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第一章 霜止出苗 —しもやんでなえいづる—

 あれから丁度一週間後、木曜日の午後三時。
 店の裏庭で煙草を吸っていた大典太は、来客を知らせるチャイムの音色に、慌てて火を消し店台に戻った。
「いらっしゃいませ。」
 いつも通り、無愛想に声をかける。
 来店したのは、ポワポワした学生風の女。ゆるく巻いた栗毛のボブに、肉付きの良い体型、パステルカラーでまとめられたファッションと、白い合皮のリュック。
 あの時の映え女か!
 意外だった。ああいった手合いは、一回来て、場合によっては申し訳程度に店で一番安い本を買い、二度と来ないのが定石だから。
 いや、一回だけ、虫の死骸が挟まっていた。気持ち悪いから返金してくれと再来した女はいたが、それくらいだ。
 まさか、あれと同じ類か? 疑って目をすがめるが、女は熱心な様子で書架を眺め、丁寧に取り出した本をパラパラと捲っては戻している。
 一冊の本を捲った時に、女の表情に電球が灯った。口角を上げ、目を見開きながら本文を流し読む。そして最後に値段を見て
 うわぁ……
 そんな心の声が、ありありと聞こえた気がした。
 他の所をウロウロして、いくつか本を手に取るが、また戻って先ほどの本を流し読み、値段に頭を抱え棚に戻す。
 何度かそれを繰り返した後、深い溜息をついて女は帰っていった。
 いくらぐらいか気になって、確認すれば一万円強。学生にはキツい出費か。
 とはいえ、こちらも商売なので、おめおめと値下げする訳にはいかない。ただでさえ来客は少なく、経営は苦しいのだ。
 この本は、これだけの額を出してでも購入したい人間の手にしか渡さない。それが、あの女でなければそこまでの話。売り物とはそういうものだ。
 薄く笑って、本を書架の同じ場所に戻す。
 最初より、心もち奥まで背表紙を押し込んで。
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