気紛れたラスボスを振り回す気紛れた群像

◯水晶霊月3節目 15:00 娯楽都市マッカラン 闘技場

 ノエルの心臓は破裂しそうだった。

「待てっつってんのよ! 今日という今日は許さないわよ!」
「だからそんなつもり全くなかったですってばぁ――――――――――――!」

 町中を逃げ回り続けてもうどれくらい経ったのか……彼女は無意識に考えていた。
 迫り来る恐怖のせいで、時間感覚は完全に麻痺している。まだ逃げ出してから三〇分しか経っていないのだが、ノエルはもう数時間は走り続けている気分だった。その為、体感的な疲労が尋常ではない。
 だが、後ろの女―――主である魔女リリスの怒りは一向に収まらない。

「嘘つけ! だったらなんであの小娘に100万ギルなんて大金渡したのよ!」
「そ、それは……ちょっと世話になったお礼で……!」
「ちょっとしたお礼で100万ギルが動くか! ああもういい! あんたが私を殺したいほど憎んでるっていうのは、よ――――――――――――っく分かったわ! だから望み通りあんたと真剣勝負してやるって言ってんのよ分かったら止まりやがれ!」
「だからさっきから違うって言ってるじゃないですかぁっ!」

 必死で逃げ回るノエル。必殺を振りかざして追い続けるリリス。
 闘技場の医務室で突然リリスと再会したノエルだったが、彼女は出会い頭から怒り心頭だった。
 理由は至極単純―――闘技場のトーナメント決勝で敗れた相手の少女が魔導書を買い戻す資金を提供したのが、ノエルだと判明したからだ。
 決勝相手の少女は魔導書で詠唱を確認していたので、おそらく空で魔術を唱えることはできなかった。つまり魔導書がなければ、決勝まで上がってくるどころかエントリーすらしていなかったと推察できる。
 そして、少女とノエルの会話を盗聴した所によれば、魔導書を買い戻せたのはノエルのおかげだということだ。
 結果、リリスの導いた結論は……。

『ノエルは自分に不満があって、刺客を差し向けた』

 もちろんノエルにそんな意図は欠片もない。幾重もの偶然が不運な絡み方をした予期せぬ結末だ。だが、ノエル自身が言葉足らずなことも拍車をかけ、リリスには微塵も納得してもらえていない。
 とは言え、ロゼッタとの経緯をすべて説明してしまうと、リリスの怒りを助長してしまう。そこにはリリスに対する不平不満が少なくとも確かに含まれていたからだ。
 だから、どうせ逆鱗に触れるなら、せめて被害は小さく……。
 それがノエルの選択だった。
 それでも体が勝手に逃げ出すほどの恐怖を浴びることにはなったのだが……。



 そのまま噴水広場まで駆けこんできたノエルとリリス。だが、あっという間に商業区画の方へ姿を消していった。
 その広場で二人の男女がベンチに腰を下ろしていた。

「……何あれ? あんないい年して町中で鬼ごっことか恥ずかしくないのかしら」
「激怒して追い回されてる感じだけどね。って言うか、ソニアのそのだらしない格好の方が僕としては恥ずかしいから止めて欲しいんだけど」

 少女―――ソニア・カンパネルラは思い切り脚を投げ出して背中でベンチに座っており、確かに少年―――エリオ・カンパネルラが周囲の視線を気にしても致し方ない様である。
 だが、ソニアは一冊の雑記帳を抱いてほくそ笑んだままエリオの言葉を聴き流す。

「……んで? 結局あの後、仕事ほったらかして『疾風義賊』と談笑してたってわけ?」

 皮肉るように尋ねるエリオ。

「別にほったらかしてないわ。あの人のおかげであんなにすんなり事件が解決したんだからそのお礼よ。ギルドの人たちだって喜んでたじゃないの」
「まあ、そうだけどさ。……それより、なんでその雑記帳まだ持ってるの?」
「もういらないんだってさ。『じゃあ記念に下さい!』って言ったら、即答で快諾してくれたわ。ああっ! 何て幸運なのかしらあたしっ♪」

