本編
◯5月16日 國立高校 2年2組 教室
新生ライトノベル同好会、その第1回ミーティングを終えてからの2週間、幸太は必死に時間をつくりながら3日で1冊のノルマをこなしていった。
授業中は教科書で隠しながら1時間あたり10ページから20ページほど読破。黒板を写すふりをしながら、面白かった点と理由をノートに書き留めていく。受験する場合に必要な科目だけ真剣に聞き、それ以外の科目はライトノベル一色だ。
魅力を感じる理由を掘り起こす作業は、想像以上に困難を極めた。
テンプレだから、など理由が判然としているケースはごく少数。大半はまるで言葉に置き換わらない。ただ「なんとなくそう思う」だけなのだと、言い換えれば、自分は「面白い作品とは何か」まるでわかっていなかったのだと痛感させられた。
火恋に聞くと、彼女も似たような苦労をしているようだった。
だが、そこで立ち止まっているわけにはいかない。
理由がつかめないものは、自分なりに感じたままを書いてノルマをこなしていく。
そうして迎えた、2週間後の5月16日。
5限目が終わり、間もなくホームルームという解放感に包まれた騒がしい2年2組。
幸太は前の時間から休むこともなく、黙々とライトノベルを読みつづけていた。
「おい! お前らうるせぇぞ! さっさと席につけ!」
5分休みの後、およそ教師とは思えない口調で教室に入ってきたのは一人の女性。
真名島佳苗。幸太と火恋の担任だ。ルックスもスタイルも見事なのだが、一年を通じて一本ラインの緑ジャージにトイレでよく目にするサンダル、肩口でサイドテールにまとめた寝癖だらけの髪という身なりが、そのすべてを台無しにしている。
傍から見る限りはまるで不良。実際、昔は誰もが恐れる不良生徒で、東京西部の中学や高校を行脚しては並み居る喧嘩自慢の猛者を蹂躙。150戦以上して無敗どころか傷一つ負わなかったという、作り話としか思えない伝説が実しやかに飛び交っていた。
だが意外なことに、
「かなちゃん、昨日の合コンどうだった?」
「いい人いた? 連敗脱出?」
校内の教師で唯一、愛称で呼ばれるほど、生徒からは大人気だった。とにかく怖いが面倒見は良く、友達関係や将来の不安など勉強以外の相談にも親身に乗ってくれるからだ。
「うるせぇガキが口出すんじゃねぇ。だいたいあんなもんセッティングの段階でヘボってんだよ。美咲のヤツ男は全員モデル似の独身20代とか目ぇ腐ってんのか二人も妻子持ち混ぜやがって合コンに異物は危険だから混ぜんなって親に教わらなかったのかあの野郎……ッ!」
ぶつぶつ恨み節を呟き始めた担任を前に、生徒たちは「またダメだったかぁ……」「どうせまたビール飲みすぎて幻滅されたんでしょ」「このあいだも最後にお店の前で吐いて台無しにしたもんね」「それにしてもかなちゃんの親って、ホント変なこと教えてるよな」「あれネタじゃなくてマジってのがな……」と通夜めいた雰囲気に包まれる。
「うるせぇぞ手前ぇら! いいからさっさとホームルーム始めやがれッ! おい日直ッ!」
激怒して自分の仕事を丸投げする佳苗。もっともこんな暴挙すら日常茶飯事のため、クラスの誰一人として欠片も驚きを露わにしない。ただ淡々と、その視線を日直当番へ向ける。
―――幸太に。
「……」
彼は気づかなかった。その意識は完全に小説の世界の中だ。
だから、その人物が近づいてくる足音も聞こえず、
「へ?」
気づいた時には、本を取り上げられていた。
反射的に顔を上げる幸太。
「……ぃ、っ!?」
その表情が一瞬にして蒼白に凍りつく。
血に飢えた狂犬が待望の獲物を捕らえて浮かべるような、凶悪な笑みを張りつけた佳苗を前にして……。
「……へぇ? 私の前で堂々と隠れて本を読みふけるとかいい度胸だなぁ? えぇ長月ぃ?」
「あ、あは……あはは、はは……」
「いついかなる時も一瞬の油断が命取りだって親に教わったよなぁ?」
