本編
◯8月8日
翌日。
幸太は文化祭の準備で18時まで高校にいた。
昨日までは、宿題をやるために15時あたりで帰ろうと思っていたが、家にいては昨夜の一件を嫌でも思い出す。そう思い、この日は文化祭の準備に明け暮れようと決めていたのだ。
幸い作業中は教室の賑やかさもあり、さほど意識せずに過ごすことができた。
しかし、その帰り道……。
「悠奈ちゃん、忙しいのかな?」
一緒に帰る火恋が口にした疑問に、心臓が跳ねる。
「な、なんでだ?」
「昨日いつもどおり原稿送ったんだけどさ。いつもなら『受け取りました』とか『ありがとうございます』とか返ってきたんだけど、今日は返事がこなかったんだよね」
「……へ、へぇ」
心の内を悟られないよう慎重に返事をする幸太。
明らかに昨日の一件の影響だろう。
火恋のために頼んだ顧問。そのため彼女に迷惑がかかるのは本意ではなかったが、今さら後悔しても遅い。
(……なんで、あんなこと……)
幸太は今、少なからず後悔していた。
いったいなぜ、あそこまで勝手な怒りを彼女にぶつけてしまったのか。
一夜明けて冷静になってみると、まるでわからない。
文化祭を馬鹿にされたことは許せない。それは確かに事実だ。
だが、もとはといえば、自分が約束を破ったのがそもそもの問題だ。それに対して悠奈が怒るのは当然。彼女の言い分は全面的に正しい。
その点はきちんと謝らなければならなかった。
しかし悠奈が言い返してきたとき、思わず怒りが先立ち、反射的に思うがままを吐き散らしてしまった。その結果が今だ。
すべきことに気づいたとて、もはやすべてが遅い。
「幸太? どうしたの?」
「はっ? な、なにが?」
「え、いや、なんかぼーっとしてたから」
「い、いや……べつになんでもないけど……」
「?」
首を傾げる火恋。
だが今の幸太に本当のことを話す勇気はなかった。自身の悪事が露見する恐怖と羞恥に勝てるほど、彼の心は強くない。
帰路の道中、幸太は火恋の話に耳を傾けながらも、これからどうすべきか考えていた。
ベストは悠奈との縒りを戻すことだ。しかし、いま彼女に連絡を取るのは、タイミングとしても幸太の心情としても難しい。
顔を合わせたら何を言われるか……それを想像するだけで身が竦む。気が滅入る。
「ちょ、ちょっと幸太!」
「ん? ほわっ!?」
いきなり火恋に腕を引っ張られ、勢いそのままに尻もちをつく幸太。
「痛っっっ……い、いきなりなにす……」
だが、すぐに理由を察した彼の文句は、最後まで口にされなかった。
目の前には交差点。信号は赤。直後、高速で何台もの乗用車が侵入しては走り去っていく。
茫然と考え事に耽っていた彼は気づかなかったのだ。赤信号を渡ろうとしていた自分に。
思わず喉を大きく鳴らす。もし火恋が強引にでも手を引かなかったら……。
「ね、ねえ、ちょっとほんとにどうしたの? さっきからぼーっとして……」
「……い、いや……」
言葉を濁す幸太。
今の彼にできるのは、それだけだった。
2日後の8月10日。本来なら第7回ミーティングの日。
幸太と火恋は予定通り、いつもの高校近くのファストカフェ、そのテラス席にいた。
だが、そこに悠奈の姿はなかった。
事前に連絡もない無断欠席。もちろん今まで一度もなかったことだ。
明らかな異常事態に、火恋が何度か悠奈に連絡を入れるも、電話はつながらずメールは返信なし。音信不通のまま終わった。
「……悠奈ちゃん、ほんとにどうしたんだろ? 幸太なんか聞いてる?」
「……いや」
真実を隠し通す幸太。その胸中に一抹の罪悪感が過る。
このままでは本来の目的である火恋の受賞から遠ざかってしまう。自分は自業自得のため構わないが、それだけはだめだ。
だがどうすればいいのか……。
「あ、返信きた!」
幸太が考えこんでいる時、テーブルに置かれた火恋のスマートフォンが振動。彼女は急いでメッセージアプリを立ち上げ、悠奈からのメールを確認する。
