第2夜〜鴉〜
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結果的に、おれには鴉としての才能があった。
術式の覚えも早かったし、扱いもすぐに理解した。
漫画で見たことあったというのはデカいだろう。
ただ問題は、体術面。
今世ではずっと地下室から出たことがなかったから、とにかく体力がない。
体格も同い年の平均に比べて小さく、当然筋力もない。
前世では中高でバスケはやってたけど、そんなもの体術には活かせるはずもない。
術式の扱いがうまかった分、おれは「宝の持ち腐れ」と陰口を言われるようになってしまった。
まあ教団側からすれば、おれみたいな大義も忠義も持たない餓鬼は、さっさと切り捨ててしまいたいのだろう。
それがなまじ術式だけは一丁前なせいで、捨てるに捨てきれないとなれば、腹立たしくもなるというもの。
おれとしては「ざまあみろや」という心境なので、陰口なんて全く苦でもない。
けれど、訓練はきつかった。
体術訓練で毎回ボロボロにされて、休む間もなく術式訓練。
気絶するように寝て、目が覚めたらまた訓練……。
前世で過労死した時のことを思い出した。
それでも今回は死ななかったのは、単にこの身体が発展途上であったからだろう。
子供の順応力と成長速度は大人の比ではない。
半年も経つ頃には、この地獄のような生活もすっかり馴染んでいた。
体術もだいぶ上達して、なんとか置いていかれない程度にはなった。
けれど、まだ足りない。
普通の人間なら十分すぎるほどの能力も、鴉になるのは不十分だ。
それでも、モルモットになるよかマシだと、おれは無心で訓練を積む日々を送った。
時間は正に飛ぶように過ぎて、鴉としての訓練を受け始めて4年が経とうとした時。
ひとつ、転機が訪れた。
転機と言うのかは些か微妙だが、おれにとってはひとつの朗報と言える。
「……はじめまして、ハワード・リンクです。」
目の前の小さな少年がそう言った。
ハワード・リンク。
中央庁の鴉であり、ルベリエの犬。
彼は本編に登場した時、19歳だったはずだ。
それが、まだこんな年端もいかぬ子供ということは、本編開始はまだ10年は先なんじゃないか?
「……おれはエリオット・テイラー。よろしく……ハワード。」
一瞬「リンク」と呼びそうになったが、お互いの状況を考えればファーストネームの方がいいだろう。
いや、ここがまともな状況じゃないのは十分わかっているけど、だからこそ、子供は正当に子供扱いしておきたかった。
まあ、おれ自身も14で子供なわけだけど、前世と合わせりゃもうすぐ40を迎える頃合いなのだ。
平凡に生きてりゃ、むしろ目の前にいるリンクくらいの子供がいたっておかしくない。
そう考えると、彼に対して抱いた感情は、庇護欲や父性のようなものだったのだろう。
きっとおれが干渉しなくとも、彼はここで生きていける。
それでも「生かしてあげたい」と思ったのだ。
(ここでおれが何かすることで、彼の運命が歪むのかはわからないけれど……。)
ただ少しでも長く、自らが生きながらえる道を選べる子になってほしいと思った。
だからおれは、おれの教えられる全てを彼に叩き込んだ。
術式の展開速度、体術の重さ、非常時に生き残る術、そのための思考と体の鍛え方。
案の定、彼はその飲み込みが早かった。
(当然か……だからこそ、彼は鴉としてあの場にいたんだろう。)
明らかにおれより吸収が早いことに、内心舌を巻いていた。
やはり、彼が「ルベリエの番犬」にまで上り詰めたのは、間違いなく素質があったからだろう。
たった1年で、おれが教えられることはほとんどなくなってしまった。
そしてそんな折、唐突に事態が一転した。
「君には教団へ行っていただきます。」
それは死刑宣告。
不敵に笑うルベリエがおれに言った。
おれは何か言い返そうと口を開きかけ、けれどすぐにやめた。
5年。
この男の中では、初めから期日が決まっていたのだろう。
そしてそれまでに納得の出来にならなかったから切り捨てた、それだけのこと。
おれはひとつ大きく息を吐くと、諦めと共にルベリエを見返した。
「期限があるなら、先に言ってくださいよ。」
おれの言葉に、ルベリエは肩をすくめる。
「期限がないとも、言っていないでしょう?」
屁理屈もいいところだ。
けれど、屁理屈も理屈のうち。
確認をしなかったおれが悪いと言われてしまえば、それまでだろう。
ならば、足掻いたとて無駄なこと。
「どうもお世話になりました。」
おれはわざと、仰々しくお辞儀をしてやった。
いっぺん死んでいるからか、死への恐怖感というものは薄いのだけれど、本編開始前に退場という事実が、少しだけ残念だった。
