プロローグ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼が"ラビ"として所属することとなったのは、「黒の教団」。
AKUMAを使い世界を終焉へ導かんとする千年伯爵と対抗するための、エクソシスト擁する組織だ。
彼は、エクソシストとしてそこに籍を置くこととなる。
今までのログでも前線に出ることはあったが、自分が戦争の主戦力として参加する機会はそう多くなかった。
緊張とまではいかないが、それなりに心構えは違う。
今日はエクソシストとしての初任務だ。
教団へ来てから鍛錬は積んで、十分にシンクロ率も上げてきた。
果たしてどんな任務を言い渡されるのかと思っていたら、内容は単純な討伐任務だった。
早めにイノセンスによる奇怪を記録しておきたかったが、まずは実践経験を積んでおけということなのだろう。
いくら数々の戦争を記録してきたといっても、エクソシストとしては新米なのだ。
ただの討伐任務でありながら、ブックマンと2人ではなく、先輩エクソシストが同行するというのも、まだまだ信頼されていない証拠だろう。
室長であるコムイは随分と人が良さそうに見えたが、指揮官としての判断力は持ち合わせているらしい。
さて、問題はその同行するエクソシストだ。
先の任務地から直接今回の任務地へ来るとのことで、先着した彼とブックマンは駅で到着を待っている。
コムイの話では、今元帥に最も近いと言われるほどの実力者で、それなりの古株とのことだが。
「……来たか。」
目の前に汽車が止まり、ブックマンが言う。
その視線を辿れば、汽車のドアのひとつから、見慣れた白いコートが出てきた。
任務に同行するファインダーだ。
彼はこちらを見つけると、ペコリとひとつ頭を下げた。
そして、汽車の中へと何やら声をかける。
程なくして、もうひとりの人物が降りてきた。
ファインダーのコートとは対照的な、黒のロングコート。
フードを目深に被っているのでここからでは人相がわからないが、体格からして男だろう。
思っていたより華奢なようだ。
2人は真っ直ぐにこちらへ歩み寄ってきた。
「お待たせ致しました、ブックマン、ラビ様。」
仰々しい敬称にむず痒くなるが、精悍な顔つきのファインダーには嫌味は感じない。
「私は今回の任務で案内役を務めさせていただきます、ファインダーのウィルです。よろしくお願い致します。」
そう言って、ウィルと名乗ったファインダーは深々と礼をする。
「ウィル殿、よろしく頼む。我々はアクマとの戦いには慣れておらんのでな、すまんがご助力願いたい。」
「もちろんです。……ただ、私などよりこの御方のほうが、二人のお力になってくださると思いますよ。」
言いながら、ウィルは隣の男を示す。
それを受けて、男は被っていたフードをふわりと外した。
そうして現れたのは、透き通るような美しいブロンド。
「はじめまして。おれはエクソシストの、 エリー・T・イエーガー。今回一緒に、この任務に就いています。よろしく。」
歳の頃は20代前半といったところだろうか。
光の加減で白銀にも見える淡い金髪に、葡萄のような深い紫の瞳を持った美しい男だ。
エリーと名乗ったその男は、ふっと穏やかな笑みを浮かべた。
その様は絵に描いたような優男で、失礼だがとても元帥に次ぐ強さを持つとは思えない。
コムイが、多少誇張して話していたのだろうか。
そんな疑念すら抱きつつ、彼はへらりと笑って返す。
「俺はラビ。よろしく頼むさ、エリー。」
そう言って右手を差し出せば、エリーはにこりと笑って握り返してくれる。
その手は雪のように白く、少しだけひやりとしていた。
「ワシの方に名はない。ブックマンと呼んでくれ。」
続けてブックマンも右手を差し出すと、真っ白な手で同じように握り返す。
それからフードを被り直した。
「それじゃあ、早速アクマの被害報告が多い街へ行ってみましょうか。警察にも話はついてるみたいなので、資料も見せてもらいましょう。」
2人が頷くのを確認すると、エリーはウィルへ目を向ける。
ウィルは心得たというように頷き返すと、「こちらです」と言って歩き出した。
このまま、任務地となる街まで案内してくれるのだろう。
歩き始めるとすぐに、エリーが口を開いた。
「2人とも、任務資料には一通り目を通しましたか?」
「ああ、内容は理解している。」
ブックマンの返答に、エリーは頷く。
「それなら把握してると思いますが、これから向かう街では、ここ2週間で20人以上失踪しています。それだけ多くのアクマが潜んでいるのか、あるいは……。」
「……少数のアクマが、多くを殺している。」
重苦しい言葉に、エリーは眉を顰める。
「正直、後者であれば厄介です。少数のアクマがこれだけ多くの人間を殺しているのだとすると、すでにレベル2以上である可能性が高い……。」
「ふむ……アクマとの戦闘に慣れておらんワシらは、足手まといになるやも知れんな。」
「うーん、足手まといとは言いませんけど……あなたたち2人で破壊し切るのは難しいかもしれません。」
「……その言い方だと、レベル1アクマだったら俺らに任せるって意味に聞こえるさね。」
隻眼を細めて、彼が言う。
それにエリーは、ご明察とでも言うように笑ってみせた。
「コムイさんは明言しなかったけど、今回の任務は2人に経験を積ませることが目的だろうからね。おれはあくまで、緊急時の保険。」
なるほど。
つまり推察はおおよそ当たっていたということか。
そして自らを「保険」と宣えるほどには、この男は腕に自信があるらしい。
「レベル1を20体相手にするのと、レベル2を1体相手にするのは同じくらい厄介だと思っていい。場合によっちゃレベル2の方が手こずるよ。もし相手がレベル2以上だとしたら、さすがにきみらへ丸投げはできない。」
「……して、相手がレベル2以上であるか否かは、如何様にして判別する?」
「被害者の失踪当時の様子で当たりをつけられればいいですけど、遭遇するまでわからない可能性もあります。すみませんが、そこは賭けですね。」
と、そこまで話したところで、視界がひらけた。
緩やかな丘を登り切ると、その先に長閑な街並みが見える。
一見平穏な様子に見えるが、あの街に今、殺戮兵器が紛れているのだ。
こうしている間にも、誰かを殺めているのかもしれない。
そう考えると、これまでに見てきたどの戦争よりも不条理だ。
「……ともあれ、詳しく調べてみないことにはわかりませんね。」
エリーの言葉に改めて気を引き締めると、一行は眼前の街へと足を踏み出した。