本編
◯7月27日 双子新地 バーベキュー場
バーベキュー場は、盛況も盛況だった。
双子新地駅から徒歩5分ほどの川沿い。そこは都内でも人気の高いバーベキュースポットらしく、この日も10を超えるグループが来場。総勢で150人ほどになるだろうか。
だが、何度も来たことがあるクラスメイト曰く「今日はまだマシ」らしい。多いときは文字どおり肘がぶつかり合う距離に隣のグループがいるそうだ。
「そんな人気なのに、よくこんな良い場所とれたな」
幸太たち総勢18名は今、バーベキューの雰囲気を壊さないほどトイレに近く、買い出しにも便利な場所を陣取っていた。
「優先権があってな。受付のとき隣の列が決まりとかの説明を受けてたろ? あれ1ヵ月以内に来たことあるヤツがいるグループは聞かなくていいんだよ」
友人が左手首に巻いた入場許可証を見せる。全員がもらったそれに刻まれている入場日と違い、彼のだけは2週間前の日付だ。
「あぁ。だから俺たち先に入れたのか。ってかお前、焦げてんぞ」
「だぁぁぁぁっ! お前が余計な話するからだろ!」
慌てて網の肉をひっくり返し出すクラスメイト。
天気は快晴。風は無風。タープが吹き飛ぶ心配もなく、憂慮は男子が調子に乗って買いこんだ大量の食材を消費しきれるかどうかくらいだ。
……もっとも、
「ほえぇ~♪ お肉がこんなにあるなんて夢みたいだよぉ♪」
タープの真ん中で満面の笑みを浮かべながら肉を頬張る火恋を見る限り、何の心配もなさそうに思えてくる。
「いやー、ほんと見てるだけで面白いよねぇ。この子の食べっぷりは」
「はい、あーん」
「あ~ん♪ んんん~っ♪」
日頃は家計の都合で贅沢できない彼女にとって、今は至福の時だろう。体を左右に揺らしながら幸せを振りまいている。さながらマスコットだ。
ほかの面々もそれぞれグループをつくり、楽しみに浸っている。他愛ない話と大量の肉だけでここまで盛り上がれるのは高校生ならではだろう。
「ねえねえ長月。ちょっとこっち持て、こっち」
「ん? なんだよこのタオル?」
「アイス作るのアイス」
「アイス?」
「ジップロックに氷とか牛乳とか入れて振り回すとアイスできるんだって」
「へー面白そうだな」
幸太も例に漏れず思い切り楽しんだ。クラスメイトの差し出したタオルの先端を受け取り、二人は大縄の要領で勢いよく振り回す。「な、なぁ……まだ回すのか!?」「もっとだってもっと!」「つ、つかれてきた……っ」「だらしないなぁ」いいように使われているだけの気がしないでもないが。
午前9時から始まったバーベキューは、賑わいに陰りを見せることなく、午後13時に食材が空となり終了した。
双子新地を後にした一行は、高校近くの馴染みのカラオケ店へ移動。J-POPに歌謡曲、洋楽にアニソンと、思い思いの選曲で3時間ほど入り浸る。
解散したのは、まだ明るさの残る18時だった。
「そんじゃまた月曜なー」「おーう」「じゃねー」
帰路が同じクラスメイト同士、それぞれ家路につく。
幸太はバスで帰るという火恋につきあい、國立駅前のバスターミナルにいた。
「いやー、楽しかったねー。こんな遊んだの久しぶりだよ」
あくびの混じった寝ぼけ声で笑顔を浮かべる火恋。
「おい大丈夫か? 乗り過ごすとかやめてくれよ」
「うーん……まあなんとかなるでしょ?」
目を擦りながら言われても説得力がない。
心配だったので幸太は同じバスに乗って帰ることにした。
火恋は「大丈夫だよ」と気を回したが、とてもそうは思えない。自宅へは遠回りになるが今は夏休みだ。少し帰りが遅れても大した問題ではない。
しばらく待つとバスが到着。最後尾の左側、壁際に火恋、隣に幸太が座る。始発のため発車までは少し時間があった。
「……むにゅむにゅ……」
案の定、バスが発車しないうちから火恋は微睡みはじめた。
「ほら見ろ。なにが大丈夫だよ」
