Corpse Reviver
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「孝直。私達離婚しよっか」
まだ新婚と言える範囲内のうちに宣告すると、椅子に座りかけた法正が転がったので笑いそうになった。しかしここで笑おうものなら命が危ういことは分かっている、口に力を込めて笑みを噛み殺した。しかしどちらにせよ無駄だったようで、殺気を出して法正が名前を睨んでいる。
「何をふざけたことを抜かしている」
「いやいや。これ本気」
「今更逃げようとしても無駄だ」
「そうじゃなくってさ。逃げるべきは貴方なの」
今しがた口元を押さえた布を差し出して見せる。
「多分私、もう駄目なのよ」
この二、三ヶ月、耐え難い痛みが胸から腹にかけて生じるようになっていた。そしてとうとう数日前から血を吐くようになった。病の元はわからない。正確な病名を診断することは難しいだろう。ただ食事を取ることもままならず痩せていく体のことを思うと、先が長くないことは目に見えていた。
「感染る病気だったら困るでしょ。子供もまだいなくて丁度良いし。新しい妻を娶ればいいわ、今の地位なら断る女なんていないでしょう」
目を見て告げると、法正が頭を抱えた。こんなに困らせたのはこれが初めてかもしれないなと思った。名前達はこれでも愛によって結ばれた、三国時代には稀有な夫婦のうちの一組だ。流石の法正とあっても女を身一つで放り出すのは抵抗があっただろう。名前はそのまま畳み掛ける。
「田舎でね、養生するのもいいかなって。今みたいに城であれこれと心を砕くから病になるんだわ。一人で暮らしていけるお金は十分にあるし、最期くらいのんびりしようと思ってるの。ね、私に自由な時間を頂戴」
祈るような心地で見守った。言い訳を重ねているが、本当は名前も法正のそばを離れたくはなかった。離婚など、増して他の女との再婚を許すなど叫び出しそうなほどに嫌だった。だけどそうも言わなければ、この男は自分を手放さないだろうという恐れがあった。もし感染症だったら、不治の病だったら。愛しい夫と共倒れすることだけは避けたかったのだ。名前も自分の演技力に感心した、涙も枯れて声も震えなかったのだから。
「戯言は終いか」
両手で顔を隠したまま法正が言う。
「ねえ、貴方のためでもあるのよ。確かに離縁したら評判は落ちるかもしれないけど、」
「黙れ」
珍しく荒れた口調。芯から怒っているようだ。手がずれて片目が此方を見据えると、捕食者の鋭い意志がそこには宿っていた。
「城仕えを辞せ。専用の医師をつける。居所を都から外に移す。それでいいな」
「別居するってこと?」
「誰がそう言った」
「それじゃ意味無いのよ、もし貴方に感染ったら」
「感染ったら何だと言うんだ」
立ち上がって名前の方に歩いてくる。ゆらりと生気を失い、顔には色が無い。
「元よりお前に救われた命だが、どう使いどう死ぬかは俺が決める」
名前の腰に手を回して、膝の上に顔を乗せた。頭を撫でて気付いた。まさか。この男が震えているとは。
「死して離れられると思うな。地獄まで追い掛けて後悔させてやる」
その背に手を回し、覆いかぶさるように名前も法正に抱き着いた。涙が溢れ、緑の外套に染み込んだ。
「私が逝くのは天国よ、きっと貴方には入れないわ」
「悪党の妻が天に登れるか。何処までも道連れだ」
「あんたも大概身勝手よね」
その日最も涙から遠いであろうと思われていた夫婦が悲しみに暮れたことを、二人以外誰も知らない。
二ヶ月後、そこにはけろりとする名前の姿があった。
「いや〜まさかただの胃潰瘍だったとはね。むっちゃ痛かったわ」
「貴様は一度死なねば分からんようだな」
「ごめんって!グーは無しだよ!反則だよ!!」
Corpse Reviver・・・死んでも貴方と</div>
まだ新婚と言える範囲内のうちに宣告すると、椅子に座りかけた法正が転がったので笑いそうになった。しかしここで笑おうものなら命が危ういことは分かっている、口に力を込めて笑みを噛み殺した。しかしどちらにせよ無駄だったようで、殺気を出して法正が名前を睨んでいる。
「何をふざけたことを抜かしている」
「いやいや。これ本気」
「今更逃げようとしても無駄だ」
「そうじゃなくってさ。逃げるべきは貴方なの」
今しがた口元を押さえた布を差し出して見せる。
「多分私、もう駄目なのよ」
この二、三ヶ月、耐え難い痛みが胸から腹にかけて生じるようになっていた。そしてとうとう数日前から血を吐くようになった。病の元はわからない。正確な病名を診断することは難しいだろう。ただ食事を取ることもままならず痩せていく体のことを思うと、先が長くないことは目に見えていた。
「感染る病気だったら困るでしょ。子供もまだいなくて丁度良いし。新しい妻を娶ればいいわ、今の地位なら断る女なんていないでしょう」
目を見て告げると、法正が頭を抱えた。こんなに困らせたのはこれが初めてかもしれないなと思った。名前達はこれでも愛によって結ばれた、三国時代には稀有な夫婦のうちの一組だ。流石の法正とあっても女を身一つで放り出すのは抵抗があっただろう。名前はそのまま畳み掛ける。
「田舎でね、養生するのもいいかなって。今みたいに城であれこれと心を砕くから病になるんだわ。一人で暮らしていけるお金は十分にあるし、最期くらいのんびりしようと思ってるの。ね、私に自由な時間を頂戴」
祈るような心地で見守った。言い訳を重ねているが、本当は名前も法正のそばを離れたくはなかった。離婚など、増して他の女との再婚を許すなど叫び出しそうなほどに嫌だった。だけどそうも言わなければ、この男は自分を手放さないだろうという恐れがあった。もし感染症だったら、不治の病だったら。愛しい夫と共倒れすることだけは避けたかったのだ。名前も自分の演技力に感心した、涙も枯れて声も震えなかったのだから。
「戯言は終いか」
両手で顔を隠したまま法正が言う。
「ねえ、貴方のためでもあるのよ。確かに離縁したら評判は落ちるかもしれないけど、」
「黙れ」
珍しく荒れた口調。芯から怒っているようだ。手がずれて片目が此方を見据えると、捕食者の鋭い意志がそこには宿っていた。
「城仕えを辞せ。専用の医師をつける。居所を都から外に移す。それでいいな」
「別居するってこと?」
「誰がそう言った」
「それじゃ意味無いのよ、もし貴方に感染ったら」
「感染ったら何だと言うんだ」
立ち上がって名前の方に歩いてくる。ゆらりと生気を失い、顔には色が無い。
「元よりお前に救われた命だが、どう使いどう死ぬかは俺が決める」
名前の腰に手を回して、膝の上に顔を乗せた。頭を撫でて気付いた。まさか。この男が震えているとは。
「死して離れられると思うな。地獄まで追い掛けて後悔させてやる」
その背に手を回し、覆いかぶさるように名前も法正に抱き着いた。涙が溢れ、緑の外套に染み込んだ。
「私が逝くのは天国よ、きっと貴方には入れないわ」
「悪党の妻が天に登れるか。何処までも道連れだ」
「あんたも大概身勝手よね」
その日最も涙から遠いであろうと思われていた夫婦が悲しみに暮れたことを、二人以外誰も知らない。
二ヶ月後、そこにはけろりとする名前の姿があった。
「いや〜まさかただの胃潰瘍だったとはね。むっちゃ痛かったわ」
「貴様は一度死なねば分からんようだな」
「ごめんって!グーは無しだよ!反則だよ!!」
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