第5夜 〜閑話〜
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リーバーたち科学班にとって、それはあまりにも僥倖だった。
「えっと、これは雪女の伝承かな。雪山で男が裸になって死んでいたって書いてある。」
「エリー、こっちは!?」
「……んー、たぶん土着信仰の資料……?おれも初めて見るから、ちゃんと読まなきゃわかんないや。」
「これは!?」
「それは唐傘お化けの話。さっきあった資料に書かれてる付喪神の項目と併せれば、読みやすいと思う。」
「ここは何て書いてある?」
「……"竹で編んだ籠"ですね。これサトリの伝承なんで、こっちにある資料の方がよくまとまってて読みやすいですよ。」
イノセンスによる奇怪を調べる一環として、世界各地の伝承や伝説を調査し始めたのが2週間ほど前。
英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語……様々な言語の文献を総出で読み漁っていたのだが、中でも手こずっていたのが"日本語"である。
彼の国は最近まで鎖国をしていた小さな島国であり、言語も文化もあまりに独特だ。
同じアジア圏でも中国とも全く勝手が違うらしく、コムイでさえ首を傾げている始末。
そう、つまり誰もまともに解読できなかったのである。
2週間かけてジョニーとタップが多少読み解けるようになったようだが、同じ文字が使われているのにそのまま読むと意味が全く繋がらない文字列なんてものもあり、「読める」というにはあまりにお粗末な解読状況だったのだ。
だからこそ、皆心底驚いた。
生粋の英国人だと聞いていたエリーが、まさか日本語を読めるなど誰も思っていなかったのだ。
いや、読めるどころの話ではない。
ものによっては挿絵を見ただけで、どんな内容の何という伝承が書かれているのかを当ててくる。
恐らくこういった伝承そのものを、過去に読んだことがあるのだろう。
(そういや前に、ガキの頃は本ばっか読んで過ごしてたっつってたな……。)
彼がエクソシストとなる以前の経歴については、リーバーも詳しくは聞かされていないが、これらを愛読書とするような幼少期を送っていたのだとしたら末恐ろしい。
「天才ってのはいるもんだな……。」
次々に渡される文献に目を通していくエリーを見て、リーバーは内心で舌を巻く。
だがすぐに気合を入れ直し、先程エリーに示してもらった文献を読み始める。
いくら有能な人材が見つかったからといって、科学班員ではない相手に解読を全て任せるなど、研究者としてのプライドが許さない。
わかる範囲は自分で読み解きたかった。
エリーも恐らくそれをわかっているからこそ、最低限のアドバイスに留めてくれているのだろう。
ならば、それに応えなければ。
科学班員たちのどよめきや、エリーの解説の声をシャットアウトして、リーバーは目の前の文献に意識を向けた。