「い、いやぁ、うちの親そんな戦場を生き抜く元グリーンベレーの男とかじゃなかっ」
「あとで体育教科室に来い」
「……ハイ」
ホームルームの後、幸太は佳苗の命令どおり運動施設棟1階の体育教科室にやってきた。
教室を出る直前、火恋が「大丈夫? ついてこうか?」と言ってくれたが、ただの自業自得で迷惑をかけるわけにはいかないので固辞。よって、今は一人だ。
「……しかし、授業中に寝るわ漫画雑誌を漁るわ、このあいだは抜け出してトイレで携帯いじってた挙げ句にデカイ声で叫ぶとか、なんだあれか手前ぇの頭は沸いてんのか、あぁ?」
「……す、すみませ」
「そう思ってねぇから繰り返すんだろうがッ!」
「す、すみませんすみませんすみませんっ!」
デスクを何度も叩きながら激昂する佳苗と、何度も頭を下げる幸太。叱責はすでに5分を超えていたが、佳苗の怒りは一向に衰えない。
幸太は過去に一度、佳苗の逆鱗に触れたことがある。修学旅行で女子の部屋へ遊びにいったところを見つかったのだ。ほかの先生の見回りは押し入れに隠れて難を逃れたのだが、佳苗は「押し入れから男のニオイがする」という驚異の嗅覚で、見事に看破してみせた。
その時は規則破りに加え、佳苗がそれ以上に許せない「男と女で夜遊び」というシチュエーションが怒りにガソリンを注ぎ、その場にいた男女全員、1時間以上の説教を食らった上、夜明けまで廊下に正座させられた。
(……か、かなちゃん怒ると長いからなぁ……ただでさえ時間ないのに……)
「お前が悪ぃんだろうがぁぁぁッ!」
「ひぃぃぃっ! ご、ごめんなさいごめんなさいッッッ!」
顔に出ていたのか、幸太の頭の中を見透かす佳苗。
すると、彼がまるで反省していないと思ったのか、
「とにかくお前が反省するまで、この本は返さねぇぞ。ただでさえ吉岡のおっさんや東野先生から、お前が授業を聞かねぇって苦情めいたもんが来てるからな」
「そ、そんなっ!」
途端に焦りはじめる幸太。
理由は、本にあった。
「そ、それだけは! それだけは勘弁してください! 特別イラストと霧島由仁の直筆サインがついた初回限定版なんてどこにも売ってないんです! それ取り上げられたら保存用を開けるしかなくなって、ネットでも高校生の手が出ないくらい高くなっちゃってて、なくひたらにどとょ手にひゃいらないんでずぅぅぅぅ!」
ついには佳苗の足に縋りついて泣き出す幸太。無様極まりない醜態だが、彼にとってはそれどころではない。
「……まぁ、私も鬼じゃねぇからな。お前が本気で反省してるってことがわかれば、返してやらないでもない」
「じまずじまず反省でもなんどぇもじまずがらお願いじまずかえじでぇぇぇぇ!」
「手前ぇいまなんでもするって言ったな?」
「いえなんでもはしません」
佳苗の追及に嫌な予感を察した幸太は一瞬で素に戻る。
「言ったよなぁ?」
「……イイエ」
「捨てるぞ」
「すみません言いました嘘つきました許してくださいできる範囲でなんでもします」
「……よし。それじゃあ一つやってもらおうか」
言質が取れると佳苗は自分のリュックを漁りだし、なにやら取り出したそれを恥ずかしげに顔を逸らしながら幸太へ差し出す。
普段の強面にして性悪な雰囲気からは想像できない可愛らしい一面に幸太は少しどきりとするも、平静を装って受け取った。
「……本?」
文庫本だ。購入した書店のカバーがついているため、書籍名はわからない。
「あの……これがなにか?」
「……もら……くれ……」
「え? な、なんですか?」
佳苗の歯切れが悪いためまったく聞き取れない。なぜか妙に恥ずかしそうだ。
「だから……ン、もらっ……てくれ……」
「いや、その……よく聞こえないん」
「だからこれにサインもらってきてくれっつってんのがわかんねぇのか手前ぇ何遍言わせんだこの野郎ッッッ!」
「ひぃぃぃぃっ! ……って、え? いまなんて……?」
二つの意味で驚き、困惑する幸太。この本にサインをもらう?
