第2話 再会と贖罪
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正直、2限目以降の授業はほとんど頭に入ってこなかった。
結局咲良は、「放課後またおいで」とだけ言って、夏目を授業へ送り出した。
話したいことはある。
聞きたいことも山ほどある。
けれど、何を話せばいいのか、何なら話していいのかがわからなかった。
(咲良さんは、おれに何を言うつもりなんだろう……。)
真っ先に浮かんだのは、「恨み言」という選択肢。
いや、あの優しい咲良がそんなことを言うはずがない。
そう思うけれど、どうしても嫌な考えは拭えない。
恨み言のひとつやふたつ言われるほどのことを、夏目は彼にしてしまったのだ。
(まず、は……謝罪と……それから、今の咲良さんの……いや、そんなこと聞いてどうする……。)
そもそも咲良は、もう自分と話したくはないのかもしれない。
考えれば考えるほど、嫌な思考ばかりが巡る。
そして、頭の中がぐちゃぐちゃなまま、放課後を迎えた。
一緒に帰ろうと言ってくれた西村たちを断って、夏目は社会科準備室へ足を向ける。
別にやましいことがあるわけでもないのに、周りに人がいないかと気にしてしまう。
ひとつ、深呼吸。
ドアをノックした。
「はーい。」
すぐに中から声が返ってくる。
ドア越しにくぐもった、彼の声だ。
数秒の後に、ガラリとドアが開く。
「いらっしゃい。」
にこりと、笑顔の咲良が顔を出す。
夏目は硬い表情のまま「どうも」とだけ返した。
「入りなよ、今誰もいないから。」
そう言った咲良に従って、夏目は社会科準備室へ入る。
咲良から目を離さないまま、静かにドアを閉めた。
室内には、資料棚の奥に、小さなソファとテーブルがある。
彼は夏目にそこへ座るよう促すと、壁際の給湯器へを手を伸ばす。
「貴志はコーヒー飲める?ココアもあるけど。」
「いえ、おれは……。」
申し訳ないが、そこまで長居をするつもりはない。
もし彼から恨み言を言われるのだとしたら、自分が耐えられる気などしないのだから。
夏目の気まずげな雰囲気を察したのだろう。
一度目を細めた咲良は、すぐににこりと笑って夏目の正面へと座った。
それを見た夏目は、咲良が何か言うより先に口を開く。
「あの……!おれ、咲良さんにずっと言わなきゃいけなかったことがあって……。」
視線が下がる。
どうしても、咲良の顔を見ていられなかった。
「おれ……あの時のこと……。」
「謝るつもりなら、それはいらないよ。」
息が止まった。
見透かされている。
その上で、彼は謝罪をさせてくれる気はないのだ。
じわりと、視界が滲む。
泣く資格なんてないくせに。
やはり彼は、自分とは二度と会いたく無いと思うほど、自分のことを恨んでいるのだろう。
そのことがただただ辛かった。
けれど、不意に頭に重みを感じる。
ふわりと、優しくて温かい、確かな重み。
「ごめん、言い方間違えたね。俺はあの時のことを、貴志のせいだなんて思ってない。だから謝る必要はないよって言いたかったんだ。」
くしゃりと、髪を乱される。
撫でられている。
『大丈夫だよ、貴志。』
ああ、昔のままだ。
あの頃の、優しい「花緒さん」のまま。
滲んだ視界から、次々と雫が落ちる。
何か言葉にしようとしても、喉につかえてうまく出てこない。
ただただ、ゆっくりと撫で続けてくれる花緒の手の感触が、どうしようもなく嬉しかった。