3 新しい生活
兄とカフェで別れた後、シンは図書室をもう一度見てまわる事にした。魔法に関する本が多いが歴史や物語のコーナーもあって、本好きのシンとしては嬉しかった。暇な時間はここに来ようと決める。
「あれ……?」
見覚えのある人が、螺旋階段の上から本を抱えて下りてくる。サラサラの髪と綺麗な顔立ちの青年。
シンには一目で分かった。実技試験で炎の鳥を優雅に舞わせた彼だ。あれほどすごい魔法が使えるのなら合格して当然だという気がした。
シンがじっと見ていると目があった。慌てて反らしたが声をかけられる。
「君……」
「す、すみません」
「いや、かまわないよ。僕に見とれる人は多いからね。子猫ちゃん」
何故だろう。ぞわりと鳥肌が立った。子猫ちゃんというのはまさか自分の事だろうか。
その人はサラサラの髪を手でかき上げながら、シンの横を通り過ぎていった。学校にはいろいろな人がいるらしい。
***
食堂は共同の敷地内にあったが、騎士候補生たちと部屋は別だ。
一年生の魔法使いだけで三百人いるのだから、食堂もかなり広い。シンが向かった時間は、夕食には少し早い時間だったので人数もまばらだ。
シンは見よう見まねでトレーを持ち、食器と料理を受け取ると、できるだけ人のいない隅に座って食事をとった。いつも家族で食べていたから、一人で食べるのは心細い。でも、誰かに声をかけてグループに入れてもらう勇気は彼にはなかった。
食事が終わって部屋に戻ると、同室の委員長は不在だった。待っていてもなかなか帰ってこないので、いない間にシャワーを浴びる。シンの黒い髪はどんな染め粉を使っても、どんな魔法を使っても色が変わらない。
「兄さんみたいな赤が良かったな……」
自由に色が変えられるなら、絶対に赤にするだろう。鏡の中の自分を見て、シンは少しだけ残念な気持ちになる。
そのうち外は暗くなり、窓の外の庭には魔法の灯りが灯った。明日は魔法使いと騎士候補生の合同入学式だ。
朝早いから遅れないように早く寝ようと、シンは明日の準備を終えベッドに横になった。
***
ぽたぽた
どこかで水音がする。
久々に聞くその音をどこで聞いたか思い出そうとして、体が動かない事に気づいた。
最近では全く見なくなっていたあの悪夢。その夢の世界に戻って来た事を理解してシンは愕然とした。
「……」
口を開いて声を出そうとしたけど無理だった。部屋はいつもの夢と同じ暗さで、数メートル先に蝋燭の小さな灯りがある。目が慣れてくると、やっぱり両足に枷がはめられているのが見えた。
今の自分とは違う細くて短い足だ。この夢の中では、シンは全く成長していない。子供の頃の記憶なんだろうか。
ぼんやりとそんな事を考えていると、誰かの靴音が近づいてきた。体が動かなくて逃げる事も出来ない。仕方なく目を閉じると、扉が開いて誰かが入ってきた。
シンが眠っているベッドのそばで何か作業をしている。以前夢で見たあの恐ろしい男とは違う気がして、シンはゆっくりと目を開けた。シンのベッドの横で液体の入った瓶、おそらくは彼の血液を回収していた若い男の人と目があった。
助けて、と口を開いた。
「ヒィ!」
シンの口から音は出ず、代わりに若い男の小さな悲鳴が耳に届く。
「化け物……!」
そう呟いて、男は部屋から走り出て行った。
***
目が覚めたシンは、全身に汗をかいていた。部屋は暗いけど、窓から差し込む月の光で、ここが今日入ったばかりの寮の部屋だと分かる。
でも、体が重くて動かない。
かろうじて首を動かしたシンは、胸の上に白と黒の模様の生き物が乗っていることに気づいて悲鳴を上げた。
「あれ……?」
見覚えのある人が、螺旋階段の上から本を抱えて下りてくる。サラサラの髪と綺麗な顔立ちの青年。
シンには一目で分かった。実技試験で炎の鳥を優雅に舞わせた彼だ。あれほどすごい魔法が使えるのなら合格して当然だという気がした。
シンがじっと見ていると目があった。慌てて反らしたが声をかけられる。
「君……」
「す、すみません」
「いや、かまわないよ。僕に見とれる人は多いからね。子猫ちゃん」
何故だろう。ぞわりと鳥肌が立った。子猫ちゃんというのはまさか自分の事だろうか。
その人はサラサラの髪を手でかき上げながら、シンの横を通り過ぎていった。学校にはいろいろな人がいるらしい。
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食堂は共同の敷地内にあったが、騎士候補生たちと部屋は別だ。
一年生の魔法使いだけで三百人いるのだから、食堂もかなり広い。シンが向かった時間は、夕食には少し早い時間だったので人数もまばらだ。
シンは見よう見まねでトレーを持ち、食器と料理を受け取ると、できるだけ人のいない隅に座って食事をとった。いつも家族で食べていたから、一人で食べるのは心細い。でも、誰かに声をかけてグループに入れてもらう勇気は彼にはなかった。
食事が終わって部屋に戻ると、同室の委員長は不在だった。待っていてもなかなか帰ってこないので、いない間にシャワーを浴びる。シンの黒い髪はどんな染め粉を使っても、どんな魔法を使っても色が変わらない。
「兄さんみたいな赤が良かったな……」
自由に色が変えられるなら、絶対に赤にするだろう。鏡の中の自分を見て、シンは少しだけ残念な気持ちになる。
そのうち外は暗くなり、窓の外の庭には魔法の灯りが灯った。明日は魔法使いと騎士候補生の合同入学式だ。
朝早いから遅れないように早く寝ようと、シンは明日の準備を終えベッドに横になった。
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ぽたぽた
どこかで水音がする。
久々に聞くその音をどこで聞いたか思い出そうとして、体が動かない事に気づいた。
最近では全く見なくなっていたあの悪夢。その夢の世界に戻って来た事を理解してシンは愕然とした。
「……」
口を開いて声を出そうとしたけど無理だった。部屋はいつもの夢と同じ暗さで、数メートル先に蝋燭の小さな灯りがある。目が慣れてくると、やっぱり両足に枷がはめられているのが見えた。
今の自分とは違う細くて短い足だ。この夢の中では、シンは全く成長していない。子供の頃の記憶なんだろうか。
ぼんやりとそんな事を考えていると、誰かの靴音が近づいてきた。体が動かなくて逃げる事も出来ない。仕方なく目を閉じると、扉が開いて誰かが入ってきた。
シンが眠っているベッドのそばで何か作業をしている。以前夢で見たあの恐ろしい男とは違う気がして、シンはゆっくりと目を開けた。シンのベッドの横で液体の入った瓶、おそらくは彼の血液を回収していた若い男の人と目があった。
助けて、と口を開いた。
「ヒィ!」
シンの口から音は出ず、代わりに若い男の小さな悲鳴が耳に届く。
「化け物……!」
そう呟いて、男は部屋から走り出て行った。
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目が覚めたシンは、全身に汗をかいていた。部屋は暗いけど、窓から差し込む月の光で、ここが今日入ったばかりの寮の部屋だと分かる。
でも、体が重くて動かない。
かろうじて首を動かしたシンは、胸の上に白と黒の模様の生き物が乗っていることに気づいて悲鳴を上げた。