プロローグ
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いつも通り朝食をとり、いつも通りに家を出る。
けれど、いつも通りの学校生活の始まり、とはならなかった。
「えー、前から言っていた通り、今日から公民担当の先生が産休に入る。そのため、先生が復帰されるまでは非常勤の先生に来ていただくことになった。」
朝のHRで、担任がそう言った。
そういえば、ひと月ほど前からそんな話を聞いていた気がする。
クラスメイトが俄かにざわつく。
今日の1限は政治経済。
早速、その非常勤講師の授業なのだ。
「どんな先生だろうな、夏目。美人かな〜。」
見るからにそわそわとした様子の西村が言う。
夏目とて気にならないわけではないが、いかんせん西村とは気にする視点が違う。
「優しい先生だといいな。」
妖怪たちの相手で寝不足になりやすい夏目としては、万が一居眠りをしてしまっても笑って叱ってくれるくらいの優しい先生であった方が都合がいい。
もちろん、寝ないように努力するのは前提として、だ。
「え〜!夏目だって美人な先生に教えてもらった方が、なんかやる気出るだろ?」
「西村じゃないんだから、そんなことおれは気にしてないよ。」
「なんだとぉ!?」
西村が心底不服そうな声を上げたところで、チャイムが鳴った。
1限が始まる。
西村は慌てて席に戻り、そして教室内が言い知れぬ沈黙に包まれた。
ひそひそとした話し声と、隣の教室の喧騒が聞こえる。
けれど、それもほんの数秒。
すぐにガラリと教室のドアが開いた。
まず目についたのは、その人物のまとう白衣。
実験のある理科教師でもないのに、膝まである白衣を身にまとっている。
さっぱりと切り揃えられた黒髪は清潔感があり、すらりとした体躯と相まって女生徒たちがわずかに色めき立つ。
教卓に持っていた教材を置き教壇に立ったその人は、こちらを見渡しにこりと優しげな笑みを浮かべた。
「はじめまして、私は今日からきみたちの政経を受け持ちます、咲良 花緒といいます。」
言って教卓に置いた教材からチョーク入れを手にする。
そこから白チョークを取り出すと、黒板に線を走らせた。
「咲良、花緒……こう書きます。できるだけわかりやすい授業を心掛けるけど、見ての通りまだまだ新米教師なんで、わかんないよってとこあったら遠慮なく聞いてください。」
言ってもう一度にこりと笑うと、「よろしく」と口にする。
だが、生徒たちが各々小さく会釈するのを他所に、夏目は咲良と名乗った教師を見て硬直していた。
(……花緒さん?)
似ている。
小学生の頃、3ヶ月ほどお世話になっていた親戚の家。
その家で良くしてくれた、そして夏目が取り返しのつかない傷を負わせてしまった人に、その教師はよく似ていたのだ。