術式の覚えも早かったし、扱いもすぐに理解した。
漫画で見たことあったというのはデカいだろう。
ただ問題は、体術面。
今世ではずっと地下室から出たことがなかったから、とにかく体力がない。
体格も同い年の平均に比べて小さく、当然筋力もない。
前世では中高でバスケはやってたけど、そんなもの体術には活かせるはずもない。
術式の扱いがうまかった分、おれは「宝の持ち腐れ」と陰口を言われるようになってしまった。
まあ教団側からすれば、おれみたいな大義も忠義も持たない餓鬼は、さっさと切り捨ててしまいたいのだろう。
それがなまじ術式だけは一丁前なせいで、捨てるに捨てきれないとなれば、腹立たしくもなるというもの。
おれとしては「ざまあみろや」という心境なので、陰口なんて全く苦でもない。
けれど、訓練はきつかった。
体術訓練で毎回ボロボロにされて、休む間もなく術式訓練。
気絶するように寝て、目が覚めたらまた訓練……。
前世で過労死した時のことを思い出した。
それでも今回は死ななかったのは、単にこの身体が発展途上であったからだろう。
子供の順応力と成長速度は大人の比ではない。
半年も経つ頃には、この地獄のような生活もすっかり馴染んでいた。
体術もだいぶ上達して、なんとか置いていかれない程度にはなった。
けれど、まだ足りない。
普通の人間なら十分すぎるほどの能力も、鴉になるのは不十分だ。
それでも、モルモットになるよかマシだと、おれは無心で訓練を積む日々を送った。
時間は正に飛ぶように過ぎて、鴉としての訓練を受け始めて4年が経とうとした時。
ひとつ、転機が訪れた。
転機と言うのかは些か微妙だが、おれにとってはひとつの朗報と言える。
「……はじめまして、ハワード・リンクです。」
目の前の小さな少年がそう言った。
ハワード・リンク。
中央庁の鴉であり、ルベリエの犬。
彼は本編に登場した時、19歳だったはずだ。
それが、まだこんな年端もいかぬ子供ということは、本編開始はまだ10年は先なんじゃないか?
「……おれはエリオット・テイラー。よろしく……ハワード。」
一瞬「リンク」と呼びそうになったが、お互いの状況を考えればファーストネームの方がいいだろう。
いや、ここがまともな状況じゃないのは十分わかっているけど、だからこそ、子供は正当に子供扱いしておきたかった。
まあ、おれ自身も14で子供なわけだけど、前世と合わせりゃもうすぐ40を迎える頃合いなのだ。
平凡に生きてりゃ、むしろ目の前にいるリンクくらいの子供がいたっておかしくない。
そう考えると、彼に対して抱いた感情は、庇護欲や父性のようなものだったのだろう。
きっとおれが干渉しなくとも、彼はここで生きていける。
それでも「生かしてあげたい」と思ったのだ。
(ここでおれが何かすることで、彼の運命が歪むのかはわからないけれど……。)
ただ少しでも長く、自らが生きながらえる道を選べる子になってほしいと思った。
だからおれは、おれの教えられる全てを彼に叩き込んだ。
術式の展開速度、体術の重さ、非常時に生き残る術、そのための思考と体の鍛え方。
案の定、彼はその飲み込みが早かった。
(当然か……だからこそ、彼は鴉としてあの場にいたんだろう。)
明らかにおれより吸収が早いことに、内心舌を巻いていた。
やはり、彼が「ルベリエの番犬」にまで上り詰めたのは、間違いなく素質があったからだろう。
たった1年で、おれが教えられることはほとんどなくなってしまった。
そしてそんな折、唐突に事態が一転した。
「君には教団へ行っていただきます。」
それは死刑宣告。
不敵に笑うルベリエがおれに言った。
おれは何か言い返そうと口を開きかけ、けれどすぐにやめた。
5年。
この男の中では、初めから期日が決まっていたのだろう。
そしてそれまでに納得の出来にならなかったから切り捨てた、それだけのこと。
おれはひとつ大きく息を吐くと、諦めと共にルベリエを見返した。
「期限があるなら、先に言ってくださいよ。」
おれの言葉に、ルベリエは肩をすくめる。
「期限がないとも、言っていないでしょう?」
屁理屈もいいところだ。
けれど、屁理屈も理屈のうち。
確認をしなかったおれが悪いと言われてしまえば、それまでだろう。
ならば、足掻いたとて無駄なこと。
「どうもお世話になりました。」
おれはわざと、仰々しくお辞儀をしてやった。
いっぺん死んでいるからか、死への恐怖感というものは薄いのだけれど、本編開始前に退場という事実が、少しだけ残念だった。
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