 雑記帳に抱きついて頬を擦り寄せるソニア。その変態的とも言える涎の似合いそうな仕草は、いかにも勘で物事を運ぶ野性的な彼女らしい。
 だが、そのせいで先ほどから突き刺さる冷たい衆目がエリオには堪え難かった。

「はあぁ〜♪ あの凛々しい姿を思い出すだけでどうにかなっちゃいそう♪」
「……もう十分どうにかなってるよ、って言うかどうかしてるよ……まあいいや。それよりほら、次の仕事だよ次の仕事。最後の報告書によればこの町にいる筈だから、さっさと探しに行かないと。また擦れ違っちゃうよ」
「あの勇ましい面影……括れた腰……舐めたくなるくらい綺麗な肌……細い脚……綺麗な声……笑顔……あぁ〜♪ 神様いまだけはあなたの不公平に感謝します♪」

 エリオの呼びかけにも、ソニアは海藻のように揺れるだけで聴く耳を持たない。

「はぁ……いっつもいっつも……」

 溜め息と共に立ち上がると、エリオは興奮で我を失った姉の襟首を掴み、そのまま引き摺りながら広場を後にした。
 ―――一向に進展を見せない討伐隊の状況確認という次なる任務へ向かう為に。



 噴水広場から商業区画へ逃げこんだノエルと、追い回すリリス。

「なんだありゃ?」
「ん……? あれ、ユーイチ丸焼きにした人じゃん。なに追っかけてんだろ?」
「なんか滅茶苦茶キレてるな。負けた相手に腹いせとかか?」
「どうだろうね。まあ、プライドは高そうだったけどさ」

 そんな二人を宿屋の窓から見下ろす二人の男女。
 男は露出多めの拳闘士といった風体で、女は踊り子のような軽装に短剣を差したベルトを巻いている。
 部屋の中にはもう一人、何やらメモ書きを握り潰して肩を震わせている青年がいた。

「……毎回毎回毎回毎回、救出料で所持金を半分盗んでいくとか……一体どこのどいつだこの野郎が―――――――――っ!」

 二人のリーダーである青年―――ユーイチは、闘技場でリリスに完敗した後、二人共々フレイアによって宿屋まで運びこまれた。その際、所有物はやはり直近の日記の通りに戻されており、所持金も半分に減らされてしまっていたのだ。
 もちろん、そんな事情を露程も知らない彼らには、闘技場の医務室で突然気を失い、気づけば宿屋で眠っていたという認識しかない。

「うっさいわね。病み上がりなんだから静かにしてなさいよ」

 踊り子の女―――シャロン・ハーヴェストが辛辣な口を開く。

「これが黙ってられるか! 知らない間に人が必死に稼いだ所持金を、こんな意味不明な書き置きを残して奪っていくなんて、一体どこの極悪人だっ!」
「……堂々と言えた口か、あんたは」
「極悪人って言えば、今日『疾風義賊』が出たらしいな」

 露出多めの男―――ハリソン・ゲイルが、町で持ち切りの噂を切り出す。

「ああ、あの噂の? ホント世の中にはああいう頭が下がる人がいるってのに、この男ときたら……。少しは見習って欲しいもんよね」
「ふん。どうせ俺の腹は黒いさ。―――しかし、こいつホントどこのどいつだ。いつか絶対に正体突き止めて、今まで盗まれた分の三倍額は請求してやる」

 いかにも生粋の守銭奴らしい決意を胸に刻み、ユーイチは謎の書き置きを丸めてゴミ箱に捨てる。もはや頭の中にリリスの討伐など欠片もなかった。



 商業区画を抜けて貴族屋敷の集う区画へ逃げこんだノエル。リリスの怒りは収まるどころか昂る一方で、その逃亡にはまるで終わりが見えない。

(……何かしら、あの人たち)

