用語解説
今回も16話に関する話です。
以前に書きました「封鎖」について、もう少し詳しく書きたいと思います。
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・きんせつ - ふうさ【近接封鎖】
1. 敵を港に閉じこめたまま出撃できないようにする戦術
2. 主に優勢側が採用した戦術
3. 艦隊の疲弊や損害が激しくなりやすかった
・さんかい - ふうさ【散開封鎖】
1. 敵を港から引っ張り出すための戦術
2. 主に劣勢側が採用した戦術
3. 港から誘い出す絶妙な距離感を見極める必要があった
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封鎖には大きく「海軍封鎖」と「通商封鎖」がありました。上記の2つは前者の「海軍封鎖」に分類されます。
・海軍封鎖
- 近接封鎖:敵を港に閉じこめたままにすることが目的
- 散開封鎖:敵を港から引っ張り出すことが目的
・通商封鎖
ちなみに「通商封鎖」は、敵の交易を麻痺させることを目的とします。
⚓
近接封鎖の必要性は、わかりやすいでしょう。敵を港に閉じ込めてしまえば、それだけ自国の制海の安全が保たれます(あくまで、それまでより相対的にですが)
では、散開封鎖のほうはどうでしょう?
こちらの目的は、近接封鎖とは真逆で、敵を引っ張り出すことです。敵に「出てこい!」と言っているわけですね。
では、なぜ敵を引っ張り出したいのか? それはもちろん敵の艦隊を撃滅するためです。
敵艦隊は不利になると港へ逃げこみます。ですが、そうなるとなかなか手を出せません。それこそ港そのものを焼き払う必要があります。ですが、それでは一般市民を巻き込んでしまう恐れがあります。
そこで敵を引っ張り出す必要が生じるのです。
ちなみに敵を引っ張り出すための方法は、大きく3つありました。
・敵に、封鎖部隊が実際よりも小規模であると信じさせる(勝てると思わせる)
・敵が、封鎖部隊を回避できるのではと思える程度に、港から距離を置く(散開封鎖)
・両方を同時に実践する
⚓
(近接封鎖について)
近接封鎖は、敵の港の目の前に陣取り、その出撃を封じます。
その目的は、敵の海軍が出撃して作戦を遂行しようとするのを妨げることでした。
こうした戦術ですので、当然ですが危険も大きく、艦隊の疲弊も相当なものでした。
帆船時代、イギリス海軍がフランスの主要軍港であるブレストを近接封鎖するには「疲弊のための交代を考慮して2組の艦隊が必要」「常に艦隊の5分の1を修理に回し、常に万全の状態を保つことが必要」といわれていたそうです。
ちなみに、危険と疲弊が大きいため、転じて精強な海軍を養成するための手段として採用されてきた歴史もあります。
(散開封鎖について)
先の「敵を引っ張り出す方法」の2つ目です。
この散開封鎖を効果的に実行するためには、次の3つの前提条件を満たす必要があります。
・敵を引き出すために、こちらの位置もその機会を与えるものでなければならない
・この位置は、敵がその目的を果たす前に交戦へ引き出さなければならず、それが叶わないほど港から離れていてはいけない
・自分たちが最も疲弊せず、戦闘適性を最も良く保持する方法を採用する
まんま引用なので小難しい言い回しですが、簡単にいえば
「敵が出撃できるように、あまり港に近い位置に陣取ってはならない。だが、出撃後に敵を見失って行動の自由を許してもいけないため、離れすぎていても駄目」
ということです。
⚓
