3 新しい生活

 獏に起こされた数時間後の朝。

 シンは制服を着て、教科書の入った鞄を背負い、1年Cクラスの教室の前に立っていた。
 一クラス50人だから教室はけっこう広い。隣り合っているBクラスやDクラスも、教室が広い為か少し距離がある。シンと同じクラスの生徒も何人か来ていて、不安と期待の混ざった表情で席についている。委員長はまだ来ていなかった。

 シンは知り合いの誰もいない教室に緊張しながら入っていった。黒髪をじろじろ見られるのが嫌で、誰とも目を合わせられない。どこに座ろうか悩んで後ろの方に歩いていくと、机にナンバーがふってあることに気がついた。前の方から入学試験の成績のいい順に座るらしい。

 シンの席は窓際から二番目にあった。けっこう後ろの方だ。まだ時間が早いのでシンの机の周りの席は誰も来ていない。シンは鞄から教科書や時間割を取り出して眺めた。

 予定表ではこの後クラス担任の先生の紹介や、今後の授業や学校生活の話があって、その後は屋内闘技場に移動して騎士クラスと合同の入学式だ。多分兄が新入生代表で挨拶をするはず。遠くからでも兄の姿が見られると思うとシンは嬉しかった。

「おはよっ」

 シンはぼんやりしていて、その挨拶が自分に向けられた事にしばらく気づかなかった。

「あっ、おはようございます」

 顔を上げると、日焼けした肌にそばかすのある男の子が人懐っこそうな笑顔で隣に立っていた。

「おいらハンスって言うんだ。よろしく!」

 ハンスは自分の名札を指さしてそう言うと、シンの隣の席に鞄を置く。名札には『ハンス』の後に139の数字。シンのすぐ次の順位だ。

「僕はシンと言います」

「シンはこっちに住んでるの?おいらすごい田舎の出身でさ、一日かけて馬車を乗り継いで来たんだ。この学校、おいらの村と同じくらい広くてびっくりだよ。都ってすごいんだな。こっちには全然知り合いがいないから、友達になってくれよ」

 そう言って差し出された手を、シンは信じられない気持ちで見つめた。

「シン?」

「あ、ありがとう!こちらこそよろしく」

 彼には生まれて初めて出来た友達だった。嬉しくて握手をする手が震えてしまった。
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