 そんな二人を不思議そうに眺める一人の女。
 短い髪に男装めいた格好が性別を中性化しており、人によっては男性と勘違いしかねない外見だ。腰のベルトに差した二本の剣は歪な湾曲を描いており、女性の護身用にしても些か物騒だが、彼女には妙に馴染んで見える。
 二人はそのまま噴水広場の方へ走り去っていってしまった。
 女は目の前に虚しく佇む貴族屋敷に向き直る。
 今はもう抜け殻となった屋敷だ。
 少し前、アインシュヴァルツより遣わされた二人の少年少女の一計により、この屋敷に住んでいた貴族は過去の罪を暴かれる結果となった。
 今も使用人やメイド、侍女などが屋敷に残ってはいるが、状況の推移が掴めずに困り果てた者が大半だ。路頭に迷う寸前とでも言おうか……。

「ジャンヌ!」

 だが、それももう終わる。
 噴水広場の方からやって来た青年―――エドワードが彼女の名を大声で呼んだ。

「エド。ごめんなさい、無理言って」
「いや、それは別に構わないんだけど……でも、いきなり貴族屋敷の人たちを任せたいってどういうこと?」
「さっきちょっとした騒動があったの、聴いてない?」
「ああうん。ギルド経由で税収の一部をピンハネしてたとか何とか……それでみんなが怒って押しかけて、自警団の詰所に引っ張ったって」
「ギルドの一部がアインシュヴァルツの城主に助けを求めていたみたいよ。それで派遣された調査団がここの貴族を出し抜いたらしいわ」
「そんなことが……でも、なんで君がここに?」
「その調査団の一人に頼まれたの。信頼出来る人に、ここに残された人たちの事後対応を任せて欲しいって」
 実際、ソニアからそんな依頼は受けていない。これはジャンヌの独断だ。
「そういうことか……。分かった、何とかするよ」
「ありがとう」

 ジャンヌはエドワードの頬にお礼の淡いキスを残すと、そのまま屋敷を立ち去ろうとした。その脚をやや顔を紅くしたエドワードが引き止める。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「なに? 右にもして欲しいの?」

 振り返って悪戯っぽく笑うジャンヌ。

「い、いやそうじゃなくて」

 エドワードは両手を思い切り前に突き出して否定する。その様子が面白いのか、ジャンヌはからかうように笑っていた。

「ごめんごめん冗談よ。……それで?」

 エドワードもすぐに真面目な表情に戻る。

「また、どっか行っちゃうのかい?」
「ちょっとやらなきゃならないことがあってね。でも大丈夫、今日明日で急にいなくなったりしないわよ。宿屋に来ればちゃんといるから」

 後ろ手を振りながら、ジャンヌはエドワードに背中を向けて噴水広場へ向かう。
 ソニアの雑記帳にもあった最後の恩返し先―――マッカランの人々に『疾風義賊』として報いる為に。
 そのすらりと伸びた背中を―――エドワードが抱き締めた。

「…………! ちょ、ちょっと……!?」

 あまりに唐突の抱擁に動揺を隠せないジャンヌ。
 だが、エドワードは一言も発しない。
 ただ、その心臓の鼓動だけが、背中越しにジャンヌの心臓を叩く。
 そのまま暫く時間が流れ……。

「……ホントに?」

 やがて、消え入りそうなエドワードの声が耳元で聴こえた。
 その一言で、ジャンヌは気づいた。
 彼の脳裏にあの幼い日の一幕が―――互いが失意のうちに別れたあの日のことが過ったのだろうと。
 激情に駆られて故郷を離れた自分にとっては、貴族への復讐が全てだった。言わば心の隙間は全て復讐心で埋め合わされていた。
 だが、エドワードは違ったのだろう。
 父を失った悲痛から立ち直る為の拠り所を見出せず、その唯一の希望としてジャンヌの存在があったのかもしれない。
 その思いに応えるように、ジャンヌはエドワードの手に自分の手を重ねる。

