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kmt / 贈 物


ステージは貴方の手のひら


アクセサリーケースに残る小ぶりなピアス
売っていた時点では2つで1ペアのはずだったのに
購入した途端にバラ売り状態になっていた
そしてこの片方だけは
未だに1度もつけられていないのだ
心做しか寂しげに見えるそれを見つめたあと
顔を上げて鏡を見れば
片耳には同じピアスがつけられている
本当は両耳につけるつもりだった
だからこれを買ったのに
片耳に穴を開けてから
もう片方にもいつか開けようと思いながら
先延ばしにしていたら1年半も経っていた
今も開けようとは思っているものの
生憎ピアッサーが手元にない
これはもうしばらく先になりそうだ
乾いた笑いが空気と混ざりあって1人虚しさを感じた時
頭上から低く落ち着いた声が降ってきた

「それ、使ってねぇんだろォ?
 なら俺が貰っても問題はないよなァ」

後ろから腕が伸びてきて、視界からピアスが消えた
すぐにそれは彼の指先へ移動して
手の大きさも相まってか
小ぶりだったものが更に小さく見える
くるくると回されるそれをただぼうっと見つめていると
彼はおもむろに左耳につけてあるピアスを取って
私から半ば強引に受け取った
女性物の小さなピアスをつけた
それから一度どこかへと向かったあと
私に手を出すように言ってくる

「お前はこれでも付けとけ」

「…これって…さっきまで付けてたやつですか…?」

「男物だからなァ…少し浮くかも知れねぇが、」

出した手のひらに置かれたのは
先程まで彼がつけていたピアス、の片方だった
私のピアス同様、使えていなかったものらしい
たしかに私が持っているものと
比べると群を抜いて男物だ
でも、好きな人からのプレゼントを身につけないという
選択肢は彼にぞっこんな私には存在しない
彼と同じように今つけているものを
取って新しく付けてみた

「どうでしょう…?」

「ん、案外悪くねぇなァ
 それ付けときゃいい男避けになるだろ」

「私、実弥さん以外見てないんですよ知ってました?」

わざとらしく挑発するようなことを言えば
彼は満足気な顔をしたあと耳元に口を寄せると
脳が甘く痺れるような優しい声で独占欲をみせた

「たまに不安になるんだよ、
 俺には勿体ないくらいイイ女だからなァ、お前は…」

珍しく私が上手に出られたと思ったのに
気がつけば彼の手で踊らされている
でもそれが私と彼らしいからいいか、と諦めた後
そっと首元に腕を回して彼の唇へとキスをした


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