『大丈夫です。心配しないでください。原稿は近いうちに見るので、自分なりに考えてやっておいてください。悠奈』
一見すると淡白で味気ない。だが普段のメールも同じような雰囲気のため、文面から彼女の心情は窺い知れない。
「うーん……事情はわからないけど、とりあえず大丈夫そう、だよね? 悠奈ちゃんから言ってこない以上、あんまり事情を尋ねるのもアレだし……」
「……だ、だな」
怪しまれまいと同意する幸太。だが多少は不安が解消された火恋と違い、何も解決していないことを知る彼の内心はそこまで落ち着かない。
「でも、自分なりに考えて……かぁ。どうしたもんかな……」
早めに話題を逸らしたかった幸太は、今後の方針に話を移す。
「そうだねぇ……かわりに誰かに見てもらうとか?」
「いやプロのかわりを探すのは、ちょっと厳しいだろ」
「だよねぇ。どうしよっかぁ……」
しばし「うーん……」と考えこむ二人。すると火恋が「あ」と何か閃いた。
「じゃあさじゃあさ。たくさんの人に見てもらうっていうのはどう?」
「たくさんの人? どういうことだ?」
「投稿サイトに上げるんだよ」
「……投稿サイト?」
「そっ」
火恋の案に怪訝な表情を浮かべる幸太。
「プロじゃなくても、いろんな人から感想とかもらえれば、参考になるんじゃないかなーって。ほらあたしの作品ってテーマからして特殊だから、悠奈ちゃんが大丈夫って言ってくれても、正直これほんとに大丈夫なのかなって不安だったんだよね。悠奈ちゃんとか分かる人にだけ分かる作品になっちゃってないかなって」
「うーん……まぁ確かに参考になるかもしれないけど……」
妙案だと言わんばかりに微笑む火恋。一方で幸太の歯切れは悪い。
「なにか気になることでもあるの?」
「あ、いや、別にそういうわけじゃないんだけど……」
火恋のアイデアは一理も二理もあるため、特に止める理由は思いつかない。
だが、本音では止めたほうがいいと幸太は思っていた。
「……そんな簡単に感想とか集まらないぞ、投稿サイトって」
「え、そうなの?」
きょとんと目を丸くする火恋。
彼女はラノベ作家をめざしてはいるが、投稿サイトを使った経験はない。スマートフォンのプランがパケ放ではないためネットを控えているからだ。家に一つだけあるパソコンは親が仕事で使うため、ラノベもスマートフォンで書いている。
そんな火恋に向けて、幸太は投稿サイトの特徴を説明する。
「基本みんな自分の作品を読んでもらうことで頭いっぱいだから、ほかの人の作品とかほとんど読まないしな。1日に大量の作品がアップされてるから、投稿したところで誰の目にもふれないってこともザラだ。1週間たってもPVが100に届かない作品なんてごまんとある。感想やレビューなんてまずもらえないぞ」
「そうなの?」
「前にどっかのブログで見たけど、一番デカいサイトでも、作品の5割はブクマがゼロ。レビューにいたっては97パーセントの作品がもらえてないんだと。まぁ毎日大量の作品が更新されてるから、当然っちゃ当然だろうけど」
「へぇー、そうなんだ」
「だから読んでもらうには作品づくり以外の工夫が必要なんだ」
「たとえば?」
「ツイッターとかSNSを使いこなせなきゃいけない。それで作者同士が互いの宣伝ツイートをリツイートし合って、少しでも多くの人の目にふれるようにするんだ。あと、互いの作品をブクマしたり感想やレビューを書いたりする。そうした活動でブクマや感想を増やして、訪れた人の興味が湧きやすくする」
「え、ほぼ自演ってこと?」
「方法の良い悪いは別にして、そうでもしないと誰の目にも止まらないからな」
「ふーん。でも幸太、詳しいね。使ってたことあるの?」
「読み専で覗いてたくらいだけどな。そのときにちょっと調べてみた」
「よみせん?」
「読むの専門って意味」
「あーなるほど」
納得顔で頷く火恋。
だが、これは嘘だった。