「大丈夫……もう勝手に消えたりしないから。ね?」

 ジャンヌの優しい声に、エドワードの抱擁は弱まるよりも一層強まった。
 彼女を失う痛々しい不安ではなく、共に居たいという柔らかい愛情によって。



 再び噴水広場に戻ってきたノエルは、娯楽施設方面へ逃げこんだ。だが、リリスの諦めも頗る悪く、その追う脚も衰える気配がまるでない。

「あっ……お姉様……と、リリス様?」

 カジノの窓を拭いていた少女―――リーフィアは、下から聴こえる阿鼻叫喚めいた悲鳴が気になって、ついそちらを向いてしまった。
 そこが地上三〇メートルはあろうかと言う空中であることを忘れて……。

「――――――! ひぃぃぃぃぃっ! やっぱりムリムリ! もうムリムリムリですムリです助けてください勘弁してくださいっ!」

 恐怖に負けて、その場にしゃがみこむリーフィア。
 彼女は今、カジノの遥か上層から吊るされたゴンドラのような小さな籠に乗せられていた。約束の100万ギルを反故にした穴埋めで、闘技場運営者から施設の清掃を課せられたのだ。そのスタートが、カジノの窓拭きだった。

「おーい姉ちゃん! 手ぇ動かさなきゃ、いつまでたっても終わらんぞ!」

 自分より少し上の窓を磨いていた初老の男性が、リーフィアを一喝する。彼は微塵も怖くないのか、手際良く次々と窓を磨いてはどんどん最上階へ向かっていく。他に何人かいる同業の人たちも同様で、彼女より下にいる者はいない。

「そそそそそんなこと言ったって……」

 怖い物見たさか、あるいはノエルとリリスに助けを求めたいのか、リーフィアは心に反して再び下を見てしまった。

「――――――イヤあぁぁっ! もう勘弁してくださあぁぁぁぁぃっ!」

 幼子のように烈しく泣き出したリーフィアが100万ギルの穴を埋めるのは、これから随分と先のことになるのだが―――それはまた別の話。



 娯楽施設を一周しても逃げ切れなかったノエルは、町の西の高台へ逃げこんだ。リリスとの距離は徐々に詰まっており、その恐怖が上がり始めた息を必死に絞り出す。
 ―――その高台を拠点に、主の命を全うすべく精力的に動き回る二六の影。

「いた?」「いない」「こっちも」「どこ行ったんだろ、リリス様」「リーフィアさんはいたよ」「どこに?」「カジノ」「遊んでたの?」「ううん、なんか窓拭きしてた」「窓拭き? なんで?」「さあ……なんか悪いことでもしたんじゃない? もしくはカジノの機械壊しちゃったとか」「リリス様、いなかったの?」「うん」「もごもご」「……あんた大丈夫なの? まだ包帯ぐるぐる巻きだけど」「もごっ!」

 メルリープたちは、ノエルの頼みを受けてリリスを探し回っていた。だが、一時間近く捜索しても、なかなか見つからなかった。
 それでも彼女たちに疲労の色や嫌気や弱気は見られなかった。
 主であるノエルの為……。
 その強き一念の下に彼女たちは一つとなっていた。
 そのキッカケとなったのは―――。

「あっ! 狼さんだ!」

 突然一人が空を指差した。全員が釣られるようにそちらを見上げる。
 その指の先、遥か上空に、銀色の体躯を煌めかせて天へと翔け上がる獣の姿があった。
 獣が空を翔けるという事実自体、人間には眉唾物なのだが、自身が妖精であり普段から魔族と関わる彼女たちにとっては、特段驚くような光景でもない。
 その背中には人が乗っているようにも見える。だが、かなり距離がある為、人相などは定かにならない。真紅の身形であることが掴めるくらいだ。

「狼さーん! ありがとうございましたー!」

 一人が大声でお礼を伝えながら手を振る。
 その一声を皮切りに全員が口々に銀狼へ感謝の思いを叫び出した。
 もはや二六人分の声が重なり合って内容が理解できない程だったが、それでも銀狼には伝わったのか、高らかな遠吠えが空に響いた。まるで一声で空が晴れ渡るような、力強く透き通った綺麗な遠吠えだった。
 メルリープたちは、銀狼の姿が見えなくなるまで、手を降り続けた。
 その背後を物凄い勢いで走り去るノエルとリリスに、まったく気づくこともなく……。


