第1話 出会い
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今でもよく覚えている。
あの日は、春と梅雨を行ったり来たりしているような、そんな中途半端な日々の真ん中だった。
葉桜の下には水溜まりがあって、それが陽光を浴びてガラス細工のように光り輝く。
その光を砕いて駆ける小学生に目を細めながら、俺は友人に問うたのだ。
「……弟ってさ、どんな感じ?」
なかなか抽象的な問いだったと思う。
案の定、友人は眉を顰めた。
「……どんなって何?」
彼なりに言葉を選んで返してくれたのだろう。
俺がどんな突飛なことを言っても、必ず一度考えてから返してくれる彼のことを、俺は信頼している。
だとしても、今の問い掛けはさすがに突飛過ぎた。
俺は苦笑を浮かべて見せてから、もう一度考えつつ口を開く。
「うーんと……関わり方とか?どんな話するのかとか、どのくらいの距離感なのかとか……。」
俺の言葉に、友人は改めて思考を回してくれる。
「関わり方っつったって……うちの弟今反抗期真っ只中で、ろくに喋りもしないしなあ。」
「あー、そっか……そういうのもあるか……。」
「……てかなんでそんなこと聞いてくんの?」
「あー……。」
ごもっともな質問に、目線を泳がせる。
彼は俺の家庭環境を知っているし、一般的な理由で弟ができるとは思っていないのだろう。
俺はため息を吐きつつ、その特異な理由を口にした。
「親戚の子預かることになったんだよ。」
「……お前んちで?」
今日一訝しげな顔をされてしまった。
まあそれはそうだろう。
前述の内容で察しがつくと思うが、うちの家庭環境は芳しくない。
両親は再婚で、俺は母親の連れ子。
血の繋がらない父からはあまり良く思われていないし、そもそも両親共働きのため俺はほぼ放置されている。
その上、数年前に母が仕事で出世してからは、夫婦仲もあまりよろしくない。
そんな家で子供を預かるなど、普通なら言語道断と言えるレベルだろう。
けれど、今回は「普通」ではない。
「どうもその子、親戚んちをたらい回しにされてるみたいなんだよね。普段は大人しいんだけど、なんか虚言癖があるとかで。」
両親を幼い頃に亡くしたというその少年は、構ってほしいのか気味の悪い嘘を吐くのだという。
独り言を言っていたり、たまに物を壊してしまうこともあると聞いた。
それでどの家も引き取りたがらず、ついにはうちにまでお声がかかったというわけだ。
「その子いくつなん?」
「9歳って聞いた、小3かな?」
「じゃあうちは参考になんねえよ。うちの弟もう中2だぞ?」
友人は呆れのため息を吐く。
たしかに、9歳と14歳じゃあまりにも勝手が違う。
俺も諦めて苦笑しつつ友人に礼を言った。
「サンキュ、まあなんとか頑張るわ。」
正直、子供の面倒なんて見てやれる自信はなかった。
俺だってまだ高2で、16歳の子供なのだ。
お金だけはちゃんと貰えてるとは言っても、自分のことで精一杯なのは変わりない。
けれど当然、両親も親戚連中も、そんなこと気にかけてくれるわけがないのだから、俺が世話をするのは決定事項だろう。
前評判は随分と厄介そうだが、果たしてどんな悪ガキが来るのか……。
(さっさと次の引き取り手が見つかるのを、祈るしかないな……。)
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