気になった彼は、受け取った本のカバーをそっと外してみた。
―――著、霧島由仁。ミスティック・フリゲート、第1巻。
まったく予想外の展開に、さすがの幸太も呆気にとられて黙りこむ。
「か、かな、ちゃん……もしかして、霧島由仁、の、ファ」
「と、とにかくだ! 次のサイン会でもらってきたら本は返してやる! わかったらさっさと帰りやがれ! あと学校の誰にもバラすなよ! せ、生徒の親に知られたりしたら面倒なんだからな! バラしたらお前の保体の成績1にするから覚悟しやがれッ!」
「え……新刊の発売日、まだ少し先なんだけど……ってか1ぃっ!?」
その後、佳苗はなんだかんだらしくない言い訳と誇張に聞こえない脅しを並べて幸太にサイン本を確約させると、鼻歌交じりに顧問を務めるテニス部の様子を見に行ってしまった。
あっさり解放された幸太は、まさかの事実に驚きを隠せないまま、とりあえず教室へ。リュックを回収すると、自転車で帰路を走る。佳苗の話を振り返りながら。
(か、かなちゃん、言ったらマジでやるから、このままじゃホントに成績1に……でも、本人がここの生徒なんだから、バラすなっていわれても無理だって……かなちゃん名字めずらしいから絶対バレるって……)
もはやため息も漏れなかった。
新生ライトノベル同好会、その第1回ミーティングを終えてからの2週間、幸太は必死に時間をつくりながら3日で1冊のノルマをこなしていった。
授業中は教科書で隠しながら1時間あたり10ページから20ページほど読破。黒板を写すふりをしながら、面白かった点と理由をノートに書き留めていく。受験する場合に必要な科目だけ真剣に聞き、それ以外の科目はライトノベル一色だ。
魅力を感じる理由を掘り起こす作業は、想像以上に困難を極めた。
テンプレだから、など理由が判然としているケースはごく少数。大半はまるで言葉に置き換わらない。ただ「なんとなくそう思う」だけなのだと、言い換えれば、自分は「面白い作品とは何か」まるでわかっていなかったのだと痛感させられた。
火恋に聞くと、彼女も似たような苦労をしているようだった。
だが、そこで立ち止まっているわけにはいかない。
理由がつかめないものは、自分なりに感じたままを書いてノルマをこなしていく。
そうして迎えた、2週間後の5月16日。
5限目が終わり、間もなくホームルームという解放感に包まれた騒がしい2年2組。
幸太は前の時間から休むこともなく、黙々とライトノベルを読みつづけていた。
「おい! お前らうるせぇぞ! さっさと席につけ!」
5分休みの後、およそ教師とは思えない口調で教室に入ってきたのは一人の女性。
真名島佳苗。幸太と火恋の担任だ。ルックスもスタイルも見事なのだが、一年を通じて一本ラインの緑ジャージにトイレでよく目にするサンダル、肩口でサイドテールにまとめた寝癖だらけの髪という身なりが、そのすべてを台無しにしている。
傍から見る限りはまるで不良。実際、昔は誰もが恐れる不良生徒で、東京西部の中学や高校を行脚しては並み居る喧嘩自慢の猛者を蹂躙。150戦以上して無敗どころか傷一つ負わなかったという、作り話としか思えない伝説が実しやかに飛び交っていた。
だが意外なことに、
「かなちゃん、昨日の合コンどうだった?」
「いい人いた? 連敗脱出?」
校内の教師で唯一、愛称で呼ばれるほど、生徒からは大人気だった。とにかく怖いが面倒見は良く、友達関係や将来の不安など勉強以外の相談にも親身に乗ってくれるからだ。
