気紛れたラスボスを振り回す気紛れた群像
ノエルとメルリープたちの感動の再会の最中―――。
闘技場は名物実況と観客たちの大歓声に包まれていた。
その全てを一身に浴びて、会場の中央で涙を浮かべているのは―――一人の少女。
「……と言うわけで! 賞金100万ギル争奪戦! 記念すべき第一回って言うか、もう二度と開催御免のワンデートーナメントの覇者は、なんと一四歳の魔導少女! こんな世間も苦労も失恋も不倫も裁判沙汰も知らない女の子が100万ギルなんて大金手にするなんて、世の中一体どうなってんだゴルァ!」
結果に納得いかないのか、物見台から盛大に勝手な不満を吐き散らす実況の女。だがいつものことなのか、観客も熟れた失笑で生温く見守る。
そんな実況も優勝した少女の耳には届いていないらしく、主催者から賞金を受け取る手は嬉しさで震えていた。表情も涙目ながらも満面の笑顔だ。
若干一四歳の愛らしい少女が優勝したという異例の快挙に、会場は惜しみない賞讃と驚愕で埋め尽くされていた。
……一人を除いては。
「100万ギル……私もあいつに慰謝料として請求したいくらいよ……どっかの誰かに寝取られたせいで、私の初恋はもうドロドロよ。排水溝の汚物よりもドッロドロよ。思い出したくないくらいヘドロ塗れよ……。大体どこの誰よノエルって、毎晩毎晩寝言でうっさいのよ、私の耳元で別の女の名前囁いてんじゃないわよ! 気色悪いっての! 寝取ったヘドロ女、いつか見つけたら絶対に処刑してやるわ! 絞首刑よ絞首刑!」
表彰式は実況の女を無視して恙無く進み、そのまま無事に終了した。
観客たちが会場を後にするなか、女は物見台の手摺から上半身を垂らしたまま、いつまでも愚痴を空に零し続けていた。
そして―――。
(……やった……やった! これでお礼ができる!)
見事に優勝を果たした少女―――ロゼッタは、賞金100万ギルの詰まった袋を抱き締めながら闘技場の廊下を飛び跳ねていた。
その脚ですぐさま町に繰り出し、恩人の女性を捜したかったが、逸る気持ちを抑えて念のため医務室へ向かう。決勝で負った擦り傷の治療の為だ。闘技場参加のルールとして負傷者は程度を問わずに医務室へ行かなければならない。それは参加者の安全に配慮した規則であり、また闘技場が不慮の責任を負わない為の防波堤でもあった。
(これくらい大したことないんだけどな……自分でも治せるし……)
とは言え、規則は規則の為、従う他ない。
ロゼッタはさっさと済ませる為、足早に医務室へ向かった。
表彰式で堂々と愚痴を零す実況女と時を同じくして―――。
「……な、なんだってのよ、あの人間……痛っつつつ!」
闘技場の受付の端で不満気に愚痴を吐き捨てる女が一人。傍らには付き人と思しき女が寄り添い、負傷した彼女の治療に当たっている。
「だ、大丈夫ですか? リリス様」
回復魔術の象徴である淡い光が、女―――魔女リリスの腕の火傷を癒していく。
「別に怪我は大したことないけど……あんなとんでもない人間がエントリーしてるなんて完全に予想外だわ。あれなら手加減なんて必要ないじゃない」
「すみません、決勝以外の試合だと別に目立った子でもなかったので……特に前情報はお伝えしなかったんですけど……」
その強さが鳴りを潜めていた理由が、相手を気遣って手加減していたからだとは、傍らの女―――リーフィアも気づかなかった。彼女は主であるリリスの為に全試合を偵察していたが、特に彼女の敵になる参加者はいないと見ていたのだ。
結果、魔導少女の実力を見誤ってしまい、リリスがまさかの敗北を喫する羽目になってしまった。
「……はい、終わりました」
リリスは具合を確認するように、腕を回したり撫でたりしている。
「ふん……まあいいわ。当初の目的は果たしたわけだしね」
無理矢理自分を納得させるリリス。幾分か機嫌は直ったようだ。
それを見計らっていたかのように、リーフィアが恐る恐る切り出す。
「でも、ちょっと気になったことがあるんですけど……」
「気になったこと?」
「トーナメントにメルたちが参加してたような気がして……観客席からだと遠すぎてちゃんと確認できなかったんですけど」
「なに、あいつら私に喧嘩売る気だったわけ?」
「い、いえ、対戦するまで相手分からなかったわけですから、リリス様が参加してることすら知りませんよ」
「……まあ、確かにね。ってことは金に目が眩んだってことか。―――でも、参加してたってことは、ズタボロに負けたってことよね。だったら医務室にいるのよね?」
「ズタボロかどうかは分かりませんけど……」
「どっちでもいいわ。気分転換に医務室行ってからかってやろ」
「はあ……。じゃ、じゃあ、あたしは一旦、運営の人たちの所に戻りますね。お金渡さないといけないですから」
リリスとリーフィアは別れて、互いの目的地に足を向けた。
