実力があったのだから当然という気がした。
「すごく格好いいんだけど!」
「まさか新入生代表なの!?」
「一位でしかもイケメン!」
「素敵~!!」
ナタリーや魔法使いの女の子達が騒いでる。
確かに弟のシンの目から見てもアルフレッドはかなり格好いいと思う。図書館の人も、別に変な顔じゃない。
「ずるいよな……実力もあって顔もいいなんてさ」
ハンスがブツブツ言ってる。シンにはハンスの気持ちが分かった。優秀な兄はずっとシンの憧れで、彼を劣等感の塊にする。
壇上で先に口を開いたのは図書館で会った彼だった。
「僕は新入生代表のユーリ・ブライシス。魔法使いを目指す新入生の皆、脱落する事なく卒業して一人前になろう。僕のファンの子猫ちゃん達、一年間一緒に頑張ろうね!」
あ、やっぱり変な人だ。
そう思うシンとは対照的に、女の子や一部の男の子から歓声が飛ぶ。本当にファンがいるらしい。子猫とは思えない野太い声も混ざってるが。
ユーリの話が終わり、アルフレッドが口を開く。何も考えてないと言ってたけど、大丈夫だろうか。
「騎士候補生代表のアルフレッド・バージェスだ。護りたいものがあるから騎士を目指している。それは新入生もみんな同じだと思う。順位を賭けた試合にはいつでも応じるが、それなりの覚悟で申し込んでくれ」
闘技場が一瞬静まりかえった。自分の事でもないのにシンは冷や汗が出る。
「バージェス家の息子かよ……」
「確かバージェス家は現、騎士団長だろ」
「ブライシスも優秀な魔法使いの家柄だよ」
「血筋が違うよな」
みんながざわついてる。父親の身分や家柄がそんなに有名だった事をシンは知らなかった。
「……それから、魔法クラスに俺の弟がいる」
兄の言葉には続きがあって、シンはドキリとした。
「弟を苛めた奴は、魔法使いだろうと騎士だろうとボコボコにするからな」
「綺麗ー……」
シンの隣に座っていたナタリーが魔法の炎に見とれている。シンもその複雑で華やかな光に目を奪われていた。
複雑そうな魔法の呪文を、中央にいる上級生の魔法使い達がいとも簡単に創り出している。
「あ……」
魔法の炎を創り出している魔法使いの中に、シンが図書館で出会った彼がいた。名札は見ていなかったが、あの人は新入生だった。一人だけ上級生に混ざっているらしい。
不思議に思っているうちに、魔法の炎が花火のように舞い上がって弾けた。
生徒達の歓声の中、今度は銀色の上着の騎士クラスの上級生達が登場し、騎士の剣によく似た長剣を手に、美しい剣術の型を披露した。
「兄さん……!」
シンの声は歓声にまぎれて周囲には届かなかった。でも、剣を持って武術を披露する上級生の中に赤い髪の兄を見つけ、シンの心臓は早鐘を打ちはじめた。
女の子らしい所はどこにもないのに、兄の動きは踊り子の踊る剣の舞のように綺麗だ。新入生なのに、一体いつあんな動きを身につけたんだろう。
上級生達のパフォーマンスが終わったと同時に、中央にある壇上に白髪の男の人が現れた。急に現れたから新入達にどよめきが走る。どんな魔法なのかシンには全然見えなかった。
「宮廷魔法使いで学園の理事長のユーシス様よ!」
「綺麗~!」
周りの魔法使い、特に女の子達から歓声が上がる。
宮廷魔法使いといえばこの国で知らない人はいない。王宮で王族の為に働く魔法使いのエリートだ。この国に数人しかいないという彼らは、皆トップクラスの実力を持ち、一人で一軍に匹敵する魔力を持つという。
ユーシスという理事長は、長い白髪をしていたけれど、けして年をとっている訳ではなかった。見た目は二十代といってもいいくらい若い。それに、人形のような整った顔立ちをしていた。
「騎士候補生のみなさん、魔法使い候補生のみなさん、入学おめでとう」
柔らかな声で話す美しい理事長……。
「……シン?どうしたのさ。具合悪いのか?」
隣にいるハンスが顔を覗き込んできた。
「大丈夫……なんでもないよ」
一度も会ったことがないはずなのに、あの理事長がとても怖くて、まともに顔を見る事が出来ないなんて言えなかった。
皆には分からないんだろうか。
ユーシスという理事長の、目に見えない魔力が蜘蛛の巣のようにこの闘技場に広がっていく。中心にいる理事長は蜘蛛で、新入生は絡め捕られた餌だ。逃げられる気がしない。同時にシンの頭にズキズキと頭が締めつけられるような痛みが走る。そのせいで、理事長の話の後に続いた先生方の紹介も、上級生代表の歓迎の挨拶も、ろくに耳にはいらなかった。
頭痛がようやく治まったので壇上に目をやると、理事長の姿は消えていてシンはほっとした。
あの人がどうしてこんなに怖いんだろう……実力がある人だからだろうか。
「ちょっと、見てあの人!」
ナタリーの鋭い声に、我にかえって意識を入学式に戻すと、ちょうど壇上に兄が上がる所だった。図書館で会った新入生がそれに続く。
兄が騎士の新入生で一位なのは知っている。という事は、図書館の彼は魔法使いの新入生の中で一位だった人だろう。入学試験であれだけ実力があったのだから当然という気がした。
「すごく格好いいんだけど!」
「まさか新入生代表なの!?」
「一位でしかもイケメン!」
「素敵~!!」
ナタリーや魔法使いの女の子達が騒いでる。
確かに弟のシンの目から見てもアルフレッドはかなり格好いいと思う。図書館の人も、別に変な顔じゃない。
「ずるいよな……実力もあって顔もいいなんてさ」
ハンスがブツブツ言ってる。シンにはハンスの気持ちが分かった。優秀な兄はずっとシンの憧れで、彼を劣等感の塊にする。
壇上で先に口を開いたのは図書館で会った彼だった。
「僕は新入生代表のユーリ・ブライシス。魔法使いを目指す新入生の皆、脱落する事なく卒業して一人前になろう。僕のファンの子猫ちゃん達、一年間一緒に頑張ろうね!」
あ、やっぱり変な人だ。
そう思うシンとは対照的に、女の子や一部の男の子から歓声が飛ぶ。本当にファンがいるらしい。子猫とは思えない野太い声も混ざってるが。
ユーリの話が終わり、アルフレッドが口を開く。何も考えてないと言ってたけど、大丈夫だろうか。
「騎士候補生代表のアルフレッド・バージェスだ。護りたいものがあるから騎士を目指している。それは新入生もみんな同じだと思う。順位を賭けた試合にはいつでも応じるが、それなりの覚悟で申し込んでくれ」
闘技場が一瞬静まりかえった。自分の事でもないのにシンは冷や汗が出る。
「バージェス家の息子かよ……」
「確かバージェス家は現、騎士団長だろ」
「ブライシスも優秀な魔法使いの家柄だよ」
「血筋が違うよな」
みんながざわついてる。父親の身分や家柄がそんなに有名だった事をシンは知らなかった。
「……それから、魔法クラスに俺の弟がいる」
兄の言葉には続きがあって、シンはドキリとした。
「弟を苛めた奴は、魔法使いだろうと騎士だろうとボコボコにするからな」