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※三国狐狸奇譚 続き
籠には息子。健やかに寝ているが、いつ目を覚ますか分からない。鍋の中に野菜を足して、少しだけ塩を加える。味見に匙を口に運ぼうとすると、横から手がそれを奪っていった。
「うん、丁度いい味だね」
神出鬼没の夫にももう驚かない。郭嘉はこうして料理中の名前に張り付いて、ちょっかいを掛けてくることがままあった。味や調理に口を出しては、名前が腹を立てる寸前にすっと身を引き去っていく。その絶妙な加減たるや、人の機微を窺うのが神懸かっている夫だからこそ出来ることなのだと感心してさえいた。
息子が欠伸をして伸び、瞬きをした。嗚呼、起きてしまうのか。がっかりした瞬間に夫がその腕に子を抱いた。白い肌、亜麻色の髪、我が子ながら整った顔つき。息子はひと目で親子と分かるほど、夫と瓜二つだった。自分の腹から産まれたというのに、信じ難いほどの美形だ。神が与えたもうた芸術が二つ並ぶので、その場に膝をついて命に感謝を述べたくなるのが日々の常だった。
不安げだった息子が父の温かみを感じ、頬を綻ばせる。
「泣かない、泣かない。母上を困らせてはいけないよ」
推しと結婚し、また新たに推しが産まれた。推しの再生産、名前はそう思っていた。付き合いが長くなるにつれてその顔面に慣れてきてはいるが、彼を崇める心が失われる日は来ないだろうと思っていた。
「また見惚れているのかい」
男が微笑みかける。結婚して既に誘惑する必要性は無くなったはずなのだが、夫はこうして名前を揶揄うことが未だにあった。
「鷹が鷹を産んだ」
「この子を産んだのは貴方だよ」
「これは概念の話です」
「いつまでも不可思議な捉え方をするね」
耳に男の吐息が掛かった。
「そういうところが面白いのだけれど」
腰砕けになりながらも、煮物をかき混ぜる手は止めない。夫の茶々入れに一々顔を赤くして固まっていた時期はとうの昔に過ぎ去った。その反応を見届けながら郭嘉が苦笑する。
「初めのうちはあんなに慌てていたというのに、今はその落ち着きよう。流石、私の初恋の相手さ」
「初恋?誰が?」
「貴方だよ」
「まっさかあ」
「本当さ」
後ろから両腕が名前の体に回る。病が治ってから、少しずつ逞しくなってきた愛しい腕が。
「貴方は恋というものを私に教えてくれた、初めての女性だよ。存分に独り占めするといい」
名前は嫉妬などしない。郭嘉がかつての女達に言い寄られていても、仕方無いという心持ちで流していた。仕事で忙しいときは尚更だ。構って欲しいなどと文句が出てくるはずも無い。夫として郭嘉に求めることは多くなかった。しかしそれは郭嘉としても物足りない何かを感じていたのかもしれない。
自分の手を重ねると、その手が動いて鍋の火を止めた。お玉が奪われ、横に置かれる。何かがおかしい。怪しい雰囲気だ。やがて腕が体を這ったところで、名前は郭嘉の目的を察した。
「あの、奉考様?私料理中で」
「今終わったよ。味付けも完璧さ」
「息子も起きているし」
「乳母に預けてきた」
いつの間に。そういえば周囲から人の気配がしない。
「名前、この家もまだまだ寂しいだろう」
「いやそんなことな」
「そろそろ二人目が欲しいな」
いや、あの、その。言い訳が頭に浮かんでは消えていく。
「いいだろう?愛しき妻よ」
あーあ、やっぱりこうなるんだ。色香に勝てるはずも無く、名前の中で白旗が上がった。
XYZ・・・永遠にあなたのもの
籠には息子。健やかに寝ているが、いつ目を覚ますか分からない。鍋の中に野菜を足して、少しだけ塩を加える。味見に匙を口に運ぼうとすると、横から手がそれを奪っていった。
「うん、丁度いい味だね」
神出鬼没の夫にももう驚かない。郭嘉はこうして料理中の名前に張り付いて、ちょっかいを掛けてくることがままあった。味や調理に口を出しては、名前が腹を立てる寸前にすっと身を引き去っていく。その絶妙な加減たるや、人の機微を窺うのが神懸かっている夫だからこそ出来ることなのだと感心してさえいた。
息子が欠伸をして伸び、瞬きをした。嗚呼、起きてしまうのか。がっかりした瞬間に夫がその腕に子を抱いた。白い肌、亜麻色の髪、我が子ながら整った顔つき。息子はひと目で親子と分かるほど、夫と瓜二つだった。自分の腹から産まれたというのに、信じ難いほどの美形だ。神が与えたもうた芸術が二つ並ぶので、その場に膝をついて命に感謝を述べたくなるのが日々の常だった。
不安げだった息子が父の温かみを感じ、頬を綻ばせる。
「泣かない、泣かない。母上を困らせてはいけないよ」
推しと結婚し、また新たに推しが産まれた。推しの再生産、名前はそう思っていた。付き合いが長くなるにつれてその顔面に慣れてきてはいるが、彼を崇める心が失われる日は来ないだろうと思っていた。
「また見惚れているのかい」
男が微笑みかける。結婚して既に誘惑する必要性は無くなったはずなのだが、夫はこうして名前を揶揄うことが未だにあった。
「鷹が鷹を産んだ」
「この子を産んだのは貴方だよ」
「これは概念の話です」
「いつまでも不可思議な捉え方をするね」
耳に男の吐息が掛かった。
「そういうところが面白いのだけれど」
腰砕けになりながらも、煮物をかき混ぜる手は止めない。夫の茶々入れに一々顔を赤くして固まっていた時期はとうの昔に過ぎ去った。その反応を見届けながら郭嘉が苦笑する。
「初めのうちはあんなに慌てていたというのに、今はその落ち着きよう。流石、私の初恋の相手さ」
「初恋?誰が?」
「貴方だよ」
「まっさかあ」
「本当さ」
後ろから両腕が名前の体に回る。病が治ってから、少しずつ逞しくなってきた愛しい腕が。
「貴方は恋というものを私に教えてくれた、初めての女性だよ。存分に独り占めするといい」
名前は嫉妬などしない。郭嘉がかつての女達に言い寄られていても、仕方無いという心持ちで流していた。仕事で忙しいときは尚更だ。構って欲しいなどと文句が出てくるはずも無い。夫として郭嘉に求めることは多くなかった。しかしそれは郭嘉としても物足りない何かを感じていたのかもしれない。
自分の手を重ねると、その手が動いて鍋の火を止めた。お玉が奪われ、横に置かれる。何かがおかしい。怪しい雰囲気だ。やがて腕が体を這ったところで、名前は郭嘉の目的を察した。
「あの、奉考様?私料理中で」
「今終わったよ。味付けも完璧さ」
「息子も起きているし」
「乳母に預けてきた」
いつの間に。そういえば周囲から人の気配がしない。
「名前、この家もまだまだ寂しいだろう」
「いやそんなことな」
「そろそろ二人目が欲しいな」
いや、あの、その。言い訳が頭に浮かんでは消えていく。
「いいだろう?愛しき妻よ」
あーあ、やっぱりこうなるんだ。色香に勝てるはずも無く、名前の中で白旗が上がった。
XYZ・・・永遠にあなたのもの
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