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第二章 紅花栄 —べにばなさかう—

 春は終わり初夏。
 妖怪関連の書籍を熱心に眺めていた、ヘンテコな女の存在も、既に記憶の片隅に追いやられようとしていた。
 そんな木曜の午後三時、不安げに店を訪ねてきたのはあの女。
 恐る恐る、といった調子で以前熱心に張り付いていた棚に近づき、心底安心したように破顔する。
 ついでに他も物色し、最終的に二冊、大切そうに胸元に抱え、店台に運んできた。その表情はどこか勇ましい。
 タイトルを確認すれば、いずれも妖怪について考察された名著だ。そういえばこの女、最初に買って行ったのも妖怪関連の著作だった気がする。
「一万五千八百円になります。」
 釣りの二百円と共に包んだ本を渡す。
 ふと見れば、女の口元は今にも緩んでしまいそうなのをグッと堪えるように、ふるふると震えていた。
「妖怪、好きなのか」
 その様子があまりに嬉しそうなものだから、普段なら絶対かけない言葉が口をつく。実は自分も、大学院でその辺を専門にしていたので、親近感が沸いたのだ。
 置物のような店主に、突然話しかけられ驚いたのだろう。女は一瞬目を見開き固まって
「あっ、えっと……はい! 好きです!」
 ぎこちない声で、けれど勢いよく答えた。
 そうだよな、あの顔を見てれば分かる。
「ありがとうございました。」
 自分でもびっくりするぐらい穏やかな声で告げ、女の背を見送った。その足取りは、羽根が生えたように軽い。
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