「んー……ちょっと限界かも……」
「いいから寝てろ。駅についたら起こしてやる」
「ごめん……おねがい……」
許しを得て気持ちが切れたのか、火恋はあっさり眠りに落ちた。
バスが発車した。
家事に勉強にと忙しい火恋の朝は早く、夜は遅い。最近は創作も重なり、ろくに休んでいないのだろう。遊び慣れておらず、楽しくなると気持ちの制御が利かない影響も大きい。
道中、彼女は片時も目を覚まさなかった。
そうしてバスに揺られること25分。火恋の降りる駅が次に迫っていた。
かわりにブザーを押す幸太。
「火恋。そろそろ駅だぞ」
「……」
「お、おい火恋」
「…………」
体を強めに揺すっても起きる気配がない。完全に熟睡している。
やがてバスが停留所に到着。火恋は起きない。
(え……いやちょっ……これどうすりゃ……)
困惑する幸太。だが迷っている時間はなかった。ほかに降りる乗客がいないのだ。
「……す、すみません! 降りますっ!」
慌てて運転手に知らせると、幸太は意を決し、眠る火恋を背負った。
恥ずかしいことこの上ないがしかたない。なるべく足早に出口へ向かい、二人分の運賃を払ってバスを降りる。
歩道へ出た彼は、そのまま火恋の家へ。外はまだ橙色が強いが、時間が時間のためか幸い人通りは少ない。
「……おい。いい加減、起きろって」
背負った火恋をあやすように揺すってみる。効果なし。
「しかたないか……」
幸太は彼女を送り届けるため、マンションをめざす。
その足取りは些か重い。少女とはいえ高校生を背負って歩くのは、運動が不足気味の彼にはやや重荷だ。
そして、それ以上に脚の運びを鈍らせるのが……、
(………………………………っ!!!!!)
背中にあたる豊かな双丘。耳元をくすぐるいじらしい吐息。鼻先を霞める汗と香料がひとつになった甘酸っぱい匂い。
そして、両手が直に触れる、柔らかい太腿。
バスの中では焦りで気にならなかったが、意識した途端、全身が一瞬で熱を持つ。
時刻はすでに宵時。吹き出す汗が暑さによるものでないのは明らかだった。
(……と、とにかく早く家に送ろう)
大量に脳裏を過ぎる煩悩を振り払い、黙々と目的地へ歩を進める幸太。5分ほど歩くと火恋のマンションに到着。
4階まで上がり、彼女の家のインターホンを押すと、すぐに葵が出てきた。
「あれ? 幸太さんいったいどうし……って、おねえちゃん!?」
「あ、大丈夫大丈夫。ただ寝てるだけだから」
「あ、そうなんですか……。え、まさかずっと運んできてくれたんですか?」
「いや、そこのバス停から」
「そうですか、なんかすみません迷惑かけてしまって。……あ、ちょっと待ってもらっていいですか?」
幸太に断ると葵は室内に戻り「翔大ー。おねえちゃんの布団しいてくれない?」と長男に声をかけている。火恋を寝かせるためだろう。
―――と。
「「じぃぃぃぃぃぃ……」」
どこから姿を現したのか、いつの間にか足元に二人の少女の姿があった。四女の遥と五女の萌だ。片や半眼で何かを怪しみ、片や指をしゃぶりながら珍しそうに瞳を輝かせている。
「ど、どうした? 二人とも」
「だいねえ、なにしてんの?」
萌が尋ねる。だいねえ。一番大きな姉。火恋のことだ。
「ああ。バスに乗ってたら疲れて寝ちゃってな」
「ねちゃった?」
愛らしく首を傾げる。その口調は復唱というより疑問だった。
「えーおかしいよー」
そんな萌の内心を代弁するように、遥が両手を突き上げて幸太に抗議。
「え? な、なにが?」
「だって、だいねえ、おゴゴゴゴゴ」
「はーいあんたたちにはまだ早いから奥で遊んでてねー」
火恋を指さしながら何事か告げようとした遥の口を、戻ってきた葵が右手で塞いだ。そのままぬいぐるみのように彼女を持ち上げると、二人をつれて奥へと消えていく。遥は終始「モガモガ」となにやら唸っていた。
(な、なんだ?)