幸太は以前、ネット投稿サイトを使ったことがある。
だが、結果は散々だった。公開初日のPVは5。2日目はゼロ。その後もしばらく投稿を続けたが、結局100PVにも届かず、ブクマも0。虚無感に苛まれた彼は2週間も経たないうちにサイトを退会した。
このとき状況を打開しようと自分なりにコツを調べた内容が、いまの話だ。そのやり方が自分には向かず、実践することはなかったのだが。
「でもさ。幸太みたいに読み専の人たちもいるわけでしょ? どのくらいいるの?」
「さすがにわからないな。前にいくつかの人気作を覗いて、ブクマしてるアカウント調べてみたけど、投稿してる人は3割もいなかった気がするな」
「ってことはさ。7割くらいは読み専の人ってことでしょ? それなら、やってみてもいいんじゃないかなーって思うんだけど」
「うーん……」
火恋の提案に、なおも押し黙る幸太。
投稿サイトは読者が読みたいものを読みにくる場所だ。流行に即したジャンルでなければ、大抵は読まれないまま消えていく。
そして火恋のテーマは、明らかに流行に即してはいない。
そのため、得るものなく心を病んで終わる可能性が高いといえる。
彼自身、あの不遇を再び味わうのはごめんだ。だがそれよりなにより、火恋にはそんな目に遭ってほしくなかった。
しかし、彼女は明らかに挑戦したがっている。それだけ悠奈という後ろ盾を失った不安が大きいのかもしれない。
その責任が自分にある以上、彼女のアイデアを無下に潰すような真似はしたくはない。そんな権利もない。
悩んだ末、幸太は結論を下した。
「……まぁ、やるだけやってみるか?」
「そうしよそうしよ。やるだけならタダだし♪」
採用されたのが嬉しいのか、さっそく「どこにしよっかー」と勝手に幸太の携帯を操作して目当ての投稿先を探しはじめる火恋。
その後、二人でいくつかのサイトを見て回り、最終的に登録者数が最多のサイトに登録。この日のミーティングは終了となった。
翌日。
幸太は文化祭の準備で18時まで高校にいた。
昨日までは、宿題をやるために15時あたりで帰ろうと思っていたが、家にいては昨夜の一件を嫌でも思い出す。そう思い、この日は文化祭の準備に明け暮れようと決めていたのだ。
幸い作業中は教室の賑やかさもあり、さほど意識せずに過ごすことができた。
しかし、その帰り道……。
「悠奈ちゃん、忙しいのかな?」
一緒に帰る火恋が口にした疑問に、心臓が跳ねる。
「な、なんでだ?」
「昨日いつもどおり原稿送ったんだけどさ。いつもなら『受け取りました』とか『ありがとうございます』とか返ってきたんだけど、今日は返事がこなかったんだよね」
「……へ、へぇ」
心の内を悟られないよう慎重に返事をする幸太。
明らかに昨日の一件の影響だろう。
火恋のために頼んだ顧問。そのため彼女に迷惑がかかるのは本意ではなかったが、今さら後悔しても遅い。
(……なんで、あんなこと……)
幸太は今、少なからず後悔していた。
いったいなぜ、あそこまで勝手な怒りを彼女にぶつけてしまったのか。
一夜明けて冷静になってみると、まるでわからない。
文化祭を馬鹿にされたことは許せない。それは確かに事実だ。
だが、もとはといえば、自分が約束を破ったのがそもそもの問題だ。それに対して悠奈が怒るのは当然。彼女の言い分は全面的に正しい。
その点はきちんと謝らなければならなかった。
しかし悠奈が言い返してきたとき、思わず怒りが先立ち、反射的に思うがままを吐き散らしてしまった。その結果が今だ。
すべきことに気づいたとて、もはやすべてが遅い。
「幸太? どうしたの?」
「はっ? な、なにが?」
「え、いや、なんかぼーっとしてたから」
「い、いや……べつになんでもないけど……」
「?」
首を傾げる火恋。
だが今の幸太に本当のことを話す勇気はなかった。自身の悪事が露見する恐怖と羞恥に勝てるほど、彼の心は強くない。