―――それぞれで待ち受ける不遇を知る由もないまま……。
闘技場は名物実況と観客たちの大歓声に包まれていた。
その全てを一身に浴びて、会場の中央で涙を浮かべているのは―――一人の少女。
「……と言うわけで! 賞金100万ギル争奪戦! 記念すべき第一回って言うか、もう二度と開催御免のワンデートーナメントの覇者は、なんと一四歳の魔導少女! こんな世間も苦労も失恋も不倫も裁判沙汰も知らない女の子が100万ギルなんて大金手にするなんて、世の中一体どうなってんだゴルァ!」
結果に納得いかないのか、物見台から盛大に勝手な不満を吐き散らす実況の女。だがいつものことなのか、観客も熟れた失笑で生温く見守る。
そんな実況も優勝した少女の耳には届いていないらしく、主催者から賞金を受け取る手は嬉しさで震えていた。表情も涙目ながらも満面の笑顔だ。
若干一四歳の愛らしい少女が優勝したという異例の快挙に、会場は惜しみない賞讃と驚愕で埋め尽くされていた。
……一人を除いては。
「100万ギル……私もあいつに慰謝料として請求したいくらいよ……どっかの誰かに寝取られたせいで、私の初恋はもうドロドロよ。排水溝の汚物よりもドッロドロよ。思い出したくないくらいヘドロ塗れよ……。大体どこの誰よノエルって、毎晩毎晩寝言でうっさいのよ、私の耳元で別の女の名前囁いてんじゃないわよ! 気色悪いっての! 寝取ったヘドロ女、いつか見つけたら絶対に処刑してやるわ! 絞首刑よ絞首刑!」
表彰式は実況の女を無視して恙無く進み、そのまま無事に終了した。
観客たちが会場を後にするなか、女は物見台の手摺から上半身を垂らしたまま、いつまでも愚痴を空に零し続けていた。
そして―――。
(……やった……やった! これでお礼ができる!)
見事に優勝を果たした少女―――ロゼッタは、賞金100万ギルの詰まった袋を抱き締めながら闘技場の廊下を飛び跳ねていた。
その脚ですぐさま町に繰り出し、恩人の女性を捜したかったが、逸る気持ちを抑えて念のため医務室へ向かう。決勝で負った擦り傷の治療の為だ。闘技場参加のルールとして負傷者は程度を問わずに医務室へ行かなければならない。それは参加者の安全に配慮した規則であり、また闘技場が不慮の責任を負わない為の防波堤でもあった。
(これくらい大したことないんだけどな……自分でも治せるし……)
とは言え、規則は規則の為、従う他ない。
ロゼッタはさっさと済ませる為、足早に医務室へ向かった。
表彰式で堂々と愚痴を零す実況女と時を同じくして―――。
「……な、なんだってのよ、あの人間……痛っつつつ!」
闘技場の受付の端で不満気に愚痴を吐き捨てる女が一人。傍らには付き人と思しき女が寄り添い、負傷した彼女の治療に当たっている。
「だ、大丈夫ですか? リリス様」
回復魔術の象徴である淡い光が、女―――魔女リリスの腕の火傷を癒していく。
「別に怪我は大したことないけど……あんなとんでもない人間がエントリーしてるなんて完全に予想外だわ。あれなら手加減なんて必要ないじゃない」
「すみません、決勝以外の試合だと別に目立った子でもなかったので……特に前情報はお伝えしなかったんですけど……」
その強さが鳴りを潜めていた理由が、相手を気遣って手加減していたからだとは、傍らの女―――リーフィアも気づかなかった。彼女は主であるリリスの為に全試合を偵察していたが、特に彼女の敵になる参加者はいないと見ていたのだ。
結果、魔導少女の実力を見誤ってしまい、リリスがまさかの敗北を喫する羽目になってしまった。
「……はい、終わりました」
リリスは具合を確認するように、腕を回したり撫でたりしている。
「ふん……まあいいわ。当初の目的は果たしたわけだしね」
無理矢理自分を納得させるリリス。幾分か機嫌は直ったようだ。
それを見計らっていたかのように、リーフィアが恐る恐る切り出す。
「でも、ちょっと気になったことがあるんですけど……」
「気になったこと?」
「トーナメントにメルたちが参加してたような気がして……観客席からだと遠すぎてちゃんと確認できなかったんですけど」
「なに、あいつら私に喧嘩売る気だったわけ?」
「い、いえ、対戦するまで相手分からなかったわけですから、リリス様が参加してることすら知りませんよ」
「……まあ、確かにね。ってことは金に目が眩んだってことか。―――でも、参加してたってことは、ズタボロに負けたってことよね。だったら医務室にいるのよね?」
「ズタボロかどうかは分かりませんけど……」
「どっちでもいいわ。気分転換に医務室行ってからかってやろ」
「はあ……。じゃ、じゃあ、あたしは一旦、運営の人たちの所に戻りますね。お金渡さないといけないですから」
リリスとリーフィアは別れて、互いの目的地に足を向けた。
―――それぞれで待ち受ける不遇を知る由もないまま……。