3 新しい生活
「あの赤い髪の人、かっこいいと思わない?」
不意にそんな言葉が聞こえてきてシンはどきっとする。他に赤い髪の人は見当たらない。間違いなく兄の事だ。
話しているのは近くにいた二人組の女の子で、私服だがえんじ色の短いケープを羽織っているから魔法使いだと分かる。
「魔法使い……じゃないよね」
「銀の刺繍のシャツだから騎士クラスの人だよ!」
「騎士が図書館にいるのって珍しくない?」
「きっと頭もいい人なのよ」
「でも本持ってないよ」
「じゃあ誰かと待ち合わせ!?」
女の子達は、小声できゃっきゃ噂話をしてる。図書館を待ち合わせ場所にして悪かったかなとシンは思った。確かに周りにいるのはほとんど魔法使いだ。
「ねぇ、名前とナンバー見に行く?」
「無理よ~どうやって?」
「相席していいかさりげなく聞くの」
「全然さりげなくないよ、それ!」
女の子達が盛り上がってる。シンが気後れして彼女達の様子を見ていると、先にアルフレッドがシンに気づいた。
「シン!」
呼ばれてテーブルに近づくシンに、女の子達の視線が突き刺さる。会話はひそひそ声に変わったけど、なんとなく嬉しくない内容のような気がした。
「ごめん。待った?」
「いや。さっき来た所だ。何か飲むか?」
「うん」
アルフレッドはカフェにいた男の人にコーヒーとミルクティを注文した。
「図書館で待ち合わせで良かった?」
「ああ。ここは気に入った」
「魔法使いばかりだから、兄さん居づらいんじゃないかと思って」
「そうなのか?」
アルフレッドはそこで初めて周囲を見回した。昔から周りの事は気にしないタイプだったから、この調子だと噂されてた事にも気づいてなさそうだ。
「この植物が真っ直ぐだから見とれていた。すっきりしていいよな。まあ、次からは読めそうな本でも探すよ」
兄が本を読んでいる姿をシンは見たことがなかったが、騎士候補生も筆記試験があったと聞いているので、一位の兄はきっと頭もいいはずだ。
「部屋の窓から騎士の校舎を探したけど、全然見えなかったよ。魔法使いの校舎だけでも広くて迷いそう」
「ああ。俺も探した。同じ敷地内なら、もう少し距離が近いと思ったのにな」
「そうだね」
「同室の奴、居たか?」
「あ、うん。同じクラスの委員長なんだって。何だか気難しそうな人だったよ」
「そうか」
そう言ってアルフレッドが嬉しそうに笑うと後ろの方できゃあ、という控えめな歓声が上がった。
「何で嬉しそうなの?」
シンは少しだけムッとしながら聞く。
「ベタベタしてくる馴れ馴れしい奴より、気難しいくらいの方が安心だろ。委員長やってるなら、問題も起こさないだろうし。どうせ魔法使いと合同のクラス委員長会議があるから、その時に一言言っておくけどな」
「えっ?何を?」
「お前の事に決まってるだろ。お前は何も心配しなくていいから」
「大丈夫だよ」
「何かあったらすぐに言えよ」
真剣な眼差しで言われて、シンはうんうんと頷いた。
兄は本当に過保護らしい。さっき先生に言われた言葉をシンはあらためて実感する。
あまり心配かけないように頑張ろうと思った。
「兄さんの同室はどんな人なの?」
「ああ、俺は一人部屋」
「えっ!?何で?」
「さあな。Aクラスの奴はわりと一人部屋が多いらしい。でも助かったよ。他人が隣で騒いでいると気が散るだろ」
兄が一人部屋だったことにシンは内心安堵している事に気づく。ベタベタしてくる馴れ馴れしい同室者がいたら嫌だと思うのはシンも同じだった。それがどういう感情なのかはよく分からない。
それから他愛ない事をあれこれ話し、しばらく楽しい時間を過ごしてから、部屋に戻る事にした。
「しばらく委員会とか行事が多くて、あまり時間が作れないと思うけど、二日に一回くらいここに来るから」
「兄さん忙しいんだから、僕の事はそんなに気にしなくていいよ」
「そんな事言うな。俺が会いたいんだよ」
そう言ってシンの黒髪をぐしゃぐしゃと撫で回す兄。再び後ろの方で歓声が上がった。
