気紛れたラスボスを振り回す気紛れた群像

◯補章 『アルティア戦暦』について

 1994年に発売されたSFC用ソフト。自由度の高いフリーシナリオ型のストーリーとパズルのように入り組んだ難度の高いサブイベントが評判を呼び、既存のRPGに飽き出したコアな層を一気に取りこんだシリーズ。▼当時、小中学生がメインターゲットだったSFCにおいて、RPGは一方通行型の単純な展開がメインだった。そのため同ソフトの開発元・トライ・スクウェア(以下、同社)の上層部は、企画段階から難色を示していた。と言うのも、自由度が高いとは換言すれば道がないということだ。▼基本となる「突如襲来した魔女から世界を救う」というストーリーの骨子は確かにある。だが、進めていれば自然とイベントが発生することも、仲間が勝手に増えていくこともない。どの時期にどこの町に行くとどんなイベントが発生するのか。どの時期を超えるとどのイベントは消滅してしまうのか。どのキャラクターは仲間にできなくなってしまうのか。全て自分で考えなければならない。本作では、そのような従来は不要だった思考が過度に必要とされたのだ。▼思考力を要するゲームは、それだけでプレイヤーを選ぶ。だからこそ同社上層部はゴーサインを渋っていたが、結果的には社内の予想を裏切るヒット作となり、ついにはRPGの看板シリーズの一つとして業界に名を刻むこととなる。(中略)ただ、このRPGが他のソフトとも一線を画した決定的な点は別にある。▼このゲームの最大の魅力は、既存のフリーシナリオ型RPGとも異なる趣向を用意していた点にある。それは、ラスボスの魔女リリスをはじめとするモンスターたち、そして、仲間に出来るプレイヤーキャラクターたちが、それぞれの動機や気紛れで気侭に行動する点だ。つまりプレイヤーだけではなく、登場人物が己の意志で言わば「勝手に」世界中を動き回るのだ。▼たとえば、最終ダンジョンの宮殿で待ち受けている筈のラスボスが「暇だ」という理由で外出して姿を消してしまったり、汗だくの鎧の使い回しを仲間が拒否して装備させられなかったりといった具合だ。そうした無駄にリアルな展開が熱狂的あるいは冷笑的に受け入れられ、やがて燻り続けていた人気が爆発することになったのだ。……(以下略)……

(出典:週刊ゲームフリーク通信 1996年12月号)
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