本編

福者・福女【ふくじゃ・ふくじょ】

 ある人物の死後、人々がその者の功徳を強く讃え、崇めた時、その者が聖性と徳性において相応しいと判断されれば、天上の神である《主》はその者を自らのもとへ迎え入れ、新たな命を授ける―――。
 いつの頃からか定かでないが、その噂は遥か昔、紀元前より実しやかに語り継がれ、欠片も色褪せることなく今へと至る。彼らはいつからか福者、福女と呼ばれ、苦境にあって奇跡を求める人々は、やがて彼らに《主》への祈願の執り成しを希うようになった。
 かつてはその存在を疑う者も多かった。だが、執り成しを経て顕現した奇跡は数多く、またその姿を目にしたと語る者も止まず、故に彼らの存在は真正とされた。
 今では平和や安寧の代行者として、人々は日々、彼らに祈りを捧げている―――。
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