第4夜〜家路にて〜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「エリーのイノセンスって、なんなんさ?」
帰りの汽車の中で、ラビが徐にそう言った。
一瞬首を傾げたけれど、そういえばろくに説明もしないで単身突っ込んでしまったのだ。
ラビからすれば、疑問に思うのは当然か。
おれは苦笑を浮かべつつ、団服の袖を捲ってみせた。
晒された両方の前腕、手首の外側辺りには、赤黒い十字型のアザがある。
アレンの左腕ほどあからさまではないが、見栄えとしてはよろしくない。
だから普段は人に見せることはないのだけど、おれのイノセンスの話をするなら、これを見せてしまった方が手っ取り早いのだ。
「昨日おれが、ここから武器を出していたのは覚えてる?」
おれの問い掛けにラビが頷く。
僅かにだが隣にいるブックマンも、一瞬目を細めたのがわかる。
おれは2人の反応にふっと息を吐きつつ、意識を自分の"内側"へ向けて呼びかける。
(イノセンス。)
途端、アザが熱を持つ。
そして瞬きする間に、おれの腕からは白い刃が生えていた。
「これがおれのイノセンス、『無垢ノ刃-アルビノ-』。骨に寄生してる。」
アザから生えたそれは、おれの腕に沿うようにして伸びている。
形状としてはトンファーに近いだろう。
それは一見陶磁器のように、真っ白で滑らかな質感をしている。
実際磁器の中には牛の骨を使ったものなんかも存在するのだから、これがそう見えるのもあながち間違いではないと言えよう。
「こいつはおれの意思に呼応して、姿を変える。基本的にはこの刃の形で扱うけど、やろうと思えばかなり汎用性の高い使い方ができるんだ。」
おれの言葉に、ラビは興味津々といった様子でイノセンスを眺めている。
「触ってみてもいいさ?」
その目は、明らかな好奇心の輝きに満ちている。
まあまだ教団に来たばかりの彼にとってイノセンスは、それも寄生型ともなれば、物珍しいのも当然だ。
おれはラビの方へ腕を伸ばし、「どうぞ」と言う。
念のため刃は丸めて、万が一にも切れたりはしないようにしておいた。
「これって感触あるんさ?」
ラビはアルビノを指で軽く叩きつつ聞いてくる。
「繋げとくこともできるよ、遮断もできるけど。形状変化させる時はイメージを明確に持たなきゃいけないから、神経繋いだ方が上手くいくけど、戦闘中は感覚遮断してないと気が散るし。」
「ふーん?」
あまり想像がついていないような生返事だ。
まあ彼は装備型だし、口で説明しただけでこちらの感覚を理解するのは難しいだろう。
「では武器が損傷した場合、痛みも感じるということか?」
おれの腕を静かに眺めていたブックマンが言う。
やはり、彼の方がそういった想像力が働くらしい。
おれは彼の問いに、少しだけ目を細めて静かに答える。
「遮断していない時なら感じます。ただ、普通は寄生型のエクソシストでも、感覚の遮断とかはできません。おれはかなり特殊な例ですよ。」
今教団にいる寄生型エクソシストは、おれの他にスーマンだけ。
本編でアレンもそうだったように、スーマンも武器が損傷すればしっかり痛いし傷も残ると言っていた。
おれもかつては感覚遮断なんてできなくて、武器が損傷した時は死ぬほどの痛みを経験したけど、いつしか「皮膚より外側」に出ているところを「切り離す」意識ができるようになって、今では容易に神経を切れる。
損傷したら傷が残るという点は変わらないから、おれの場合下手すりゃあ骨折するわけだけど、戦っている間は痛くないので支障はない。
コムイさんには怒られるやり方だけど、痛みで攻撃が鈍っちゃ命が危ないのだ。
背に腹は変えられないというものだろう。
「ふむ……それも含めて、『元帥に最も近い』と称されとるわけか?」
その言葉に、おれは一瞬言葉に詰まる。
「元帥に最も近い」。
それは確かにここ数年言われ続けている。
けれど、逆に言えば「数年ずっと元帥になれずにいる」のだ。
(おれのシンクロ率が、ずっと臨界点を超えないから……。)
おれのシンクロ率の最高値は98%。
今では常時95%以上を保っているような状態だ。
だがいつも、あと一歩足りない。
あとたった2%の壁を超えない。
師匠からは、恐らくおれの心が、無意識にイノセンスをセーブしてしまっているのだろうと言われている。
(自覚は、ある……。)
おれは、おれのイノセンスが"怖い"。
きっとそれが、ストッパーになっている。
(おれが恐れている限り、きっとイノセンスも応えない。)
その恐怖をおれは、もう8年ほど抱え続けている。
「……『元帥に最も近い』と言われているのは、ある種の皮肉みたいなものです。どれだけ近付いても元帥にはなれない……"失敗作"として、おれを揶揄してるだけですよ。」
おれはイノセンスを仕舞い、団服の袖を直す。
ラビは言葉の意味を図り兼ねるように目を眇め、ブックマンは何か察したように小さく息を吐く。
……あまり、この2人と長く話したくないな。
前世において、おれの最推しはラビだった。
そのため彼と話ができるのは、正直めちゃめちゃウルトラハッピーなのだが、いざ対面すると緊張が勝る。
それは推しと会えたことによる緊張よりも、どこまで何を見透かされているのかと身構える意味の緊張感だ。
(食えないな……。)
さて、どこからは信用に足るだろうか