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泣いていた。
幼い自分が泣いていた。
泣いて許されることではないというのに、それでも涙が止まらなかった。
───大丈夫だよ。
ふと、温かい手が頭を撫でる。
その温度があまりにも優しくて、なおさら涙が溢れてきた。
───ごめんね。
ああ、違う。
謝らないで。
あなたは何も悪くないのに。
そう伝えたいのに、うまく言葉が出てこない。
見上げたあの人の、柔らかく細められたその目だけが、いつまでも記憶から出ていってくれなかった。
* * *
「……。」
懐かしい夢を見た。
とても暖かくて、けれど残酷な記憶。
目が覚めた時に頬が濡れていなかったことが不思議なくらいに、夢の中の自分は泣いていた。
「また妙な夢を見ていたな。」
布団に座りぼーっとしていると、ニャンコ先生が声をかけてきた。
その言葉に、少しムッとする。
「……見たのか。」
今更ニャンコ先生に夢を見られることなどいちいち気にしていないが、今回は別だ。
この記憶は、明確な自分の"罪"なのだ。
他人に知られていい気はしない。
だが、あからさまに眉を顰めた夏目に対し、ニャンコ先生は興味なさげに鼻を鳴らした。
「残念だがほとんど見えておらん。余程お前自身が見られたくない内容だったのだろう。無意識に結界のようなものを張っとったぞ。」
「……そう、か。」
そのことに安堵したのと同時に、微かな罪悪感のようなものが這い出る。
無意識に結界を張り、ひとに見せないようにする程には、自分の中であの出来事が"罪"として根付いているのだ。
ズグっと、心臓の辺りが軋む。
あんなにも暖かかったはずの記憶を、幼かった自分は壊してしまった。
自分の未熟さで、取り返しのつかない罪を犯してしまったのだ。
泣いていいのは、自分じゃない。
それもわかっているのに、涙を止めることすらできないことが、ただ悔しかった。
「……おい、夏目。ぐすぐずしていると遅刻するぞ。」
きゅっと目を細めて、ニャンコ先生が言う。
彼なりに夏目の気持ちを切り替えようと、気を遣ってくれているのだろうか。
彼自身へそんなことを言えば、小馬鹿にしたような態度が返ってくるのだろうけれど。
夏目はふっと小さく笑うと、学校に行くため布団から抜け出した。
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