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第二章 紅花栄 —べにばなさかう—

 本を一通り読み終え、礼を言って店を出る。
「良ければ、また読みに来るといい。」
 今までの機械的なものとは違う、心のこもった言葉。
 元気良く「ありがとうございます」と返し、駅に向かう。
 橙色の空に鳴くカラスの声を聞きながら、あんなに素敵な人と会話してしまった事に頬が緩んだ。
 しかも、また読みに来いなんて。
 そこでハッとする。
 いけないいけない、自分の大本命はHIKARIさんだけなのに!
 現実のかっこいい男性には大抵裏がある。
 それを言ったら、バンドマンのHIKARIさんはもっとかもしれないが、プロ意識の賜物かその辺を一切出してこない。
 だからHIKARIさんが好きなのだ。
 三池書店の人は、あくまで専門が近いから優しくしてくれただけ。
 可愛くもなければ、体型も太いこんな私が、ときめいていい相手じゃない。
 それに、かっこいい男性は、基本的に全員彼女や奥さんがいるのだ。
 あの人だって、三十過ぎに見えたし、家に帰れば奥さんや子供がいるに違いない。
 改札を抜けながら、ウンウン、と一人納得して頷く。周囲から見れば不審だが、思考に没頭した審神者はそんなことおかまいなしだ。
 電車に揺られながら、もしかして、特別な相手がいながら、女性客に手当たり次第手を出す、危ない店主なんじゃないか、との懸念も浮かんでくる。
 いや、まさか。
 慌てて審神者は、自身の考えを自意識過剰と否定した。
 そもそも、自分みたいな女性としての魅力がゼロの女に、好き好んで手を出すような男性がこの世に存在するとは思えない。
 実際、中学で好きだった人に勇気を出して告白した時は「お前みたいなブス、誰が相手にするかよw」とフラれ、高校で好きになった人には告白するチャンスすら与えられないまま「アイツ、お前みたいなデブに好かれて迷惑だってさw」と友達越しに告げられた。今思えば、どっちも大してカッコ良くなかったのに。
 まして、あんなにかっこいい人なら言わんをやだ。どれだけ仲良くなっても手を出される心配は絶対ないだろう。
 でも、こんな自他共に認める「デブス」が、あんなにかっこいい人と関わって、本当にいいんだろうか?
 審神者は、うーん、と眉間に皺を寄せた。
 だけど、あの人、妖怪に関する私の持論を面白そうに聞いてくれたもんね。
 実際、大学では同じ漫画が好きだったり、同じドラマを観てる男子は普通に仲良くしてくれる。
 そこから学んだのは、恋愛感情さえ抱かなければ、大抵の男性は優しいということ。
 ここはお言葉に甘えて、来週もまた行ってみよう。講義が早く終わる木曜日に。
 自宅アパートの最寄り駅の改札を抜ける。
 紫に染まりつつある空には、一番星が浮かんでいた。
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