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「こいつアウトォォオオ!!!」
教団内に響き渡った門番の絶叫によって、彼はムクリと起き上がった。
鎖骨の辺りに落ちてきた赤銅色の髪を、かきあげるように後ろへ流す。
寝起きに霞む目を軽く擦ると、ベッドの上に座り直した。
「……なに?」
「こいつバグだ!額のペンタクルに呪われてやがる!アウトだアウト!!」
続く門番の喚き声で眠気を覚ましつつ、適当に後ろ髪をひとまとめにする。
髪紐でうなじの辺りに括ると、慌ただしい科学班の研究室へ入った。
『スパイ侵入スパイ侵入!』
「おい、城内のエクソシストは……。」
騒がしい警報に混じって、リーバーの声が聞こえる。
誰もいなければ自分が出ようかと、彼が口を開きかけた時、モニターを見ていたリナリーが言う。
「神田がもう着いたわ。」
その声に、彼はふっと気を抜いた。
神田がいるなら、自分は必要ないだろう。
そう判断して、ひとまずは状況把握に努めることにした。
「侵入者ですかぁ……?」
「あ、ヒュース。」
ヒュースと呼ばれた彼は、リナリーに軽く手を振りつつ、説明を促す。
「アクマでも来た?」
「うーん、たぶん。でも1体だけみたいだし、神田が出てくれたから大丈夫よ。」
「ふーん?」
教団本部にたった1匹でやって来るとは、とんだ命知らずだ。
呆れまじりに、ヒュースは画面に目を向ける。
そこには、白髪の少年らしき人物が、歪な左腕を掲げ神田と対峙していた。
それを見て、ヒュースはわずかに眉を寄せる。
(あの腕……アクマ……?何か違う気が……。)
その違和感を図りかねているうちに、画面越しの神田が口を開く。
『お前……その腕はなんだ?』
どうやら彼も違和感を持ったらしい。
不信感を滲ませた声で問いかける。
『……対アクマ武器ですよ。僕はエクソシストです。』
少年の答えにざわめきが広がる。
さすがにアクマが吐くにしては大胆が過ぎる嘘だ。
さすがの神田も、どういうことかと門番を恫喝している。
だが、その逡巡も一瞬のもの。
『……まぁいい。中身を見ればわかることだ。』
そう言って神田は六幻を構え直す。
大雑把過ぎやしないか。
止めてやった方がいいだろうかと考え始めたところで、少年の焦った叫び声が聞こえる。
『クロス師匠から紹介状が送られてるはずです!!』
その声に、研究室のざわめきがピタリと止まる。
同時に神田も、少年の鼻先に六幻を突き付けた状態で動きを止めた。
『元帥から……?』
「紹介状……?」
ヒュースは驚きの滲む声で呟く。
クロス・マリアン元帥。
教団で過ごして1年程経つが、未だ一度も会ったことがない元帥だ。
長期任務で本部を空けることが多い元帥の中でも、完全に音信不通を決め込んでくるという曲者と聞いている。
そんな人の弟子と聞いて、興味が湧かないわけがない。
沈黙が降りた中で、続く少年の声が聞こえた。
『コムイって人宛てに。』
途端、皆の視線が一箇所に集まる。
それはもちろん、呑気に口元を拭いているコムイに注がれていた。
コムイは眼鏡をクイっと上げると、近くにいた研究員をビシッと指差した。
「そこのキミ!」
「は、はい?」
そして困惑する相手に構わず、次いで自らの机を指し示す。
「ボクの机調べて!」
「アレをっスか……。」
この世の終わりのような顔をしている。
それもそのはず、コムイの机は書類が山積み、埃や蜘蛛の巣にさえ塗れている、魔窟と言って差し支えない見た目をしているのだ。
コムイに刺さる視線は、より冷たいものになる。
「コムイ兄さん。」
「コムイ室長……。」
リナリーとリーバーの諭すような声。
しばらくの沈黙の後、コムイは陽気に挙手をした。
「ボクも手伝うよ!」
お前の机だろうが、というツッコミを、全員が心の中に飲み込んだ。
ヒュースは少し躊躇いながらも「手伝いますか?」とリーバーに言う。
だがリーバーは無慈悲に首を振ると、くわえ煙草に火を点けつた。
「放っとけ。あの人の自業自得なんだから、甘やかさんでいい。」
なるほど、手厳しいがごもっともだ。
仕方なく苦笑を浮かべると、ヒュースは事の行く末を見守った。
「あった!ありましたぁ!!」
しばらくして、ヘロヘロになった研究員が、同じくヘロヘロになった手紙を発掘した。
「読んで!」
コムイは手にしていた書類を放りつつ、声高に言う。
(ああやって放ったりするから、散らかるんじゃないのかなぁ……。)
そんなことを思いつつ、ひとまずは手紙の内容に耳を傾けた。
「"コムイへ。近々、アレンというガキをそっちに送るのでヨロシクな。Byクロス"です!」
「はい!そーゆうことです。リーバー班長、神田くん止めて!」
「たまには机整理してくださいよ!!」
しれっとコーヒーのおかわりを注ぎにいくコムイに、リーバーが怒鳴りつけた。
それから慌てて神田を止めている。
明日にでもリナリーと一緒に、多少はあの机を整理してやろうか。
「リナリー、ヒュースくん。ちょっと準備を手伝って。」
ヒュースが密かに息を吐いた時、コムイが言う。
リナリーとヒュースが顔を向けると、どこか楽しげに口元を緩めた。
「久々の入団者だ。」
その言葉に、ヒュースは少しだけ記憶を辿る。
確かに自分を最後に、入団者がいた記憶はない。
「クロスが出してきた子か……。鑑定しがいがありそうだ♬」
そう言ったコムイの表情は、"研究者"のそれに思えた。
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