ネバーランドで待ち合わせ
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「義父上!参りますぞ!」
「父と呼ばれる筋合いはない!」
庭で男達が愉快な掛け合いを繰り広げている。名前は洗濯物を畳みながらそれを眺めていた。いつもの風景だ。男達が武器を構えていないのならもっと長閑になるのだが。
「おうおう、今日もやってるねえ」
張虎が柵に寄りかかりながら見物している。見てないで貴方も鍛錬なさいよ。
張家には二人の子供がいる。嫡男である張虎、そして渦中にある娘。
適齢期に差し掛かった娘はある日一人の男を連れてきた。家柄はいいが弱腰で、家名だけで地位が成り立っているような文官だった。男を夫は初対面で一睨み、それだけで退散してあと梨の礫だった。
二人目は色男だった。街で出会ったと言う。門構えにも負けじと入ってきたはいいものの、『仕事は』『娘をどう思っている』『男の矜持とは』『張家の娘を娶る覚悟はあるか』と矢継ぎ早に質問されて引き気味だった。面倒な家だと判断されたのだろう、二度目の邂逅はならなかった。
三度目の正直で連れて来られたのは新進気鋭の将だった。娘は志を父と同じくして戦場に立っている。混乱の最中背中合わせになって戦い、芽生えるものがあったのだそうな。爽やかではきはきとして、鬼神張遼にも物怖じしない。これは相応しい婿が来たと名前も喜んでいたのだが、夫は一向に首を縦に振らない。
「ならん」
「何がいけないというのです」
「そなたはまだ子供だ。他家に出せる齢ではない」
名前は脱力した。張遼の記憶は息子に対しては成長が見られるものの娘に対しては止まっている。まだ赤ん坊だと思っているような節があるのだ。
「『父上と結婚する』と息巻いていたのがつい先日の話。張家の娘ともあろう者が、言葉を違えようと言うのか」
「父上、十年も前の話を蒸し返さないで下さい」
正論が返って来て夫が黙る。娘も今年で十九になる。三国の世ではむしろ行き遅れに差し掛かっている年齢と言えよう。名前は自分がこちらの常識に合わない結婚をした分、娘には険しい道のりを歩んで欲しくないという気持ちを持っていた。
「張遼殿、どうかお許し下され」
「くどい!」
張遼が卓を拳で叩いた。湯呑みに入った茶が揺れる。日頃礼儀を重んじる張遼がここまで激情を顕わにするのは珍しいことだ。
「どうしてもと言うならばこの私を倒していくがいい!戦に出る機が減ろうとも、この張文遠、若造に負ける気はせんぞ!」
(ああ、やっぱりこうなっちゃった)
これではまた婿殿が帰ってしまう。娘の結婚が遠ざかる音を聞いて名前は目眩がした。
張遼は張虎と娘が幼い時分から前線を退き、家を離れるほど遠方に赴くことはなくなった。だが空いている時間は殆ど鍛錬に当て、兵達の訓練は怠らず、近くで賊が出るとあれば嬉々としてうって出て行った。未だ李典や楽進との手合わせに勤しみ、息子への指導も手を抜かない。休みの日は慈愛に満ちた父であり夫でありながら、その手から武器が離れたことは一度もなかった。
「名前、鎧を持て!」
興奮する張遼を久々に見てどうしたものかと悩みながら、娘の恋人の背中を垣間見た。どうか帰ると言わないでくれ。冷や冷やしていると、その背が勢い良く立ち上がった。
「その勝負、受けて立ちましょう!」
どうやら今回の男は正解だったようだ。張虎がひゅう、と口笛を吹いた。
「父と呼ばれる筋合いはない!」
庭で男達が愉快な掛け合いを繰り広げている。名前は洗濯物を畳みながらそれを眺めていた。いつもの風景だ。男達が武器を構えていないのならもっと長閑になるのだが。
「おうおう、今日もやってるねえ」
張虎が柵に寄りかかりながら見物している。見てないで貴方も鍛錬なさいよ。
張家には二人の子供がいる。嫡男である張虎、そして渦中にある娘。
適齢期に差し掛かった娘はある日一人の男を連れてきた。家柄はいいが弱腰で、家名だけで地位が成り立っているような文官だった。男を夫は初対面で一睨み、それだけで退散してあと梨の礫だった。
二人目は色男だった。街で出会ったと言う。門構えにも負けじと入ってきたはいいものの、『仕事は』『娘をどう思っている』『男の矜持とは』『張家の娘を娶る覚悟はあるか』と矢継ぎ早に質問されて引き気味だった。面倒な家だと判断されたのだろう、二度目の邂逅はならなかった。
三度目の正直で連れて来られたのは新進気鋭の将だった。娘は志を父と同じくして戦場に立っている。混乱の最中背中合わせになって戦い、芽生えるものがあったのだそうな。爽やかではきはきとして、鬼神張遼にも物怖じしない。これは相応しい婿が来たと名前も喜んでいたのだが、夫は一向に首を縦に振らない。
「ならん」
「何がいけないというのです」
「そなたはまだ子供だ。他家に出せる齢ではない」
名前は脱力した。張遼の記憶は息子に対しては成長が見られるものの娘に対しては止まっている。まだ赤ん坊だと思っているような節があるのだ。
「『父上と結婚する』と息巻いていたのがつい先日の話。張家の娘ともあろう者が、言葉を違えようと言うのか」
「父上、十年も前の話を蒸し返さないで下さい」
正論が返って来て夫が黙る。娘も今年で十九になる。三国の世ではむしろ行き遅れに差し掛かっている年齢と言えよう。名前は自分がこちらの常識に合わない結婚をした分、娘には険しい道のりを歩んで欲しくないという気持ちを持っていた。
「張遼殿、どうかお許し下され」
「くどい!」
張遼が卓を拳で叩いた。湯呑みに入った茶が揺れる。日頃礼儀を重んじる張遼がここまで激情を顕わにするのは珍しいことだ。
「どうしてもと言うならばこの私を倒していくがいい!戦に出る機が減ろうとも、この張文遠、若造に負ける気はせんぞ!」
(ああ、やっぱりこうなっちゃった)
これではまた婿殿が帰ってしまう。娘の結婚が遠ざかる音を聞いて名前は目眩がした。
張遼は張虎と娘が幼い時分から前線を退き、家を離れるほど遠方に赴くことはなくなった。だが空いている時間は殆ど鍛錬に当て、兵達の訓練は怠らず、近くで賊が出るとあれば嬉々としてうって出て行った。未だ李典や楽進との手合わせに勤しみ、息子への指導も手を抜かない。休みの日は慈愛に満ちた父であり夫でありながら、その手から武器が離れたことは一度もなかった。
「名前、鎧を持て!」
興奮する張遼を久々に見てどうしたものかと悩みながら、娘の恋人の背中を垣間見た。どうか帰ると言わないでくれ。冷や冷やしていると、その背が勢い良く立ち上がった。
「その勝負、受けて立ちましょう!」
どうやら今回の男は正解だったようだ。張虎がひゅう、と口笛を吹いた。
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