Kiss Me Quick
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「一体どういうおつもりなのですか」
出会い頭から眉根を寄せて問い詰められて鼻白んだ。無視して横を通り過ぎようとすると腕を捕まれる。いつに無い必死な面持ちに、この男もこんな顔をするのだと意外だった。
「離して」
「質問に答えて下さい」
「何のことだか分からない」
「心当たりがお有りでしょう」
確かに、ある。思い出して薄ら笑うと、掴まれた腕が強くなった。しかし痛くはない、この絶妙な心遣いこそがこの男に余計な部分なのだと名前は常々思っていた。
「誰かに見られたら誤解されるわ」
「何が誤解だと言うのでしょう。私達の間には既に問題があったというのに」
「"ありそう"になって、貴方が断った。だから私達の間には"まだ"何も無いのよ」
荀彧を誘ったのは幾晩前だったか、はっきりと覚えていない。いつものように肴を用意して、酒を嗜み語り合った。そして寝台へと縺れ込む段になったとき、彼は自分の部屋へ素直に帰ろうとした。引き止め、名前の中の女が久々に顔を出した。流し目を送り、しなだれ掛かって、夜を孤独に過ごす寂しさを謳った。はじめ男は顔を赤らめ恥じらっていたが、最後には毅然とした態度で女の肩を押し、去って行った。その夜はそれで終わりだった。魚は餌には掛からなかったというわけだ。
だから名前は釣り堀を変えた。夜半の宴会の供も、手管を使う相手も変わった。まだ成就までは至っていないが、もう直ぐそこまで近付いている。果実の収穫に舌なめずりをする名前に、置いてけぼりの荀彧が久々に声を掛けたというわけだ。
「絆が深まったと思っていたのは私だけだったのですか」
「一瞬で解けてしまうものよ、男女の仲なんて」
「他の男で私の代えが効くというのですか」
「さあね。やってみないと分からないわ」
激情に任せ、壁に押し付けられて端正な顔が迫った。廊下の奥、ひっそりとした城の隅。誰が通るか分からないこんな場所で、理性の塊のような男の目に怒りが灯っていた。
「私のことは戯れだったのですか」
「どうかしら」
身長差のある首に手を掛けると、荀彧がぴくりと反応した。しかし今日は振り払われない。そのまま耳元に顔を寄せると、淫魔の呪詛が名前の口から躍り出た。
「遊びになるか本気になるか、全ては貴方次第よ」
さあ、どうする?
巻き付いた腕が体を圧迫した。分別と情欲の間で男が葛藤するのを肌で感じ、名前はほくそ笑む。ねえ、早くキスして。怜悧なその心にも、恋が燃え盛る日が来たのだと証明してみせて。首に回した腕を緩めると目が合い、女の魔力に掛かった男の論理が蕩ける。背中に回った手が震え始めて、名前は既に賭けに勝った快楽に酔い痴れていた。
𝐾𝑖𝑠𝑠 𝑀𝑒 𝑄𝑢𝑖𝑐𝑘・・・幻の恋
出会い頭から眉根を寄せて問い詰められて鼻白んだ。無視して横を通り過ぎようとすると腕を捕まれる。いつに無い必死な面持ちに、この男もこんな顔をするのだと意外だった。
「離して」
「質問に答えて下さい」
「何のことだか分からない」
「心当たりがお有りでしょう」
確かに、ある。思い出して薄ら笑うと、掴まれた腕が強くなった。しかし痛くはない、この絶妙な心遣いこそがこの男に余計な部分なのだと名前は常々思っていた。
「誰かに見られたら誤解されるわ」
「何が誤解だと言うのでしょう。私達の間には既に問題があったというのに」
「"ありそう"になって、貴方が断った。だから私達の間には"まだ"何も無いのよ」
荀彧を誘ったのは幾晩前だったか、はっきりと覚えていない。いつものように肴を用意して、酒を嗜み語り合った。そして寝台へと縺れ込む段になったとき、彼は自分の部屋へ素直に帰ろうとした。引き止め、名前の中の女が久々に顔を出した。流し目を送り、しなだれ掛かって、夜を孤独に過ごす寂しさを謳った。はじめ男は顔を赤らめ恥じらっていたが、最後には毅然とした態度で女の肩を押し、去って行った。その夜はそれで終わりだった。魚は餌には掛からなかったというわけだ。
だから名前は釣り堀を変えた。夜半の宴会の供も、手管を使う相手も変わった。まだ成就までは至っていないが、もう直ぐそこまで近付いている。果実の収穫に舌なめずりをする名前に、置いてけぼりの荀彧が久々に声を掛けたというわけだ。
「絆が深まったと思っていたのは私だけだったのですか」
「一瞬で解けてしまうものよ、男女の仲なんて」
「他の男で私の代えが効くというのですか」
「さあね。やってみないと分からないわ」
激情に任せ、壁に押し付けられて端正な顔が迫った。廊下の奥、ひっそりとした城の隅。誰が通るか分からないこんな場所で、理性の塊のような男の目に怒りが灯っていた。
「私のことは戯れだったのですか」
「どうかしら」
身長差のある首に手を掛けると、荀彧がぴくりと反応した。しかし今日は振り払われない。そのまま耳元に顔を寄せると、淫魔の呪詛が名前の口から躍り出た。
「遊びになるか本気になるか、全ては貴方次第よ」
さあ、どうする?
巻き付いた腕が体を圧迫した。分別と情欲の間で男が葛藤するのを肌で感じ、名前はほくそ笑む。ねえ、早くキスして。怜悧なその心にも、恋が燃え盛る日が来たのだと証明してみせて。首に回した腕を緩めると目が合い、女の魔力に掛かった男の論理が蕩ける。背中に回った手が震え始めて、名前は既に賭けに勝った快楽に酔い痴れていた。
𝐾𝑖𝑠𝑠 𝑀𝑒 𝑄𝑢𝑖𝑐𝑘・・・幻の恋
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