近接封鎖は通常、優勢の艦隊が採用したのに対して、散開封鎖は劣勢の艦隊が採用する傾向にあったようです。
イギリスの海軍史家・コーベットによれば、近接封鎖を最初に用いたのは、七年戦争におけるイギリスの提督・ホークだそうです。彼はブレストの軍港を封鎖し、フランス海軍の出撃を阻みました。
一方、アメリカ独立戦争のとき、同じくブレストの封鎖にあたった同国の提督・ハウは、散開封鎖を選択しました。
その理由として、ホークの時代(イギリスがフランスに対して優勢)と違って、彼の時代の海軍はイギリス側が劣勢だったからだと言われています。当時、イギリス海軍は単独で戦っていたのに対し、フランス海軍はスペイン海軍と同盟関係にありました。
(もっともアメリカの海軍史家・マハンによれば、その同盟関係はまるで有効に機能していなかったので、多少は戦力を分散させても問題ないとイギリス側が判断した可能性もあります。またイギリス海峡が狭く、散開封鎖を採用してもフランスに隙をつかれる危険性は小さいといった判断もあったようです)
⚓
各種の封鎖について、簡単にまとめてみましょう。
・海軍封鎖:海軍の封鎖を目的とする
- 1:近接封鎖
- 目的:敵を港に閉じこめたままにする(出撃を許さない)
- 手段:敵との交戦を指向するため、戦列艦の仕事である
- 形態:通常、優勢にある艦隊が採用した
- 備考:疲弊しやすく、危険も大きい
- 2:散開封鎖
- 目的:敵を港から引っ張り出す(出撃を誘う)
- 手段:敵との交戦を指向するため、戦列艦の仕事である
- 形態:通常、劣勢にある艦隊が採用した
- 備考:敵の港に近すぎても、離れすぎていてもいけない
・通商封鎖:通商の封鎖を目的とする
- 目的:敵の通商を麻痺させる
- 手段:機動性が重視されるため、巡洋艦の仕事である
- 備考:将来的な「制海の確保」を指向する戦術である
作中・第16話でいえば、
- グランディア北岸、つまりブレストウッドならびにブロントに対抗するイグニス南岸の戦隊を増強し、近接封鎖が可能な戦力を確保する
- 残りの地域は散開封鎖で広く守り、あわよくば引っ張り出して敵戦隊を撃滅する
といった図式です。やっていることは意外と単純です。苦笑。
(参照:コーベット『海洋戦略の諸原則』、マハン『海軍戦略史論』『マハン海軍戦略』)
以前に書きました「封鎖」について、もう少し詳しく書きたいと思います。
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・きんせつ - ふうさ【近接封鎖】
1. 敵を港に閉じこめたまま出撃できないようにする戦術
2. 主に優勢側が採用した戦術
3. 艦隊の疲弊や損害が激しくなりやすかった
・さんかい - ふうさ【散開封鎖】
1. 敵を港から引っ張り出すための戦術
2. 主に劣勢側が採用した戦術
3. 港から誘い出す絶妙な距離感を見極める必要があった
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封鎖には大きく「海軍封鎖」と「通商封鎖」がありました。上記の2つは前者の「海軍封鎖」に分類されます。
・海軍封鎖
- 近接封鎖:敵を港に閉じこめたままにすることが目的
- 散開封鎖:敵を港から引っ張り出すことが目的
・通商封鎖
ちなみに「通商封鎖」は、敵の交易を麻痺させることを目的とします。
⚓
近接封鎖の必要性は、わかりやすいでしょう。敵を港に閉じ込めてしまえば、それだけ自国の制海の安全が保たれます(あくまで、それまでより相対的にですが)
では、散開封鎖のほうはどうでしょう?
