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kmt / 贈 物


全部が好きだけどもっと見たい



「なあ、また化粧してんのかよ」

いつもより少しだけ遅く起きてきた彼は
鏡とにらめっこを続けている私を見て
挨拶もそこそこにそんなことを言ってきた
このやり取りの後は決まって
「メイクなんてしなくても可愛いのに」と言う

そう言ってもらえるのは嬉しいのだが
隣を歩くなら綺麗でいたい
それを直接彼に伝えたときは
満更でもないような顔をしてくれた
なんて思い出していると
彼は徐に私のメイクポーチを覗き込んだ

「それは俺がやる、貸して」

それ、と指さしたのはリップグロス
唇に乗せるだけだから彼にも簡単だろう
せっかくだから色も選んでもらうことにした
数種類のグロスを並べ
どの色がいいかと聞くと
彼は真剣に悩み始めて
私と化粧品を何度か見比べた
それからしばらくして納得したように
これだ、と一種類ずつのグロスを選んだ
それは数回しか使ったことのない
普段使いには難しい色のものだった

いまのメイクに合うかすら微妙で
やんわりとそれを伝えようと試みたが
彼は目をキラキラと輝かせていて
既にそのグロスを塗る気満々だった
今日ばかりは仕方ない
遠くに出かける訳でもないし、と
申し訳ないが半ば諦めたような気持ちになる

「ただ乗せるだけ、でいいんだよな?」

「うん、乗せたら私が馴染ませるから」

「わかった、じゃあ…口閉じて、」

ん、と返事をすると
彼の手は私の頬に添えられて
視界いっぱいに広がる真剣な顔
あまりにも幸せな眺めだったが
恥ずかしさからずっとは見ていられず
平静を装いながらそっと目を閉じた

唇を優しく撫でていたチップが離れ
そのあとにできた、と声がした
終わったはずなのに頬の手はそのままで
不思議に思ったが
すぐには目を開けられなかった
またあの整った顔が視界に広がるなんて
想像しただけで口から心臓が出てしまいそうだ

「玄弥くん、終わったなら手を……ん、ッ…?!」

「あ……わ、悪い…!
 ずっと目閉じてるし、唇はつやつやだし…
 …その……我慢、できなかった…」

発した言葉は突然のキスで遮られ
驚いた拍子に顔を赤く染めた彼と目が合った

「俺のために綺麗になんのは嬉しいけど
 それつけてるとキス、しづらいからなんか嫌だ…」

そういうと拗ねたように
少しだけを頬を膨らませる
尖らせた口元はグロスが移り艶めいて
キスをした事実を嫌という程表していた


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