3 新しい生活
「い、一……?」
見間違いじゃないかとシンは瞬きする。
「シン?」
「うわ!」
目を覚ましたアルフレッドがベッドに起き上がって声をかけると、シンは飛び上がるほど驚いた。
「あ、夕食だよ」
慌ててベッド脇のテーブルに名札を戻すシンの背中に兄が抱きつく。
「……なんか、お前と話すの久しぶり」
「それは兄さんが、毎日出かけてたからだよ」
「んー……」
アルフレッドはまだ寝ぼけているみたいだ。顔をシンの背中に擦り付けてくる。
かっこよくて完璧で、何でもできる兄さんなのに、こんな所は子供っぽいとシンは思った。
「シン」
「何?」
「合格できて良かったな。お前、頑張ったもんな」
「うん。兄さんにはかなわないけどね……って、うわ!」
力強く引っ張られて、シンはベッドに仰向けに倒された。アルフレッドがいたずらっ子のように笑って、シンの顔を覗きこむ。
「シン、お前今日から俺の部屋に泊まっていけよ」
「え!?」
「合格したから当分勉強しなくていいだろ」
「でも」
「お前な、学校は全寮制なんだぞ?入学したら休暇に入るまで一緒に寝れないだろうが」
兄さん……僕と寝て楽しいのかな、そんな言葉がシンの脳裏をよぎった。
「決まりな」
絶句するシンの髪を、アルフレッドが撫でる。この珍しい黒髪を嫌がらずに撫でてくるのは兄だけだ。
だからそのままの姿勢でされるがままになっていると、しびれをきらしたミリアが兄弟を呼びにきた。
「ぼっちゃま達、いい加減に夕食が冷めてしまいますよ……あらまぁ、何をじゃれあっていらっしゃるんですか」
「可愛い弟を撫でてるんだよ」
「分かる気がいたします。シンぼっちゃまは可愛いですから」
「だろ?」
ミリアとアルフレッドは意気投合してる。
呆れたように二人を眺めながらも、入学したら、休暇まで兄と離ればなれになる事にようやくシンは気づいた。
それから入寮までの間、シンは夜になると学校で使う教科書を抱えて兄の部屋を訪れた。
「お前勉強熱心だな」
そう言うアルフレッドは、部屋でストレッチをしている。眠る前の習慣なのだ。
「気休めで読んでるだけだよ」
シンはベッドに入って教科書を開く。でも、文字を目で追っているわけではなく、気がつくといつもアルフレッドを見てしまっている。
兄の身体を綺麗だと思っていることは本人には秘密だ。
十五歳だから、それほどがっちりしている訳ではないが、アルフレッドは鍛えぬかれた体をしていた。そして動きも美しい。
兄は、選ばれた人間なんじゃないかと弟は思う。
「シン?」
ストレッチを終えたアルフレッドが、ベッドでぼんやりしているシンのもとにやって来た。
「え!?何?」
「お前、どこ見てんの?」
焦る弟から本を取り上げると、兄はシンが寝ている広いベッドに滑り込んできた。
「読書終了。俺はもう寝るぞ。お前も寝ろ」
隣で横になると、兄は弟の返事も待たずにベッドサイドの灯りを消す。
「うん」
シンも横になって目を閉じる。
五分もたたないうちに、アルフレッドは寝息を立て始める。
シンは毎日、兄が眠るまで隣でじっとしていて、そしてアルフレッドが眠るとそっと目を開く。
しばらくするとシンの目は暗闇に慣れてくる。
横を向くと、眠っている時だけ少し幼く見える横顔とか、光が当たれば鮮やかに輝く赤い髪が、枕の上でくしゃくしゃになっている所が見える。
起こしてしまう事が怖くて、シンは兄に触れられない。
彼の一番の幸せは、アルフレッドの弟になれた事。でも一番の不幸も、アルフレッドの弟だという事……。
シンのような出来の悪い弟に、そのうち兄は愛想を尽かしてしまうのかもしれない。
今でも騎士の友達と過ごす事が多いから、入学したらもっと騎士同士の繋がりが強くなって、弟の事は気にも止めなくなってしまうだろう。
そして誰もが認める美人の彼女が出来て、付き合う事になり、周りに祝福されて結婚したりするのだろう。
できればずっと、兄の一番は弟の自分であって欲しかった。それが叶わない事は分かっていたが。
今はまだ、幸せの方がずっと多いから、この先の事は考えないようにしよう。
シンはそんな事を考えながら、アルフレッドのそばに擦り寄った。