帰路の道中、幸太は火恋の話に耳を傾けながらも、これからどうすべきか考えていた。
ベストは悠奈との縒りを戻すことだ。しかし、いま彼女に連絡を取るのは、タイミングとしても幸太の心情としても難しい。
顔を合わせたら何を言われるか……それを想像するだけで身が竦む。気が滅入る。
「ちょ、ちょっと幸太!」
「ん? ほわっ!?」
いきなり火恋に腕を引っ張られ、勢いそのままに尻もちをつく幸太。
「痛っっっ……い、いきなりなにす……」
だが、すぐに理由を察した彼の文句は、最後まで口にされなかった。
目の前には交差点。信号は赤。直後、高速で何台もの乗用車が侵入しては走り去っていく。
茫然と考え事に耽っていた彼は気づかなかったのだ。赤信号を渡ろうとしていた自分に。
思わず喉を大きく鳴らす。もし火恋が強引にでも手を引かなかったら……。
「ね、ねえ、ちょっとほんとにどうしたの? さっきからぼーっとして……」
「……い、いや……」
言葉を濁す幸太。
今の彼にできるのは、それだけだった。
2日後の8月10日。本来なら第7回ミーティングの日。
幸太と火恋は予定通り、いつもの高校近くのファストカフェ、そのテラス席にいた。
だが、そこに悠奈の姿はなかった。
事前に連絡もない無断欠席。もちろん今まで一度もなかったことだ。
明らかな異常事態に、火恋が何度か悠奈に連絡を入れるも、電話はつながらずメールは返信なし。音信不通のまま終わった。
「……悠奈ちゃん、ほんとにどうしたんだろ? 幸太なんか聞いてる?」
「……いや」
真実を隠し通す幸太。その胸中に一抹の罪悪感が過る。
このままでは本来の目的である火恋の受賞から遠ざかってしまう。自分は自業自得のため構わないが、それだけはだめだ。
だがどうすればいいのか……。
「あ、返信きた!」
幸太が考えこんでいる時、テーブルに置かれた火恋のスマートフォンが振動。彼女は急いでメッセージアプリを立ち上げ、悠奈からのメールを確認する。
『大丈夫です。心配しないでください。原稿は近いうちに見るので、自分なりに考えてやっておいてください。悠奈』
一見すると淡白で味気ない。だが普段のメールも同じような雰囲気のため、文面から彼女の心情は窺い知れない。
「うーん……事情はわからないけど、とりあえず大丈夫そう、だよね? 悠奈ちゃんから言ってこない以上、あんまり事情を尋ねるのもアレだし……」
「……だ、だな」
怪しまれまいと同意する幸太。だが多少は不安が解消された火恋と違い、何も解決していないことを知る彼の内心はそこまで落ち着かない。
「でも、自分なりに考えて……かぁ。どうしたもんかな……」
早めに話題を逸らしたかった幸太は、今後の方針に話を移す。
「そうだねぇ……かわりに誰かに見てもらうとか?」
「いやプロのかわりを探すのは、ちょっと厳しいだろ」
「だよねぇ。どうしよっかぁ……」
しばし「うーん……」と考えこむ二人。すると火恋が「あ」と何か閃いた。
「じゃあさじゃあさ。たくさんの人に見てもらうっていうのはどう?」
「たくさんの人? どういうことだ?」
「投稿サイトに上げるんだよ」
「……投稿サイト?」
「そっ」
火恋の案に怪訝な表情を浮かべる幸太。
「プロじゃなくても、いろんな人から感想とかもらえれば、参考になるんじゃないかなーって。ほらあたしの作品ってテーマからして特殊だから、悠奈ちゃんが大丈夫って言ってくれても、正直これほんとに大丈夫なのかなって不安だったんだよね。悠奈ちゃんとか分かる人にだけ分かる作品になっちゃってないかなって」
「うーん……まぁ確かに参考になるかもしれないけど……」
妙案だと言わんばかりに微笑む火恋。一方で幸太の歯切れは悪い。
「なにか気になることでもあるの?」
「あ、いや、別にそういうわけじゃないんだけど……」
火恋のアイデアは一理も二理もあるため、特に止める理由は思いつかない。
だが、本音では止めたほうがいいと幸太は思っていた。