訳が分からず呆然と立ち尽くしていると、葵がすぐに戻ってきた。
「すみませんお待たせして。おねえちゃん預かります」
向けられた葵の背中に火恋を乗せる。
「今日はほんとありがとうございました。外も暗くなってきましたから、気をつけて帰ってくださいね」
「え? あ、ああうん。ありがと」
釈然としないまま、とはいえ用は済んだので、幸太は大人しく引き払った。
帰宅後、風呂と夕飯を手早く済ませた幸太は、自室の机でひと息ついていた。
ちょうど今日の創作ノルマが終わったところだ。ノートパソコンを閉じて大きく背中を伸ばし、卓上のカレンダーに目を向ける。
7月6日の枠から毎日、ノルマのページ数と実際に書き終えたページ数が記入されていた。昨日の時点で49ページ。今日の分を入れて50ページ。
残りページ数は80。時間は30日。
このペースを保てば問題なく完遂できる。
だが、油断は禁物だ。文化祭の準備は大抵、計画通りにいかない。特に夏休み最後の時期は予期せぬトラブルの連続で慌てるのが必至だ。
貯められる時に貯めておかなければならない。
(……眠)
しかし今日はさすがに厳しかった。疲労が激しく頭がうまく回らない。
時刻は22時。いい時間だった。
ノルマは達成している。それに明日は日曜で文化祭の準備もない。今日無理をして明日の大半が寝て終わるなどとなったら、むしろ非効率だ。
(今日は寝るか……)
幸太は電気を消して、ベッドに潜った。
バーベキュー場は、盛況も盛況だった。
双子新地駅から徒歩5分ほどの川沿い。そこは都内でも人気の高いバーベキュースポットらしく、この日も10を超えるグループが来場。総勢で150人ほどになるだろうか。
だが、何度も来たことがあるクラスメイト曰く「今日はまだマシ」らしい。多いときは文字どおり肘がぶつかり合う距離に隣のグループがいるそうだ。
「そんな人気なのに、よくこんな良い場所とれたな」
幸太たち総勢18名は今、バーベキューの雰囲気を壊さないほどトイレに近く、買い出しにも便利な場所を陣取っていた。
「優先権があってな。受付のとき隣の列が決まりとかの説明を受けてたろ? あれ1ヵ月以内に来たことあるヤツがいるグループは聞かなくていいんだよ」
友人が左手首に巻いた入場許可証を見せる。全員がもらったそれに刻まれている入場日と違い、彼のだけは2週間前の日付だ。
「あぁ。だから俺たち先に入れたのか。ってかお前、焦げてんぞ」
「だぁぁぁぁっ! お前が余計な話するからだろ!」
慌てて網の肉をひっくり返し出すクラスメイト。
天気は快晴。風は無風。タープが吹き飛ぶ心配もなく、憂慮は男子が調子に乗って買いこんだ大量の食材を消費しきれるかどうかくらいだ。
……もっとも、
「ほえぇ~♪ お肉がこんなにあるなんて夢みたいだよぉ♪」
タープの真ん中で満面の笑みを浮かべながら肉を頬張る火恋を見る限り、何の心配もなさそうに思えてくる。
「いやー、ほんと見てるだけで面白いよねぇ。この子の食べっぷりは」
「はい、あーん」
「あ~ん♪ んんん~っ♪」
日頃は家計の都合で贅沢できない彼女にとって、今は至福の時だろう。体を左右に揺らしながら幸せを振りまいている。さながらマスコットだ。
ほかの面々もそれぞれグループをつくり、楽しみに浸っている。他愛ない話と大量の肉だけでここまで盛り上がれるのは高校生ならではだろう。
「ねえねえ長月。ちょっとこっち持て、こっち」
「ん? なんだよこのタオル?」
「アイス作るのアイス」
