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kmt / 短 編


君のやる気スイッチ探したい!



珍しく実弥さんがお家に仕事を持ち帰ってきた。
パソコンを片手に自室へと向かって行ったときの
表情には明らかに疲れが滲み出ていて
部屋にこもり数時間が経ったいま
そこからはウンウンと唸り声が聞こえている。
それだけで彼が頭を抱え悩んでいる姿が目に浮かんだ。
ずっと姿を見ていないのも寂しいし
少し休んだほうがいいのではないかと
心配になり扉を数度ノックして声を掛けた。

「コーヒーを淹れたので少し休憩にしませんか」

そういってリビングに連れだすことに成功。
帰ってきた時よりも老けたように見える彼の腕を引く。
そのままソファへと座らせて
ローテーブルに二人分のマグカップを置いたら
すっかりリラックスモードの実弥さんの隣へと
勢いよく飛び込むように座る。
身体をぶつけるようにしても
ビクともしない彼の顔を覗き込んで
数時間ぶりに交わった視線に満足げに微笑み返した。

「実弥さんのやる気スイッチ、探してあげましょうか?」

「あァ?やる気スイッチだァ…?」

冗談まじりに言ったというのに彼は
眉間にシワを寄せ怪訝な顔をした。
それでもやめろだとか拒否するような
素振りを見せないのは
受け入れてくれているという確かな証拠だった。
じっとしてくださいね、なんて笑いながら声を掛け
足元に手を添わせ探るような動きをしながら
ふくらはぎや、すね付近の筋肉をゆっくりと解していく。
もちろん太ももも忘れずにぐいぐいと揉み解した。
それから肩を、腕を両手で包み込むように揉んで
手のひらのツボも痛気持ちいい程度に刺激する。

「んー、見つからないですねえ…」

口から出た言葉は自分でも驚くほど楽しそうだった。
されるがままの彼は呆れたような表情をしていたが
今の私が楽しいからそんなことはどうでも良かった。
当たり前のように彼の膝元を跨ぐようにして座り
顔を寄せて鼻先にちょんと触れる。
その瞬間むっとした顔が子供っぽくて
可愛いと思ったのは私だけの秘密にしておこう。

「あ、わかりました!ここですね!」

にんまりとした笑みを浮かべた私が黒曜石のような瞳に映る。
肌触りの良い彼の頬を両手でやんわり包み込んで
ほんの少しだけカサついた唇に自らのそれを合わせた。
何度も重ねるだけを繰り返し、時々食むようにキスをする。
最後には吸い付くようなリップ音を鳴らして唇を離した。

「どうですか?やる気スイッチ入りました?」

両手で頬を挟んだまま見つめれば
驚きで丸くなっていた瞳と目が合った。
しかしそれは徐々に細められていくと
今度は代わりと言わんばかりに
彼の大きな手が私の頬を優しく包んだ。

「あァ、おかげですっかり入っちまったみてェだなァ」

口元はゆっくりと弧を描き
同時に私の背には冷や汗が伝う。
脳内では危険を知らせるアラームが鳴り響き
その指令に従い逃げようとしたが既に遅かった。
腰をがっちりと掴まれたかと思えば視界は逆転。
体がぐらりと揺れ、
押し倒されてしまえば主導権は彼のもの。

「スイッチ入れてくれたんだ
 最後までしっかり付き合ってくれるよなァ…」



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