こちらの目的は、近接封鎖とは真逆で、敵を引っ張り出すことです。敵に「出てこい!」と言っているわけですね。
では、なぜ敵を引っ張り出したいのか? それはもちろん敵の艦隊を撃滅するためです。
敵艦隊は不利になると港へ逃げこみます。ですが、そうなるとなかなか手を出せません。それこそ港そのものを焼き払う必要があります。ですが、それでは一般市民を巻き込んでしまう恐れがあります。
そこで敵を引っ張り出す必要が生じるのです。
ちなみに敵を引っ張り出すための方法は、大きく3つありました。
・敵に、封鎖部隊が実際よりも小規模であると信じさせる(勝てると思わせる)
・敵が、封鎖部隊を回避できるのではと思える程度に、港から距離を置く(散開封鎖)
・両方を同時に実践する
⚓
(近接封鎖について)
近接封鎖は、敵の港の目の前に陣取り、その出撃を封じます。
その目的は、敵の海軍が出撃して作戦を遂行しようとするのを妨げることでした。
こうした戦術ですので、当然ですが危険も大きく、艦隊の疲弊も相当なものでした。
帆船時代、イギリス海軍がフランスの主要軍港であるブレストを近接封鎖するには「疲弊のための交代を考慮して2組の艦隊が必要」「常に艦隊の5分の1を修理に回し、常に万全の状態を保つことが必要」といわれていたそうです。
ちなみに、危険と疲弊が大きいため、転じて精強な海軍を養成するための手段として採用されてきた歴史もあります。
(散開封鎖について)
先の「敵を引っ張り出す方法」の2つ目です。
この散開封鎖を効果的に実行するためには、次の3つの前提条件を満たす必要があります。
・敵を引き出すために、こちらの位置もその機会を与えるものでなければならない
・この位置は、敵がその目的を果たす前に交戦へ引き出さなければならず、それが叶わないほど港から離れていてはいけない
・自分たちが最も疲弊せず、戦闘適性を最も良く保持する方法を採用する
まんま引用なので小難しい言い回しですが、簡単にいえば
「敵が出撃できるように、あまり港に近い位置に陣取ってはならない。だが、出撃後に敵を見失って行動の自由を許してもいけないため、離れすぎていても駄目」
ということです。
⚓
近接封鎖は通常、優勢の艦隊が採用したのに対して、散開封鎖は劣勢の艦隊が採用する傾向にあったようです。
イギリスの海軍史家・コーベットによれば、近接封鎖を最初に用いたのは、七年戦争におけるイギリスの提督・ホークだそうです。彼はブレストの軍港を封鎖し、フランス海軍の出撃を阻みました。
一方、アメリカ独立戦争のとき、同じくブレストの封鎖にあたった同国の提督・ハウは、散開封鎖を選択しました。
その理由として、ホークの時代(イギリスがフランスに対して優勢)と違って、彼の時代の海軍はイギリス側が劣勢だったからだと言われています。当時、イギリス海軍は単独で戦っていたのに対し、フランス海軍はスペイン海軍と同盟関係にありました。
(もっともアメリカの海軍史家・マハンによれば、その同盟関係はまるで有効に機能していなかったので、多少は戦力を分散させても問題ないとイギリス側が判断した可能性もあります。またイギリス海峡が狭く、散開封鎖を採用してもフランスに隙をつかれる危険性は小さいといった判断もあったようです)
⚓
各種の封鎖について、簡単にまとめてみましょう。
・海軍封鎖:海軍の封鎖を目的とする
- 1:近接封鎖
- 目的:敵を港に閉じこめたままにする(出撃を許さない)
- 手段:敵との交戦を指向するため、戦列艦の仕事である
- 形態:通常、優勢にある艦隊が採用した
- 備考:疲弊しやすく、危険も大きい
- 2:散開封鎖
- 目的:敵を港から引っ張り出す(出撃を誘う)
- 手段:敵との交戦を指向するため、戦列艦の仕事である
- 形態:通常、劣勢にある艦隊が採用した
- 備考:敵の港に近すぎても、離れすぎていてもいけない
・通商封鎖:通商の封鎖を目的とする
- 目的:敵の通商を麻痺させる
- 手段:機動性が重視されるため、巡洋艦の仕事である
- 備考:将来的な「制海の確保」を指向する戦術である
作中・第16話でいえば、
- グランディア北岸、つまりブレストウッドならびにブロントに対抗するイグニス南岸の戦隊を増強し、近接封鎖が可能な戦力を確保する
- 残りの地域は散開封鎖で広く守り、あわよくば引っ張り出して敵戦隊を撃滅する
といった図式です。やっていることは意外と単純です。苦笑。
(参照:コーベット『海洋戦略の諸原則』、マハン『海軍戦略史論』『マハン海軍戦略』)
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