          ‖


「……ん? なんか声が聴こえるです」

 マッカランの上空遥か彼方を翔ける狼、その背中に跨がる少女は不思議そうに地上を見下ろしていた。
 町の最も高い丘の上から、自分たちに向かって手を振る大勢の影が見える。
 それは、相棒の銀狼―――フェンリルにできた友人たちだった。

「ああ、宿屋のあの子たちですか」

 フェンリルも気づいたのか、応えるように綺麗な遠吠えを送る。

「良かったですね。たくさん友達ができて。もうちょっと時間があれば一緒に遊んだりできたのに申し訳ないです」

 少女―――フレイアは、フェンリルの頭を撫でながら謝罪を述べる。
 仕事を終えた彼女たちは、主である神・アルティアからの連絡を受けて、すぐに町を発つことになった。普段相棒を振り回しっぱなしのフレイアとしては、少しフェンリルと気を晴らしてから天宮に戻りたい所だったが、先手を打たれてしまった形だ。
 それでもフェンリルは文句一つ言わず、こうして従ってくれる。

「次に地上へ降りられるのがいつか分からないですけど、またここに来たらあの子たちを探してみるです。今度はあたしも一緒に遊ぶです」

 フェンリルも嬉しそうに吠えた。
 彼女たちはそのまま天宮目指して、大空を翔け上がっていった。


          ‖


 高台を登って降りて、再び噴水広場に戻ったノエルは、リリスの制裁を受ける前に既に死に体と化していた。それでも主の怒りの方が恐ろしいのか、逃げる脚を止めない。上がらない膝に鞭を打って引っ張り上げ、町の入口へ向かった。
 その遥か彼方―――、既に町を出て次なる旅路についていた少女の姿があった。

「……でもホント良かった、ノエルさんも無事に受け取ってくれて。ジャンヌさんにちゃんとお礼できなかったのは残念だけど……、テミルナで運び屋やってるって言ってたから行けばまた逢えるよね、きっと」

 魔導書片手に赤い頭巾を被った少女―――ロゼッタは、既に指先に乗るくらい小さくなったマッカランの町を振り返る。
 昨日、討伐隊のリーダーに魔導書を売り飛ばされてから色々なことが起こった。
 自分をマッカランまで運んでくれた女性は騎士のような男装に身を包んだ堅気な人で、垣間見せる優しさや柔和な笑顔が一際印象的だった。なにやら訳ありのようだったが、彼女の前でロゼッタはひと時、姉の存在を感じたような気がした。
 それから魔導書を探している最中の酒場で出会った半妖の女性は、第一印象は頗る最悪だった。朝から酒を呷り一人愚痴を吐き続けるという体たらく。―――だが、蓋を開けるとすべてが覆った。彼女は家族を思うあまり空回りしていただけの、誰よりも純粋で素直すぎた不器用な女性だった。
 その彼女から譲り受けた100万ギルのおかげで、いま自分の手に握られている魔導書は戻ってきた。
 その事実は今、ロゼッタにとって重く感じられていた。
 この二日で自分を支えてくれた二人、そのすべての思いがこの魔導書に集約されている気がして……。自分が一人ではないことを思い出せる。
 たとえ進む道に寄り添う人はいなくとも。

「さて、次はどこに行こうかな」

 地図を広げて、再び歩き出すロゼッタ。

(またジャンヌさんやノエルさんみたいな人に逢えるといいなぁ)

 彼女は二人の微笑みを思い浮かべながら、次の町を目指す。


 その彼方―――マッカラン付近で盛大な火柱が……そして悲痛な絶叫と高笑いが上がったことなど、気づきもしないまま……。
 見果てぬ旅路の終点を目指して、新たな一歩を踏み出す。
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