kmt / 贈 物
君の声が好き
「なあ、」
ふと彼が私の名前を呼ぶ
その声で紡がれた名前を聞くのは
とても久しぶりだった
子供が生まれてからというもの
私は彼を「お父さん」と呼び
彼は私を「母ちゃん」と呼ぶ
そのせいか自分が呼ばれていると気づくまで
時間がかかってしまった
いつの間にか目の前に来ていた彼は
心配そうに私の顔を覗き込む
「具合、悪いのか?」
「あ…いや、えっと、
…名前呼ばれるの久しぶりだなって、」
「…そっ……かぁ、ごめんな名前呼んであげれなくてさ」
そういうと彼は私の腕をそっと掴み引き寄せると
腕の中へと閉じ込めるように抱きしめてきた
いきなりのことに驚き
どうしたらいいのかと慌てていると
頭上からはこの状況を楽しんでいるような
笑い声が降ってくる
「こういうことも久しぶりだったよな、」
背中にまわされた腕に力がこもる
更に近づいた距離に恥ずかしさを覚え
赤くなっているだろう顔を肩口へと押し付けた
肺を満たしたのは今もずっと大好きな彼の香り
途端に恥ずかしさが妙な安心感へと変わる
「もっと、呼んで」
「ん、お前が満足するまでいくらでも呼ぶよ」
彼の大きな手が私の頬を包む
ほんのりと伝わる温かさに目を閉じた