kmt / 贈 物
顔見せてよ
「嫌だって言ってるじゃないですか」
手で顔を覆い隠したままの私と
その手首を掴み離さない彼との間で行われる
何度目かも分からない押し問答
顔を見せろ、と言われて嫌だと即答する
意地でも顔を見せないのには理由があった
「すっぴんだから嫌なんです」
「あァ?化粧してねぇからなんだ
いつもそんな厚化粧してる訳じゃねえだろォ?」
だから見せろと続く言葉
この男、デリカシーがない
好きな人にすっぴんを見せるなんて
私の乙女心が許してくれないのだ
それに私は自分の顔があまり好きではなくて
すっぴんなんて見せられるわけが無い
このことは彼だってわかっているはずなのに
意地でも手を退かそうと必死になっている
「…嫌いに…なりますよ…?」
「お前が俺を嫌いになるだァ?
はッ、…やれるもんならやってみな」
自信たっぷりな言葉に何も返すことができず
諦めるように片手だけなら、と妥協案を提案した
それからそっと顔から手を離す
視界に写った彼の表情は
どこか呆れているように見えて
どうしてか嫌な予感がした
その嫌な予感は見事に的中する
未だ顔を隠していた片手すら剥がされ
両腕は彼の大きな手によって膝元に固定される
「そこまでして隠す必要ねぇだろォ、
肌だってこんなに綺麗じゃねぇか」
「私が嫌なんです、すっぴんの顔が」
「…俺が好きだって言ってんだ
それだけじゃ不満かァ?」
無骨な手が頬をするりと撫でる
まるで壊れ物を扱うような優しい触れ方だった
視線が交わると彼はうっそりと笑う
それを見た瞬間、思わず心臓が跳ね上がった
トクトクと心音が早まり顔に熱が集まる
赤くなっているだろう私の顔を見て
彼は楽しそうに喉を鳴らし笑う
「私で遊んでますよね…」
「遊んでるつもりはねぇが、まァそうだな…」
弧を描いた口元は私の耳へと寄せられ
彼はうっとりと熱っぽい声で囁いた
「お前の可愛い顔が見れんのは悪くねぇ」