「アイス?」
「ジップロックに氷とか牛乳とか入れて振り回すとアイスできるんだって」
「へー面白そうだな」
幸太も例に漏れず思い切り楽しんだ。クラスメイトの差し出したタオルの先端を受け取り、二人は大縄の要領で勢いよく振り回す。「な、なぁ……まだ回すのか!?」「もっとだってもっと!」「つ、つかれてきた……っ」「だらしないなぁ」いいように使われているだけの気がしないでもないが。
午前9時から始まったバーベキューは、賑わいに陰りを見せることなく、午後13時に食材が空となり終了した。
双子新地を後にした一行は、高校近くの馴染みのカラオケ店へ移動。J-POPに歌謡曲、洋楽にアニソンと、思い思いの選曲で3時間ほど入り浸る。
解散したのは、まだ明るさの残る18時だった。
「そんじゃまた月曜なー」「おーう」「じゃねー」
帰路が同じクラスメイト同士、それぞれ家路につく。
幸太はバスで帰るという火恋につきあい、國立駅前のバスターミナルにいた。
「いやー、楽しかったねー。こんな遊んだの久しぶりだよ」
あくびの混じった寝ぼけ声で笑顔を浮かべる火恋。
「おい大丈夫か? 乗り過ごすとかやめてくれよ」
「うーん……まあなんとかなるでしょ?」
目を擦りながら言われても説得力がない。
心配だったので幸太は同じバスに乗って帰ることにした。
火恋は「大丈夫だよ」と気を回したが、とてもそうは思えない。自宅へは遠回りになるが今は夏休みだ。少し帰りが遅れても大した問題ではない。
しばらく待つとバスが到着。最後尾の左側、壁際に火恋、隣に幸太が座る。始発のため発車までは少し時間があった。
「……むにゅむにゅ……」
案の定、バスが発車しないうちから火恋は微睡みはじめた。
「ほら見ろ。なにが大丈夫だよ」
「んー……ちょっと限界かも……」
「いいから寝てろ。駅についたら起こしてやる」
「ごめん……おねがい……」
許しを得て気持ちが切れたのか、火恋はあっさり眠りに落ちた。
バスが発車した。
家事に勉強にと忙しい火恋の朝は早く、夜は遅い。最近は創作も重なり、ろくに休んでいないのだろう。遊び慣れておらず、楽しくなると気持ちの制御が利かない影響も大きい。
道中、彼女は片時も目を覚まさなかった。
そうしてバスに揺られること25分。火恋の降りる駅が次に迫っていた。
かわりにブザーを押す幸太。
「火恋。そろそろ駅だぞ」
「……」
「お、おい火恋」
「…………」
体を強めに揺すっても起きる気配がない。完全に熟睡している。
やがてバスが停留所に到着。火恋は起きない。
(え……いやちょっ……これどうすりゃ……)
困惑する幸太。だが迷っている時間はなかった。ほかに降りる乗客がいないのだ。
「……す、すみません! 降りますっ!」
慌てて運転手に知らせると、幸太は意を決し、眠る火恋を背負った。
恥ずかしいことこの上ないがしかたない。なるべく足早に出口へ向かい、二人分の運賃を払ってバスを降りる。
歩道へ出た彼は、そのまま火恋の家へ。外はまだ橙色が強いが、時間が時間のためか幸い人通りは少ない。
「……おい。いい加減、起きろって」
背負った火恋をあやすように揺すってみる。効果なし。
「しかたないか……」
幸太は彼女を送り届けるため、マンションをめざす。
その足取りは些か重い。少女とはいえ高校生を背負って歩くのは、運動が不足気味の彼にはやや重荷だ。
そして、それ以上に脚の運びを鈍らせるのが……、
(………………………………っ!!!!!)
