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第二章 紅花栄 —べにばなさかう—

 女の背が、完全に駅の方へと消えるのを待ち、シャッターを下ろす。
 今日は、いつもより少し早めの店仕舞いだ。
 店の前「準備中」の札を出し、自室に上る。
 着物を脱いで身に纏うのは、細身のデニムとVネックのリブシャツ。サングラスとマスクで顔を隠し、背中に弦楽器用のケースを背負う。
 裏口から店を出て、向かった先は音楽スタジオ。
「おっ、兄弟! 今日は早いんだな!」
 中には既に兄弟——ソハヤがいて、ドラムスティックの準備をしていた。
 高校時代サッカーで鍛えた脚から繰り出されるツーバスは、彼の名の通り、誰も追い付けない速さを誇る。
 調子良さそうにドコドコドコドコと安定したリズムを刻むソハヤに
「今日もいい感じだな、『SONIC』」
 マスクとサングラスを外し、口の端を上げれば
「『HIKARIさん』も早く指慣らし始めちまえよ」
 兄弟は、ニッと歯を見せた。
 大典太がベースを爪弾きだした頃
「お待たせしました。」
「今日は遅刻せず来てやったぜ。感謝しろよ。」
 他のバンドメンバーもスタジオに到着する。
「おっ、『LICKA様』と『HIRO』のお出ましか!」
 ツーバスの脚を止め、入口が閉まるのを待つソハヤ。
「……これは、そういう流れなのでしょうか?」
「おれはHIROの方が呼ばれ慣れてるけどな。」
 困惑するLICKA——左門江雪と、ドヤ顔で返すHIRO——肥前忠広。
「重金属凶奏隊 鋼音—HAGANE—」の集合である。
 江雪は、ギターを取り出すと、仏具でも扱うような澱みない所作でアンプに繋ぐ。二つ三つ、弦を爪弾き、刹那、指慣らしとは思えない華麗なフレーズを奏でる。
 指慣らしが一通り終わった所でソハヤが
「そろそ『銀怪』演ろうぜ。」
 新曲の名を告げてきた。
 メンバーは各々手を止め、パイプ椅子に座り待機していた肥前も腰を上げる。
 ソハヤがスティックを叩いて四つカウントし、次の瞬間、ズン! と重い音が部屋を揺らした。
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