「……そんな簡単に感想とか集まらないぞ、投稿サイトって」
「え、そうなの?」
きょとんと目を丸くする火恋。
彼女はラノベ作家をめざしてはいるが、投稿サイトを使った経験はない。スマートフォンのプランがパケ放ではないためネットを控えているからだ。家に一つだけあるパソコンは親が仕事で使うため、ラノベもスマートフォンで書いている。
そんな火恋に向けて、幸太は投稿サイトの特徴を説明する。
「基本みんな自分の作品を読んでもらうことで頭いっぱいだから、ほかの人の作品とかほとんど読まないしな。1日に大量の作品がアップされてるから、投稿したところで誰の目にもふれないってこともザラだ。1週間たってもPVが100に届かない作品なんてごまんとある。感想やレビューなんてまずもらえないぞ」
「そうなの?」
「前にどっかのブログで見たけど、一番デカいサイトでも、作品の5割はブクマがゼロ。レビューにいたっては97パーセントの作品がもらえてないんだと。まぁ毎日大量の作品が更新されてるから、当然っちゃ当然だろうけど」
「へぇー、そうなんだ」
「だから読んでもらうには作品づくり以外の工夫が必要なんだ」
「たとえば?」
「ツイッターとかSNSを使いこなせなきゃいけない。それで作者同士が互いの宣伝ツイートをリツイートし合って、少しでも多くの人の目にふれるようにするんだ。あと、互いの作品をブクマしたり感想やレビューを書いたりする。そうした活動でブクマや感想を増やして、訪れた人の興味が湧きやすくする」
「え、ほぼ自演ってこと?」
「方法の良い悪いは別にして、そうでもしないと誰の目にも止まらないからな」
「ふーん。でも幸太、詳しいね。使ってたことあるの?」
「読み専で覗いてたくらいだけどな。そのときにちょっと調べてみた」
「よみせん?」
「読むの専門って意味」
「あーなるほど」
納得顔で頷く火恋。
だが、これは嘘だった。
幸太は以前、ネット投稿サイトを使ったことがある。
だが、結果は散々だった。公開初日のPVは5。2日目はゼロ。その後もしばらく投稿を続けたが、結局100PVにも届かず、ブクマも0。虚無感に苛まれた彼は2週間も経たないうちにサイトを退会した。
このとき状況を打開しようと自分なりにコツを調べた内容が、いまの話だ。そのやり方が自分には向かず、実践することはなかったのだが。
「でもさ。幸太みたいに読み専の人たちもいるわけでしょ? どのくらいいるの?」
「さすがにわからないな。前にいくつかの人気作を覗いて、ブクマしてるアカウント調べてみたけど、投稿してる人は3割もいなかった気がするな」
「ってことはさ。7割くらいは読み専の人ってことでしょ? それなら、やってみてもいいんじゃないかなーって思うんだけど」
「うーん……」
火恋の提案に、なおも押し黙る幸太。
投稿サイトは読者が読みたいものを読みにくる場所だ。流行に即したジャンルでなければ、大抵は読まれないまま消えていく。
そして火恋のテーマは、明らかに流行に即してはいない。
そのため、得るものなく心を病んで終わる可能性が高いといえる。
彼自身、あの不遇を再び味わうのはごめんだ。だがそれよりなにより、火恋にはそんな目に遭ってほしくなかった。
しかし、彼女は明らかに挑戦したがっている。それだけ悠奈という後ろ盾を失った不安が大きいのかもしれない。
その責任が自分にある以上、彼女のアイデアを無下に潰すような真似はしたくはない。そんな権利もない。
悩んだ末、幸太は結論を下した。
「……まぁ、やるだけやってみるか?」
「そうしよそうしよ。やるだけならタダだし♪」
採用されたのが嬉しいのか、さっそく「どこにしよっかー」と勝手に幸太の携帯を操作して目当ての投稿先を探しはじめる火恋。
その後、二人でいくつかのサイトを見て回り、最終的に登録者数が最多のサイトに登録。この日のミーティングは終了となった。