見間違いじゃないかとシンは瞬きする。
「シン?」
「うわ!」
目を覚ましたアルフレッドがベッドに起き上がって声をかけると、シンは飛び上がるほど驚いた。
「あ、夕食だよ」
慌ててベッド脇のテーブルに名札を戻すシンの背中に兄が抱きつく。
「……なんか、お前と話すの久しぶり」
「それは兄さんが、毎日出かけてたからだよ」
「んー……」
アルフレッドはまだ寝ぼけているみたいだ。顔をシンの背中に擦り付けてくる。
かっこよくて完璧で、何でもできる兄さんなのに、こんな所は子供っぽいとシンは思った。
「シン」
「何?」
「合格できて良かったな。お前、頑張ったもんな」
「うん。兄さんにはかなわないけどね……って、うわ!」
力強く引っ張られて、シンはベッドに仰向けに倒された。アルフレッドがいたずらっ子のように笑って、シンの顔を覗きこむ。
「シン、お前今日から俺の部屋に泊まっていけよ」
「え!?」
「合格したから当分勉強しなくていいだろ」
「でも」
「お前な、学校は全寮制なんだぞ?入学したら休暇に入るまで一緒に寝れないだろうが」
兄さん……僕と寝て楽しいのかな、そんな言葉がシンの脳裏をよぎった。
「決まりな」
絶句するシンの髪を、アルフレッドが撫でる。この珍しい黒髪を嫌がらずに撫でてくるのは兄だけだ。
だからそのままの姿勢でされるがままになっていると、しびれをきらしたミリアが兄弟を呼びにきた。
「ぼっちゃま達、いい加減に夕食が冷めてしまいますよ……あらまぁ、何をじゃれあっていらっしゃるんですか」
「可愛い弟を撫でてるんだよ」
「分かる気がいたします。シンぼっちゃまは可愛いですから」
「だろ?」
ミリアとアルフレッドは意気投合してる。
呆れたように二人を眺めながらも、入学したら、休暇まで兄と離ればなれになる事にようやくシンは気づいた。
それから入寮までの間、シンは夜になると学校で使う教科書を抱えて兄の部屋を訪れた。
「お前勉強熱心だな」
そう言うアルフレッドは、部屋でストレッチをしている。眠る前の習慣なのだ。
「気休めで読んでるだけだよ」
シンはベッドに入って教科書を開く。でも、文字を目で追っているわけではなく、気がつくといつもアルフレッドを見てしまっている。
兄の身体を綺麗だと思っていることは本人には秘密だ。
十五歳だから、それほどがっちりしている訳ではないが、アルフレッドは鍛えぬかれた体をしていた。そして動きも美しい。
兄は、選ばれた人間なんじゃないかと弟は思う。
「シン?」
ストレッチを終えたアルフレッドが、ベッドでぼんやりしているシンのもとにやって来た。
「え!?何?」
「お前、どこ見てんの?」
焦る弟から本を取り上げると、兄はシンが寝ている広いベッドに滑り込んできた。
「読書終了。俺はもう寝るぞ。お前も寝ろ」
隣で横になると、兄は弟の返事も待たずにベッドサイドの灯りを消す。
「うん」
シンも横になって目を閉じる。
五分もたたないうちに、アルフレッドは寝息を立て始める。
シンは毎日、兄が眠るまで隣でじっとしていて、そしてアルフレッドが眠るとそっと目を開く。
しばらくするとシンの目は暗闇に慣れてくる。
横を向くと、眠っている時だけ少し幼く見える横顔とか、光が当たれば鮮やかに輝く赤い髪が、枕の上でくしゃくしゃになっている所が見える。
起こしてしまう事が怖くて、シンは兄に触れられない。
彼の一番の幸せは、アルフレッドの弟になれた事。でも一番の不幸も、アルフレッドの弟だという事……。
シンのような出来の悪い弟に、そのうち兄は愛想を尽かしてしまうのかもしれない。
今でも騎士の友達と過ごす事が多いから、入学したらもっと騎士同士の繋がりが強くなって、弟の事は気にも止めなくなってしまうだろう。
そして誰もが認める美人の彼女が出来て、付き合う事になり、周りに祝福されて結婚したりするのだろう。
できればずっと、兄の一番は弟の自分であって欲しかった。それが叶わない事は分かっていたが。
今はまだ、幸せの方がずっと多いから、この先の事は考えないようにしよう。
シンはそんな事を考えながら、アルフレッドのそばに擦り寄った。