背中にあたる豊かな双丘。耳元をくすぐるいじらしい吐息。鼻先を霞める汗と香料がひとつになった甘酸っぱい匂い。
そして、両手が直に触れる、柔らかい太腿。
バスの中では焦りで気にならなかったが、意識した途端、全身が一瞬で熱を持つ。
時刻はすでに宵時。吹き出す汗が暑さによるものでないのは明らかだった。
(……と、とにかく早く家に送ろう)
大量に脳裏を過ぎる煩悩を振り払い、黙々と目的地へ歩を進める幸太。5分ほど歩くと火恋のマンションに到着。
4階まで上がり、彼女の家のインターホンを押すと、すぐに葵が出てきた。
「あれ? 幸太さんいったいどうし……って、おねえちゃん!?」
「あ、大丈夫大丈夫。ただ寝てるだけだから」
「あ、そうなんですか……。え、まさかずっと運んできてくれたんですか?」
「いや、そこのバス停から」
「そうですか、なんかすみません迷惑かけてしまって。……あ、ちょっと待ってもらっていいですか?」
幸太に断ると葵は室内に戻り「翔大ー。おねえちゃんの布団しいてくれない?」と長男に声をかけている。火恋を寝かせるためだろう。
―――と。
「「じぃぃぃぃぃぃ……」」
どこから姿を現したのか、いつの間にか足元に二人の少女の姿があった。四女の遥と五女の萌だ。片や半眼で何かを怪しみ、片や指をしゃぶりながら珍しそうに瞳を輝かせている。
「ど、どうした? 二人とも」
「だいねえ、なにしてんの?」
萌が尋ねる。だいねえ。一番大きな姉。火恋のことだ。
「ああ。バスに乗ってたら疲れて寝ちゃってな」
「ねちゃった?」
愛らしく首を傾げる。その口調は復唱というより疑問だった。
「えーおかしいよー」
そんな萌の内心を代弁するように、遥が両手を突き上げて幸太に抗議。
「え? な、なにが?」
「だって、だいねえ、おゴゴゴゴゴ」
「はーいあんたたちにはまだ早いから奥で遊んでてねー」
火恋を指さしながら何事か告げようとした遥の口を、戻ってきた葵が右手で塞いだ。そのままぬいぐるみのように彼女を持ち上げると、二人をつれて奥へと消えていく。遥は終始「モガモガ」となにやら唸っていた。
(な、なんだ?)
訳が分からず呆然と立ち尽くしていると、葵がすぐに戻ってきた。
「すみませんお待たせして。おねえちゃん預かります」
向けられた葵の背中に火恋を乗せる。
「今日はほんとありがとうございました。外も暗くなってきましたから、気をつけて帰ってくださいね」
「え? あ、ああうん。ありがと」
釈然としないまま、とはいえ用は済んだので、幸太は大人しく引き払った。
帰宅後、風呂と夕飯を手早く済ませた幸太は、自室の机でひと息ついていた。
ちょうど今日の創作ノルマが終わったところだ。ノートパソコンを閉じて大きく背中を伸ばし、卓上のカレンダーに目を向ける。
7月6日の枠から毎日、ノルマのページ数と実際に書き終えたページ数が記入されていた。昨日の時点で49ページ。今日の分を入れて50ページ。
残りページ数は80。時間は30日。
このペースを保てば問題なく完遂できる。
だが、油断は禁物だ。文化祭の準備は大抵、計画通りにいかない。特に夏休み最後の時期は予期せぬトラブルの連続で慌てるのが必至だ。
貯められる時に貯めておかなければならない。
(……眠)
しかし今日はさすがに厳しかった。疲労が激しく頭がうまく回らない。
時刻は22時。いい時間だった。
ノルマは達成している。それに明日は日曜で文化祭の準備もない。今日無理をして明日の大半が寝て終わるなどとなったら、むしろ非効率だ。
(今日は寝るか……)
幸太は電気を消して、ベッドに潜った。