不意にそんな言葉が聞こえてきてシンはどきっとする。他に赤い髪の人は見当たらない。間違いなく兄の事だ。
話しているのは近くにいた二人組の女の子で、私服だがえんじ色の短いケープを羽織っているから魔法使いだと分かる。
「魔法使い……じゃないよね」
「銀の刺繍のシャツだから騎士クラスの人だよ!」
「騎士が図書館にいるのって珍しくない?」
「きっと頭もいい人なのよ」
「でも本持ってないよ」
「じゃあ誰かと待ち合わせ!?」
女の子達は、小声できゃっきゃ噂話をしてる。図書館を待ち合わせ場所にして悪かったかなとシンは思った。確かに周りにいるのはほとんど魔法使いだ。
「ねぇ、名前とナンバー見に行く?」
「無理よ~どうやって?」
「相席していいかさりげなく聞くの」
「全然さりげなくないよ、それ!」
女の子達が盛り上がってる。シンが気後れして彼女達の様子を見ていると、先にアルフレッドがシンに気づいた。
「シン!」
呼ばれてテーブルに近づくシンに、女の子達の視線が突き刺さる。会話はひそひそ声に変わったけど、なんとなく嬉しくない内容のような気がした。
「ごめん。待った?」
「いや。さっき来た所だ。何か飲むか?」
「うん」
アルフレッドはカフェにいた男の人にコーヒーとミルクティを注文した。
「図書館で待ち合わせで良かった?」
「ああ。ここは気に入った」
「魔法使いばかりだから、兄さん居づらいんじゃないかと思って」
「そうなのか?」
アルフレッドはそこで初めて周囲を見回した。昔から周りの事は気にしないタイプだったから、この調子だと噂されてた事にも気づいてなさそうだ。
「この植物が真っ直ぐだから見とれていた。すっきりしていいよな。まあ、次からは読めそうな本でも探すよ」
兄が本を読んでいる姿をシンは見たことがなかったが、騎士候補生も筆記試験があったと聞いているので、一位の兄はきっと頭もいいはずだ。
「部屋の窓から騎士の校舎を探したけど、全然見えなかったよ。魔法使いの校舎だけでも広くて迷いそう」
「ああ。俺も探した。同じ敷地内なら、もう少し距離が近いと思ったのにな」
「そうだね」
「同室の奴、居たか?」
「あ、うん。同じクラスの委員長なんだって。何だか気難しそうな人だったよ」
「そうか」
そう言ってアルフレッドが嬉しそうに笑うと後ろの方できゃあ、という控えめな歓声が上がった。
「何で嬉しそうなの?」
シンは少しだけムッとしながら聞く。
「ベタベタしてくる馴れ馴れしい奴より、気難しいくらいの方が安心だろ。委員長やってるなら、問題も起こさないだろうし。どうせ魔法使いと合同のクラス委員長会議があるから、その時に一言言っておくけどな」
「えっ?何を?」
「お前の事に決まってるだろ。お前は何も心配しなくていいから」
「大丈夫だよ」
「何かあったらすぐに言えよ」
真剣な眼差しで言われて、シンはうんうんと頷いた。
兄は本当に過保護らしい。さっき先生に言われた言葉をシンはあらためて実感する。
あまり心配かけないように頑張ろうと思った。
「兄さんの同室はどんな人なの?」
「ああ、俺は一人部屋」
「えっ!?何で?」
「さあな。Aクラスの奴はわりと一人部屋が多いらしい。でも助かったよ。他人が隣で騒いでいると気が散るだろ」
兄が一人部屋だったことにシンは内心安堵している事に気づく。ベタベタしてくる馴れ馴れしい同室者がいたら嫌だと思うのはシンも同じだった。それがどういう感情なのかはよく分からない。
それから他愛ない事をあれこれ話し、しばらく楽しい時間を過ごしてから、部屋に戻る事にした。
「しばらく委員会とか行事が多くて、あまり時間が作れないと思うけど、二日に一回くらいここに来るから」
「兄さん忙しいんだから、僕の事はそんなに気にしなくていいよ」
「そんな事言うな。俺が会いたいんだよ」
そう言ってシンの黒髪をぐしゃぐしゃと撫で回す兄。再び後ろの方で歓声が上がった。