「うるせぇガキが口出すんじゃねぇ。だいたいあんなもんセッティングの段階でヘボってんだよ。美咲のヤツ男は全員モデル似の独身20代とか目ぇ腐ってんのか二人も妻子持ち混ぜやがって合コンに異物は危険だから混ぜんなって親に教わらなかったのかあの野郎……ッ!」
ぶつぶつ恨み節を呟き始めた担任を前に、生徒たちは「またダメだったかぁ……」「どうせまたビール飲みすぎて幻滅されたんでしょ」「このあいだも最後にお店の前で吐いて台無しにしたもんね」「それにしてもかなちゃんの親って、ホント変なこと教えてるよな」「あれネタじゃなくてマジってのがな……」と通夜めいた雰囲気に包まれる。
「うるせぇぞ手前ぇら! いいからさっさとホームルーム始めやがれッ! おい日直ッ!」
激怒して自分の仕事を丸投げする佳苗。もっともこんな暴挙すら日常茶飯事のため、クラスの誰一人として欠片も驚きを露わにしない。ただ淡々と、その視線を日直当番へ向ける。
―――幸太に。
「……」
彼は気づかなかった。その意識は完全に小説の世界の中だ。
だから、その人物が近づいてくる足音も聞こえず、
「へ?」
気づいた時には、本を取り上げられていた。
反射的に顔を上げる幸太。
「……ぃ、っ!?」
その表情が一瞬にして蒼白に凍りつく。
血に飢えた狂犬が待望の獲物を捕らえて浮かべるような、凶悪な笑みを張りつけた佳苗を前にして……。
「……へぇ? 私の前で堂々と隠れて本を読みふけるとかいい度胸だなぁ? えぇ長月ぃ?」
「あ、あは……あはは、はは……」
「いついかなる時も一瞬の油断が命取りだって親に教わったよなぁ?」
「い、いやぁ、うちの親そんな戦場を生き抜く元グリーンベレーの男とかじゃなかっ」
「あとで体育教科室に来い」
「……ハイ」
ホームルームの後、幸太は佳苗の命令どおり運動施設棟1階の体育教科室にやってきた。
教室を出る直前、火恋が「大丈夫? ついてこうか?」と言ってくれたが、ただの自業自得で迷惑をかけるわけにはいかないので固辞。よって、今は一人だ。
「……しかし、授業中に寝るわ漫画雑誌を漁るわ、このあいだは抜け出してトイレで携帯いじってた挙げ句にデカイ声で叫ぶとか、なんだあれか手前ぇの頭は沸いてんのか、あぁ?」
「……す、すみませ」
「そう思ってねぇから繰り返すんだろうがッ!」
「す、すみませんすみませんすみませんっ!」
デスクを何度も叩きながら激昂する佳苗と、何度も頭を下げる幸太。叱責はすでに5分を超えていたが、佳苗の怒りは一向に衰えない。
幸太は過去に一度、佳苗の逆鱗に触れたことがある。修学旅行で女子の部屋へ遊びにいったところを見つかったのだ。ほかの先生の見回りは押し入れに隠れて難を逃れたのだが、佳苗は「押し入れから男のニオイがする」という驚異の嗅覚で、見事に看破してみせた。
その時は規則破りに加え、佳苗がそれ以上に許せない「男と女で夜遊び」というシチュエーションが怒りにガソリンを注ぎ、その場にいた男女全員、1時間以上の説教を食らった上、夜明けまで廊下に正座させられた。
(……か、かなちゃん怒ると長いからなぁ……ただでさえ時間ないのに……)
「お前が悪ぃんだろうがぁぁぁッ!」
「ひぃぃぃっ! ご、ごめんなさいごめんなさいッッッ!」
顔に出ていたのか、幸太の頭の中を見透かす佳苗。
すると、彼がまるで反省していないと思ったのか、
