Campari & Soda
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終わった。
折角憧れの三国時代にトリップしたと言うのに私が降り立ったのは董卓が支配する洛陽、更には城のど真ん中だった。酒池肉林を愉しむ城主の目の前にちんちくりんな女が落ちてきたとあって怒り心頭、私の死罪は決まったも同然だった。しかし腕を捕らえたのは飄々としたターバンの策士、地獄に仏。私は必死に命乞いをした。
「あの、賈詡さんですよね」
「誰だか知らんが口を閉じな。死にたくなければな」
「董卓殿にご不満をお持ちですよね。そろそろ暗殺されますよ」
殺気を以て凄まれたがここで踏ん張らねばそれこそ命の危機。私に残されたチャンスはこの男に懸かっていた。
「未来から来ました。貴方が求める情報、何でもお話します。だから助けて下さい」
何と言い訳をしたのかは知らないがあれだけ怒り狂っていた董卓が鎮火され、私は賈詡付きの文官になることができた。字は読めないが秘書業は嫌いではなかったので、それなりに楽しくやっていた。この先どうなっていくのか、直ぐには思い出せないことにして全ては話さなかった。情報を引き出すだけ引き出されてお払い箱にされる恐れがあったからだ。
董卓が倒れ、王允が討たれ、時代の変遷と共に賈詡はころころと主を変えた。その度に私は彼に着いて行った。付き従っていれば長生きできると知ってのことで安心しきりだった。
李傕の元で不信感を抱く賈詡の愚痴を聞いたとき、意外と私に心を許しているのだなと驚いた。働けど働けど不忠を疑われる男は哀れだが、胡散臭い振る舞いを改める気は無いようだった。
「大丈夫ですよ、もう直ぐ貴方を理解してくれる主に出会えますから」
果たして曹操に仕えることになった時もそばにいて、臣として見出された私は本領を発揮し始めた。地味な時代の歴史などゲームで学べるはずもない。三国の礎が明らかになって騒乱の世になってこそ知識は活きる。水を得た魚のように泳ぎ出す私を前に、賈詡は不思議な生き物を見る目をしていた。
「名前」
「はい」
「この書簡を荀彧殿のところへ」
「前の評議で話していた件ですね」
「ああ」
「他には?」
「荀攸殿にはこれを」
「分かりました。あの」
「なんだ」
「仕込みはご自分で渡すものだけになさって下さい」
荷の中から飛蝗に似せた玩具を取り出して突き返す。つまらない女だと言わんばかりの顔で肩を竦めた。
賈詡と私はつかず離れずの関係を維持していた。彼は訝しむ目線を私から離さなかったし、かといって私も気にし過ぎることはなかった。彼が人を芯から信用しないのは生来の気質であろうと予想されたし、私も上官以上の信頼を寄せたりはしない。程よい距離が適切な人間関係を生む、賈詡と一緒にするとそう考えさせられた。まあ、生きていられれば何でもいい。私が執着するのはその点だけだった。
折角憧れの三国時代にトリップしたと言うのに私が降り立ったのは董卓が支配する洛陽、更には城のど真ん中だった。酒池肉林を愉しむ城主の目の前にちんちくりんな女が落ちてきたとあって怒り心頭、私の死罪は決まったも同然だった。しかし腕を捕らえたのは飄々としたターバンの策士、地獄に仏。私は必死に命乞いをした。
「あの、賈詡さんですよね」
「誰だか知らんが口を閉じな。死にたくなければな」
「董卓殿にご不満をお持ちですよね。そろそろ暗殺されますよ」
殺気を以て凄まれたがここで踏ん張らねばそれこそ命の危機。私に残されたチャンスはこの男に懸かっていた。
「未来から来ました。貴方が求める情報、何でもお話します。だから助けて下さい」
何と言い訳をしたのかは知らないがあれだけ怒り狂っていた董卓が鎮火され、私は賈詡付きの文官になることができた。字は読めないが秘書業は嫌いではなかったので、それなりに楽しくやっていた。この先どうなっていくのか、直ぐには思い出せないことにして全ては話さなかった。情報を引き出すだけ引き出されてお払い箱にされる恐れがあったからだ。
董卓が倒れ、王允が討たれ、時代の変遷と共に賈詡はころころと主を変えた。その度に私は彼に着いて行った。付き従っていれば長生きできると知ってのことで安心しきりだった。
李傕の元で不信感を抱く賈詡の愚痴を聞いたとき、意外と私に心を許しているのだなと驚いた。働けど働けど不忠を疑われる男は哀れだが、胡散臭い振る舞いを改める気は無いようだった。
「大丈夫ですよ、もう直ぐ貴方を理解してくれる主に出会えますから」
果たして曹操に仕えることになった時もそばにいて、臣として見出された私は本領を発揮し始めた。地味な時代の歴史などゲームで学べるはずもない。三国の礎が明らかになって騒乱の世になってこそ知識は活きる。水を得た魚のように泳ぎ出す私を前に、賈詡は不思議な生き物を見る目をしていた。
「名前」
「はい」
「この書簡を荀彧殿のところへ」
「前の評議で話していた件ですね」
「ああ」
「他には?」
「荀攸殿にはこれを」
「分かりました。あの」
「なんだ」
「仕込みはご自分で渡すものだけになさって下さい」
荷の中から飛蝗に似せた玩具を取り出して突き返す。つまらない女だと言わんばかりの顔で肩を竦めた。
賈詡と私はつかず離れずの関係を維持していた。彼は訝しむ目線を私から離さなかったし、かといって私も気にし過ぎることはなかった。彼が人を芯から信用しないのは生来の気質であろうと予想されたし、私も上官以上の信頼を寄せたりはしない。程よい距離が適切な人間関係を生む、賈詡と一緒にするとそう考えさせられた。まあ、生きていられれば何でもいい。私が執着するのはその点だけだった。
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