第2話 いとけない笑顔
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昼飯を食べ終わってからは、貴志くんに家の周辺を案内していった。
うちから一番近いコンビニ、スーパー、ドラッグストア、それから小学校の場所。
念のために交番と、おれの通う高校までの行き方も説明しておいた。
「一回じゃ覚えられないだろうから、小学校とかスーパーとか、必要な場所は今度また一緒に行こうね。それと、おれの高校の連絡先とケータイ番号もあげるから、何かあればそこに連絡して。」
落ち着かない様子で街並みを見ている貴志くんに、おれはそう言った。
両親が基本家にいない以上、この子に何かあった時緊急連絡先になるのはおれだ。
うちの担任にはすでに話は通してあるし、この子やこの子の小学校から連絡があればおれに伝えてくれるはず。
幸いおれの高校と、貴志くんが通う予定の小学校は歩いて20分ほどの距離だ。
おれは基本チャリ通学だし、飛ばせば5分くらいで着けるだろう。
前の学校では問題を起こして保護者が呼び出されたこともあったと聞くけど、まあそうなったらなるようになれだ。
あの小学校はおれの母校でもあるし、もしかしたらおれを知ってる先生が残っているかもしれない。
そういう話が通じそうな相手に事情を説明して、納得してもらえるように努めよう。
そう方針を決めつつ、おれたちは帰りがけにスーパーへ向かった。
ちょっと早いけど、ついでに夕飯の買い出しをするつもりだ。
貴志くんの分も用意することを考えれば、今家にある食材じゃ足りない。
「貴志くん、夕飯何がいい?」
おそらくちゃんと答えは返ってこないだろうとは思いつつ、買い物籠を手にしてそう聞いた。
案の定、貴志くんは困ったような顔をしてこちらを見返してくる。
せめて選択肢を与えてあげた方がいいかと思って、おれは少しだけ思考を回す。
子供が好きな食べ物といえば、カレー、ハンバーグ、唐揚げ、オムライス、ミートソースパスタ……。
いや、パスタは昼に食べたからなしだな。
ついでに、揚げ物はめんどいから唐揚げもなし。
となると、カレーかハンバーグかオムライス。
そう考えたところでふと思いつく。
(貴志くんも手伝えるものの方がいいか。)
彼の様子からして、何もせず待っているのは落ち着かないだろうし、おれとしてももっと彼を観察しておきたい。
単純に料理という共同作業を通して仲良くなれるかもしれないし、仲良くなれば問題行動も起こさないかもしれない。
悪くないだろう。
(とすると、子供がお手伝いできそうなのは……。)
「……カレーとハンバーグなら、どっちがいい?」
カレーなら、野菜を切ったりお鍋を混ぜたりしてもらえばいいし、ハンバーグなら生地をこねてもらえばいい。
子供が手伝う料理としては、比較的ポピュラーな選択だろう。
それに、カレーは明日にも取っておけるし、ハンバーグも多めに作っておけば明日に回せる。
自炊効率の面で見ても悪くない。
我ながら天才的な提案と思いつつ、改めて貴志くんの様子を伺う。
貴志くんは、それでも少し困ったような顔をしていたけれど、少し考えるとおずおずと口を開いてくれた。
「えっと……ハンバーグがいい、です……。」
ようやっと引き出せた答えに、おれは安堵もあってふっと表情を緩める。
「オッケー!じゃあ玉ねぎは家にあったから、ひき肉と……あと卵かな。パン粉もあったはず……ウスターソース買っちゃえばソースも作れるか……。」
頭の中で冷蔵庫と戸棚の中身を思い出しつつ、買うべきものを整理する。
せっかくだから、食後のデザートとかも買っちゃおうかな。
どうせ明日には両親のどっちかが食費持ってくるだろうし、多少豪遊してもいいはずだ。
そもそも普段から節約はしていて、貯めているお年玉やお小遣いも合わせれば、実は10万ちょっとは貯金がある。
そう考えれば、ちょっと一食豪勢にするくらい大した出費じゃない。
「貴志くん、デザートにさ、プリンとか買っちゃわない?」
おれはニヤッと笑って貴志くんに言った。
貴志くんは目をぱちくりと瞬かせて、ぽかんとした顔でおれを見上げてくる。
その様子が年相応に可愛くて、おれはクスクスと笑いながら続けた。
「ちょっとだけ贅沢しちゃおうよ。プリンじゃなくても、ゼリーとかアイスとか……どう?」
そう聞くと、貴志くんはじわっと僅かに口元を緩ませた。
滲む嬉しさを堪えるような顔をすると、けれどすぐにパッと俯いてしまう。
反応からデザートが嫌なわけではないと判断して、おれはもうひと押しと貴志くんへ頭を寄せた。
「おれがデザート食べたいからさ、共犯になってよ。」
悪巧みでもするようにそう耳打ちすれば、貴志くんはまたぽかんとした顔でこちらを見返してくる。
それからすぐにクスクスと笑い出すと、こくりと頷いて言った。
「僕、アイスが食べたいです。」
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