「とにかくお前が反省するまで、この本は返さねぇぞ。ただでさえ吉岡のおっさんや東野先生から、お前が授業を聞かねぇって苦情めいたもんが来てるからな」
「そ、そんなっ!」
途端に焦りはじめる幸太。
理由は、本にあった。
「そ、それだけは! それだけは勘弁してください! 特別イラストと霧島由仁の直筆サインがついた初回限定版なんてどこにも売ってないんです! それ取り上げられたら保存用を開けるしかなくなって、ネットでも高校生の手が出ないくらい高くなっちゃってて、なくひたらにどとょ手にひゃいらないんでずぅぅぅぅ!」
ついには佳苗の足に縋りついて泣き出す幸太。無様極まりない醜態だが、彼にとってはそれどころではない。
「……まぁ、私も鬼じゃねぇからな。お前が本気で反省してるってことがわかれば、返してやらないでもない」
「じまずじまず反省でもなんどぇもじまずがらお願いじまずかえじでぇぇぇぇ!」
「手前ぇいまなんでもするって言ったな?」
「いえなんでもはしません」
佳苗の追及に嫌な予感を察した幸太は一瞬で素に戻る。
「言ったよなぁ?」
「……イイエ」
「捨てるぞ」
「すみません言いました嘘つきました許してくださいできる範囲でなんでもします」
「……よし。それじゃあ一つやってもらおうか」
言質が取れると佳苗は自分のリュックを漁りだし、なにやら取り出したそれを恥ずかしげに顔を逸らしながら幸太へ差し出す。
普段の強面にして性悪な雰囲気からは想像できない可愛らしい一面に幸太は少しどきりとするも、平静を装って受け取った。
「……本?」
文庫本だ。購入した書店のカバーがついているため、書籍名はわからない。
「あの……これがなにか?」
「……もら……くれ……」
「え? な、なんですか?」
佳苗の歯切れが悪いためまったく聞き取れない。なぜか妙に恥ずかしそうだ。
「だから……ン、もらっ……てくれ……」
「いや、その……よく聞こえないん」
「だからこれにサインもらってきてくれっつってんのがわかんねぇのか手前ぇ何遍言わせんだこの野郎ッッッ!」
「ひぃぃぃぃっ! ……って、え? いまなんて……?」
二つの意味で驚き、困惑する幸太。この本にサインをもらう?
気になった彼は、受け取った本のカバーをそっと外してみた。
―――著、霧島由仁。ミスティック・フリゲート、第1巻。
まったく予想外の展開に、さすがの幸太も呆気にとられて黙りこむ。
「か、かな、ちゃん……もしかして、霧島由仁、の、ファ」
「と、とにかくだ! 次のサイン会でもらってきたら本は返してやる! わかったらさっさと帰りやがれ! あと学校の誰にもバラすなよ! せ、生徒の親に知られたりしたら面倒なんだからな! バラしたらお前の保体の成績1にするから覚悟しやがれッ!」
「え……新刊の発売日、まだ少し先なんだけど……ってか1ぃっ!?」
その後、佳苗はなんだかんだらしくない言い訳と誇張に聞こえない脅しを並べて幸太にサイン本を確約させると、鼻歌交じりに顧問を務めるテニス部の様子を見に行ってしまった。
あっさり解放された幸太は、まさかの事実に驚きを隠せないまま、とりあえず教室へ。リュックを回収すると、自転車で帰路を走る。佳苗の話を振り返りながら。
(か、かなちゃん、言ったらマジでやるから、このままじゃホントに成績1に……でも、本人がここの生徒なんだから、バラすなっていわれても無理だって……かなちゃん名字めずらしいから絶対バレるって……)
もはやため息も漏れなかった。